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2028年施行予定の遺族年金改正:年収500万円の夫が亡くなった場合、妻の年金はどう変わる?

年金制度が大きく変わろうとしています。2028年4月に施行予定の遺族年金の見直しは、特に共働き世帯や子どものいないご家庭にとって重要な変更となるでしょう。本記事では、年収500万円の夫が亡くなったケースを例に、遺族年金がこれまでとどう変わるのかを具体的に試算。改正のポイントや注意点、そして今からできる対策まで、わかりやすく解説します。
遺族年金とは
遺族年金は、年金に加入していた方が亡くなった際に、その方によって生計を維持されていた遺族に支給される年金です。遺族年金には「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」の2種類があります。
- 遺族基礎年金: 国民年金に加入している全ての方が対象で、亡くなった方に18歳になった年度末までの子どもがいる場合に、配偶者または子どもに支給されます。今回の見直しの直接的な対象ではありません。
- 遺族厚生年金: 厚生年金に加入している会社員や公務員が亡くなった場合に、配偶者や子どもなどに支給されます。今回の見直しの主な対象です。
遺族厚生年金の見直しポイント
今回の見直しは、共働き世帯の増加といった社会情勢の変化に対応し、男女間の給付要件の格差を解消することを主な目的としています。
年齢による給付期間の変更(子どものいない配偶者の場合)
これまで、子どものいない30歳以上の妻は遺族厚生年金を無期限で受給できましたが、見直し後は、子どものいない配偶者(男性・女性共通)の場合、原則として60歳未満であれば5年間の有期給付となります。ただし、60歳以上で受給権が発生する方や、障害状態にある方、収入が十分でない方には継続給付の措置があります。
施行直後(2028年4月)の対象者
- 女性の場合:18歳年度末までの子どもがいない、2028年度末時点で40歳未満の方(年間約250人と推計)。20代の方は現行制度でも5年間の有期給付です
- 男性の場合:18歳年度末までの子どもがいない60歳未満の方(年間約1万6千人と推計)
見直しの影響を受けない方
- すでに遺族厚生年金を受給している方
- 60歳以降に遺族厚生年金の受給権が発生する方
- 18歳年度末までの子どもを養育する間の給付内容
- 2028年度に40歳以上になる女性
男女間格差の解消
これまで、妻と死別した夫は55歳以上でなければ給付の対象にならないなど、男女間で受給要件に差がありましたが、見直し後はこの点が男女共通となります。これにより、性別にかかわらず同様の要件で遺族厚生年金が支給されるようになります。
遺族年金受給額の試算(年収500万円の夫が20年勤務後に死亡、子なしの妻の場合)
見直し後の遺族厚生年金の給付額は、従来の約1.3倍に増額されます。しかし、給付期間が原則5年間に限定されるため、受給総額は大きく減少する可能性があります。
【前提条件】
- 夫:年収500万円(月約41.67万円)、22歳から20年間厚生年金保険料を支払い死亡
- 妻:夫と同い年、子どもなし。
【従来の受給額】
- 報酬比例部分:月約41.67万円 × 5.481 ÷ 1000 × 240ヶ月 = 約54万9,000円(年額)
- 遺族厚生年金(報酬比例部分の3/4):約54万9,000円 × 3/4 = 約41万1,750円(年額)
- 中高齢寡婦加算:年62万3,800円(65歳まで)
- 受給年額(42歳~65歳):約41万1,750円 + 約62万3,800円 = 約103万5,550円
- 受給総額(23年間):約103万5,550円 × 23年 = 約2,381万7,650円
【見直し後の受給額】
- 給付額の増額:約41万1,750円 × 1.3 = 約53万5,275円(年額)
- 給付期間:5年間
- 受給総額:約53万5,275円 × 5年 = 約267万6,375円
この試算では、65歳までに限定しても、見直し後の方が受給総額が約2,100万円以上減少する可能性があります。また、中高齢寡婦加算は最終的に廃止されます。
あくまでも、ここで計算した金額は概算です。実際の厚生年金の計算では平均標準報酬月額や再評価率などで異なることをご了承ください。
例外的な措置と見直し完了時期
- 施行時期: 2028年4月より施行されます。
- 例外措置: 収入が十分ではないなど、配慮が必要な方には、5年目以降も最長で65歳まで給付が継続されます。
- 具体的には、単身の場合で就労収入が月額約10万円(年間122万円、2025年度税制改正反映後見込み132万円)以下の方は、継続給付が全額支給されます。収入が増加するにつれて年金額は調整されますが、概ね月額20~30万円を超えると継続給付は全額支給停止となります。
- 段階的実施: 制度見直しは段階的に行われ、見直しが完了するのは施行からさらに25年後とされています。
- 子どもがいる場合: 18歳年度末までの子どもがいる場合は、子どもが18歳になる年度末までは現行制度と変わらず、見直しの影響はありません。
子どもが18歳になった後、さらに5年間は増額された有期給付+継続給付の対象となります。また、遺族基礎年金の「子どもがいる場合の加算額」も増額(年23.5万円→28万円)されます。
まとめと対策
遺族厚生年金の見直しは、今後の社会情勢の変化に対応するための重要な改正です。これにより、子どものいない配偶者の場合、将来的には受給額が大幅に減少する可能性があります。
現役世代の方は、以下の対策を検討することをおすすめします。
- 夫婦で年金額を把握する: 夫婦がお互いの年金額を把握しておくことで、万が一の際の支給額がどれくらいになるかを事前に確認できます。日本年金機構の「ねんきんネット」や「年金定期便」を活用しましょう。
- 老後資金を計画的に貯める: 遺族年金の受給期間が限定されることを考慮し、1歳でも若いうちから資産形成や投資(NISA制度の活用など)を始めることが重要です。
- 健康管理を心がける: 高齢化社会において、長く働き続けることができる体力と気力を維持することは、あらゆる制度改正に対応するための基盤となります。
今回の見直しは、夫が一家の家計を支えることを前提とした従来の制度から、女性の就業や共働き世帯の増加を背景としたものと捉えられます。自身の状況を踏まえ、どのような影響があるのかを理解し、今後のライフプランを考えるきっかけとしてみてはいかがでしょうか。
遺族年金の見直しについては、厚生労働省の「遺族厚生年金の見直しについて」も参考にしてください。