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iDeCoでポートフォリオが含み損!「塩漬け」を避ける判断基準

iDeCo(個人型確定拠出年金)で積立投資を続けていると、市場の変動によって、運用しているポートフォリオが一時的に「含み損」を抱えることがあります。こんな時、「塩漬け(損失が出ている状態のまま、何もせずに保有し続けること)」にしていいのか、それとも何か手を打つべきなのか、多くの方が悩みます。
この記事では、iDeCoで含み損を抱えた際に、「塩漬け」を避けて適切な判断を下すための基準を解説します。含み損を抱えた場合の心理的葛藤を理解し、「損切り」とは異なる「スイッチング」の検討について詳しく見ていきます。さらに、長期運用における一時的な含み損の考え方まで、あなたのiDeCo運用を合理的に続けるための戦略を提案します。
含み損を抱えた場合の心理的葛藤

iDeCoのポートフォリオが含み損になると、誰しもが心理的なストレスを感じます。これは、投資家が陥りやすいいくつかの心理バイアスが働くためです。
損失回避バイアス
・心理: 人間は、利益を得る喜びよりも、同額の損失を避ける苦痛の方が、より強く感じます。 含み損を抱えると、この「損失」から逃れたいという気持ちが強く働きます。
・葛藤: 「損を確定させたくない」という思いが強すぎるあまり、値下がりした商品をいつまでも保有し続けてしまい、「いずれ戻るだろう」と根拠なく期待して「塩漬け」状態にしてしまいがちです。しかし、これがさらに大きな損失につながることもあります。
サンクコストの誤謬(ごびゅう)
・心理: すでに投じた費用(サンクコスト)を取り戻そうとして、非合理的な判断をしてしまう傾向です。
・葛藤: 含み損になっている商品に対し、「ここまで積み立てたのに、ここでやめるのはもったいない」「元が取れるまで待とう」と考えてしまい、冷静な判断が難しくなります。過去の投資額に囚われて、未来の合理的な選択を見失ってしまうことがあります。
現状維持バイアス
・心理: 人間は、変化を避け、現在の状態を維持しようとする傾向があります。
・葛藤: 含み損があるからといって、運用商品を変更したり、積立設定を見直したりする手間を避け、「このまま何もしない」という選択をしてしまいがちです。
これらの心理的葛藤は、多くの場合、投資判断を誤らせ、「塩漬け」という非効率な状態を招く原因となります。
「損切り」はできないが、「スイッチング」の検討

iDeCoは、原則60歳まで資金を引き出せないため、株式投資のように「損切り(損失を確定させて売却すること)」はできません。しかし、含み損を抱えた運用商品から、別の運用商品へ変更する「スイッチング」は可能です。これは「損切り」とは根本的に異なる考え方です。
iDeCoの「スイッチング」とは?
・仕組み: 運用中の投資信託などの商品を売却し、その資金で別の投資信託などを購入することです。iDeCo口座内で資産が移動するだけで、外部に資金を引き出すわけではありません。
・税金: スイッチングによる売却益(含み益が出ていた場合)に対しても、iDeCo口座内での取引であるため、税金はかかりません。課税口座での損切りとは税制上の扱いが全く異なります。
・目的: ポートフォリオのリバランス(資産配分の調整)や、より魅力的な運用商品への変更、運用方針の変更などが主な目的です。
「塩漬け」を避けるためのスイッチング検討
含み損を抱えたからといって、すぐにスイッチングすべきとは限りません。しかし、「塩漬け」状態に陥るのを避けるために、以下のケースではスイッチングを検討する余地があります。
1.当初の投資目的や運用方針とズレが生じた場合:
例:当初はリスクを取って成長を目指す方針だったが、ライフステージの変化(結婚、出産、住宅購入など)でリスクを抑えたい場合。
2.運用商品の選択に誤りがあったと判断した場合:
・例:特定の商品が、同ジャンルの他商品と比較して明らかにパフォーマンスが悪い、あるいはコストが高いことが判明した場合。
・例:テーマ型ファンドなど、一時的な流行で選んだ商品が、将来性を見込めなくなった場合。
3.特定の資産クラスに偏りすぎた場合(リバランス目的):
例:特定の資産(例:日本株)が大きく値下がりし、ポートフォリオ全体におけるその資産の比率が大幅に変わってしまった場合。ポートフォリオの目標配分に戻すために、一部を売却(スイッチング)して別の資産を買い増すことを検討します。これは「規律あるリバランス」の一環であり、感情的判断ではありません。
注意点: 含み損が出ているからといって、市場のトレンドが一時的に悪いだけで、商品自体に問題がない場合は、安易なスイッチングは避けるべきです。焦らず、冷静に判断することが重要です。
長期運用における一時的な含み損の考え方

iDeCoは長期投資が大前提であり、その期間中には市場の変動による一時的な含み損は避けられないものです。
「通過点」と捉える
・市場のサイクル: 株式市場は、「好景気→株価上昇→過熱→下落→停滞→回復」といったサイクルを繰り返してきました。含み損は、このサイクルの「下落」「停滞」期における一時的な通過点に過ぎません。
・歴史から学ぶ: 過去の歴史を振り返ると、大規模な経済危機や市場暴落があっても、長期的に見れば株式市場は回復し、成長を続けてきました。この事実を信頼することが、含み損局面での冷静さを保つ土台となります。
「ドルコスト平均法」の恩恵を信じる
前述の通り、iDeCoの自動積立はドルコスト平均法を実践します。
・含み損の時こそ「買い増しのチャンス」: 価格が下がっている時こそ、同じ掛金でより多くの口数(株数)を購入できる「バーゲンセール」状態です。積立を継続することで、平均購入単価が引き下がり、市場が回復した際には、より大きな含み益を生み出す可能性が高まります。
・積立停止の危険性: 含み損が出たからと積立を停止してしまうと、最も安い価格で買い付けられるチャンスを逃し、将来の平均購入単価の引き下げ効果を得られなくなります。これは、長期的な視点で見れば大きな機会損失となり得ます。
ドルコスト平均法については、以下の記事も参考にしてください。
ドルコスト平均法とは?時間分散で賢く資産形成!
運用商品の見直し(リバランス)は冷静に
含み損が出た時こそ、ポートフォリオ全体を見直し、当初の資産配分から大きく乖離していないか確認しましょう。
・感情ではなくルールで: あらかじめ設定した「〇%乖離したらリバランスする」といった機械的なルールに基づき、ポートフォリオのバランスを調整することを検討しましょう。これにより、感情的な判断に流されることを防げます。
・運用方針の確認: 含み損が出たことで、改めて自身の運用方針やリスク許容度と、現在保有している運用商品が合致しているか確認する良い機会にもなります。
まとめ:iDeCoの含み損は「成長痛」と捉え、冷静な判断を
iDeCoの運用で含み損を抱えることは、長期投資における避けられない「成長痛」のようなものです。大切なのは、その際に感情に流され「塩漬け」にしてしまうのではなく、冷静かつ合理的な判断を下すことです。
・損失回避バイアスやサンクコストの誤謬といった心理的な罠を理解し、それに打ち克つ意識を持ちましょう。
・iDeCoでは「損切り」はできませんが、戦略的な「スイッチング」は可能です。ポートフォリオの目的とズレが生じた場合や、明らかな商品選択の誤りがあった場合に検討しましょう。
・含み損は「長期運用の通過点」であり、「ドルコスト平均法による買い増しのチャンス」でもあるという視点を持つことが、iDeCo運用成功の鍵です。
感情に流されず、冷静な判断でiDeCoの資産を育て、豊かな老後を築いていきましょう。
本記事は、CFP資格保有者であり、J-FLEC認定アドバイザーの金子賢司が執筆しています。