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iDeCoの積立NISAへの移管は可能?制度間の資金移動のルール

「iDeCoとNISA、どっちも非課税って聞くけど、口座間の移動ってどうなるの?」
iDeCo(個人型確定拠出年金)とNISA(少額投資非課税制度)は、どちらも資産形成に役立つ税制優遇制度です。両方を活用している方も多いですが、「iDeCoからNISAへ、またはNISAからiDeCoへ」といった、制度間での資産の直接移動はできるのか、疑問に思うかもしれません。特に、iDeCoで積み立てた老後資金をNISAで柔軟に使いたいと考える場合、その資金移動のルールは気になるところでしょう。
この記事では、iDeCoからNISAへの直接移管はできないことを明確にします。その上で、iDeCoの資産を現金化してNISAで再投資するという考え方とその際の税制上の注意点、そしてそれぞれの制度の目的の違いを再確認し、賢い資金移動のルールと最適な活用法を提案します。
iDeCoからNISAへの直接移管はできない

結論から言うと、iDeCo口座で保有している資産をNISA口座へ、あるいはNISA口座からiDeCo口座へ、直接移し替えることはできません。
iDeCoとNISAは、それぞれ異なる法律に基づいて運営されている、独立した税制優遇制度だからです。異なる種類の確定拠出年金(企業型DCとiDeCo)間での「移換」は可能ですが、iDeCoとNISAのような「非課税投資制度」と「私的年金制度」の間では、資産を直接やり取りする仕組みは設けられていません。
現金化してNISAで再投資するという考え方

iDeCoからNISAへ直接資産を移すことはできませんが、iDeCoの資産を一度現金化し、その現金を使ってNISA口座で改めて投資するという方法はあります。ただし、これにはiDeCoの特性上、いくつかの条件や注意点があります。
iDeCoの資産を引き出す時期と条件
・iDeCoの資産は、原則として60歳まで引き出すことができません。
・そのため、iDeCoの資産を現金化してNISAで再投資できるのは、基本的に60歳以降、老齢給付金として受け取りを開始した後になります。
現金化からNISAで再投資する流れ
1.iDeCo資産の受け取り: 60歳以降にiDeCoの資産を、一時金または年金として受け取ります。この時、受け取った金額には税金がかかる可能性があります(退職所得控除や公的年金等控除の適用後)。
2.NISA口座への入金: iDeCoから受け取った現金を、NISA口座を開設している金融機関の口座に入金します。
3.NISA口座で再投資: 入金した現金を使って、NISAの年間投資枠(つみたて投資枠最大120万円、成長投資枠最大240万円)内で、改めて投資商品を購入します。
税金がかかる可能性と注意点
・iDeCoの受け取り時に課税される可能性: iDeCoの資産を受け取る際、退職所得控除や公的年金等控除の枠を超えた金額には、所得税や住民税がかかります。NISAでの再投資を目的としても、この税金は発生します。
・NISAの年間投資枠の制約: iDeCoから受け取った金額がNISAの年間投資枠(最大360万円)を超える場合、一度に全額をNISAで再投資することはできません。複数年に分けて投資する必要が生じます。
・非課税枠の消費: NISAで再投資する際は、新たな非課税投資枠を消費することになります。この方法は、iDeCoの老後資金を、受け取り後にNISAの非課税枠を使いながら、より柔軟な資産として運用したい場合に検討されます。
それぞれの制度の目的の違いを再確認

iDeCoとNISAは「非課税で増やす」という共通点があるものの、その根本的な目的と制度設計が異なります。この違いを再確認することで、なぜ直接移管できないのか、そしてそれぞれの制度をどう活用すべきかがより明確になります。
iDeCoの目的:老後資金の「確実な確保」
・資金使途の限定: 老後資金に限定され、原則60歳まで引き出せません。
・3段階の税制優遇: 掛金拠出時の所得控除、運用益非課税、受け取り時の控除と、入口から出口まで手厚い税制優遇があります。特に掛金控除は、現役時代の税金を確実に減らすiDeCo最大のメリットです。
・目的: 税制優遇を通じて、国が個人の老後資金準備を強制的に後押しするという側面が強い制度です。
NISAの目的:幅広い資産形成の「柔軟な支援」
・資金使途の自由度: 老後資金だけでなく、教育資金、住宅資金など、ライフイベントに合わせた幅広い目的で活用でき、原則いつでも引き出し可能です。
・運用益の非課税: 税制優遇は運用益のみに特化しています(掛金控除はなし)。
・目的: 投資を通じて、国民が自らの意思で多様な資産形成を行うことを支援するという側面が強い制度です。
まとめ:iDeCoとNISAは異なる役割、連携で最大効果を
iDeCoとNISAの間で資産を直接移管することはできません。iDeCoの資産をNISAで運用したい場合は、基本的に60歳以降にiDeCoから受け取った現金をNISAで再投資することになります。
・iDeCo: 老後資金を「確実に」「税制優遇を最大限に」貯めるための制度です。現役時代の節税効果が最大の魅力。
・NISA: 幅広い目的の資金を「柔軟に」「非課税で」増やすための制度です。資金の自由度が最大の魅力。
両制度は異なる役割を持つため、それぞれの強みを理解し、あなたのライフプランに合わせて活用することが重要です。現役時代はiDeCoで所得控除を最大限に活用し老後資金の土台を築き、NISAで柔軟性の高い資産を形成することで、より効率的かつ多角的に未来に備えることができるでしょう。
本記事は、CFP資格保有者であり、J-FLEC認定アドバイザーの金子賢司が執筆しています。