公的年金制度
離婚時の年金分割制度とは?手続き方法・必要書類・注意点を徹底解説

離婚は人生における大きな転機ですが、年金に関する取り決めを見落としてしまうケースは少なくありません。特に「年金分割制度」は、離婚後の老後生活を左右する重要な制度でありながら、手続きの複雑さから十分に活用されていないのが現状です。本記事では、年金分割の仕組みから具体的な手続き方法、そして後悔しないための注意点まで詳しく解説します。
離婚時に見落とされがちな「年金」の問題

離婚を検討する際、慰謝料や財産分与、養育費などに意識が向きがちですが、将来の年金についても同様に重要な検討事項となります。婚姻期間中は夫婦で協力して生活を支えてきたにもかかわらず、離婚後に年金受給額に格差が生じるのは公平とはいえません。
例えば、会社員の配偶者と専業主婦(主夫)の夫婦が離婚した場合、会社員だった側は厚生年金を全額受給できる一方、専業主婦(主夫)だった側は基礎年金(国民年金)のみの受給となってしまいます。こうした不公平を是正するために設けられたのが「年金分割制度」です。
年金分割制度とは?離婚後の年金を公平に分ける仕組み

年金分割制度は、離婚した場合に婚姻期間中の厚生年金の標準報酬を分割し、それぞれの年金として受け取れるようにする制度です。ここでは制度の目的と対象となる年金について説明します。
制度の目的と対象となる年金(厚生年金・旧共済年金のみ)
年金分割制度の目的は、離婚後の生活の安定と公平性の確保にあります。婚姻期間中に夫婦が協力して保険料を納付してきた実績を認め、将来受け取る年金額の格差を縮小することを目指しています。
分割の対象となるのは、厚生年金(旧共済年金を含む)の「標準報酬」の記録に限られます。具体的には、婚姻期間中に夫婦それぞれが納付した厚生年金の保険料納付記録を分割することで、将来の年金額に反映させる仕組みとなっています。分割割合の上限は50%(2分の1)と定められており、これを超える分割はできません。
出典:法務省「年金分割」
国民年金は分割できない理由
年金分割制度で分割できるのは厚生年金部分のみであり、国民年金(基礎年金)は分割の対象外となります。その理由は、国民年金が個人単位で管理・運営される制度だからです。
国民年金は20歳以上60歳未満のすべての国民が加入する制度で、保険料は一律となっています。一方、厚生年金は給与に応じた保険料を納付し、その記録が個人に紐づけられる仕組みです。婚姻期間中の厚生年金保険料は「夫婦の共同財産」として扱われるため、離婚時に分割が認められているのです。
また、企業年金(確定給付企業年金、確定拠出年金など)や国民年金基金、厚生年金基金も年金分割の対象外となっています。これらは財産分与の対象として別途協議する必要があります。
合意分割と3号分割:2種類の年金分割

年金分割には「合意分割」と「3号分割」の2種類があり、それぞれ対象となる期間や手続き方法が異なります。どちらの方法が適用されるかは、婚姻期間中の被保険者の種別や婚姻時期によって決まります。
合意分割(夫婦の話し合いで按分割合を決定)
合意分割は、平成19年(2007年)4月1日以降に離婚した夫婦を対象とした制度で、婚姻期間中の厚生年金の標準報酬を、当事者間の合意または裁判手続きによって分割する方法です。分割の対象となる期間は、平成19年4月1日より前の期間も含む婚姻期間全体となっています。
合意分割の特徴は以下のとおりです。
・夫婦双方の合意、または家庭裁判所の審判・調停によって按分割合を決定する
・按分割合の上限は50%(2分の1)
・話し合いで合意できない場合は、家庭裁判所に調停または審判を申し立てることが可能
・婚姻期間全体(平成19年4月1日より前の期間を含む)が対象
実際の調停・審判では、特別な事情がない限り按分割合は50%とされるケースが多くなっています。
3号分割(専業主婦等、相手の合意なく分割可能)
3号分割は、平成20年(2008年)4月1日以降に国民年金の第3号被保険者であった期間について、相手の合意なく自動的に2分の1ずつ分割できる制度です。第3号被保険者とは、厚生年金加入者である配偶者に扶養されている20歳以上60歳未満の方を指します。
3号分割の特徴は以下のとおりです。
・第3号被保険者であった方からの請求のみで分割可能(相手の合意不要)
・按分割合は自動的に2分の1(50%)
・平成20年4月1日以降の第3号被保険者期間のみが対象
・平成20年3月31日以前の期間は合意分割で対応が必要
平成20年4月1日より前に婚姻していた場合、その期間については3号分割の対象外となるため、合意分割の手続きが必要になります。3号分割と合意分割の両方が該当する場合は、合意分割を請求すると3号分割も同時に請求したものとみなされます。
年金分割の具体的な手続きと必要書類

年金分割は離婚が成立すれば自動的に行われるものではなく、年金事務所での手続きが必要です。ここでは手続きの期限と具体的な流れについて解説します。
離婚成立後2年以内という期限
年金分割の請求は、原則として離婚をした日の翌日から2年以内に行う必要があります。この期限を過ぎると請求できなくなるため、十分な注意が求められます。
また、離婚成立後に相手方が死亡した場合は、死亡日から1か月以内に請求しなければなりません。調停や裁判で年金分割を定めた場合でも、年金事務所への請求手続きを行わなければ分割は実現しないため、離婚後は速やかに手続きを進めることが重要です。
なお、以下のような場合には請求期限の特例が適用されます。
・離婚から2年を経過するまでに按分割合に関する審判・調停を申し立てていた場合:審判確定日または調停成立日の翌日から6か月以内であれば請求可能
年金事務所での手続きの流れ
年金分割の手続きは、以下の流れで進めていきます。
【ステップ1】年金分割のための情報通知書を請求する
まず、年金事務所に「年金分割のための情報提供請求書」を提出し、「年金分割のための情報通知書」を取得します。情報通知書には、分割対象となる期間や標準報酬総額、按分割合の範囲などが記載されており、年金分割の協議や手続きに必要な書類です。
情報通知書の請求に必要な書類は以下のとおりです。
・年金分割のための情報提供請求書
・マイナンバーカードまたは基礎年金番号通知書(年金手帳)
・婚姻期間を明らかにできる書類(戸籍謄本など、請求日前6か月以内に交付されたもの)
請求から情報通知書が届くまでは、おおむね3週間から4週間程度かかります。離婚前に請求した場合は請求者のみに交付され、離婚後に請求した場合は双方に交付されます。
【ステップ2】按分割合について合意する(合意分割の場合)
合意分割の場合は、夫婦間で「年金分割の請求をすること」と「按分割合」について合意する必要があります。話し合いで合意できない場合は、家庭裁判所に調停または審判を申し立てます。
【ステップ3】年金事務所に標準報酬改定請求書を提出する
按分割合が決まったら、年金事務所に「標準報酬改定請求書(離婚時の年金分割の請求書)」を提出します。提出に必要な書類は以下のとおりです。
【合意分割の場合】
・標準報酬改定請求書
・マイナンバーカードまたは基礎年金番号通知書(年金手帳)
・婚姻期間を明らかにできる書類(戸籍謄本など)
・請求日前1か月以内に交付された双方の生存を証明できる書類(戸籍謄本、住民票など)
・年金分割の割合を明らかにできる書類(公正証書の謄本、調停調書、審判書など)
【3号分割の場合】
・標準報酬改定請求書
・マイナンバーカードまたは基礎年金番号通知書(年金手帳)
・婚姻期間を明らかにできる書類(戸籍謄本など)
・請求日前1か月以内に交付された相手方の生存を証明できる書類
合意分割で公正証書や調停調書、審判書がある場合は、どちらか一方が単独で請求できます。年金分割の合意書(日本年金機構のホームページからダウンロード可能)を使用する場合は、原則として夫婦2人で年金事務所に出向く必要があります。
【ステップ4】標準報酬改定通知書を受け取る
手続き完了後、年金事務所から「標準報酬改定通知書」が双方に送付されます。この通知書には、年金分割によって改定された標準報酬の記録が記載されています。
年金分割で後悔しないための注意点

年金分割は将来の生活に影響する重要な手続きです。ここでは、後悔しないために押さえておきたいポイントを解説します。
離婚前に年金情報を確認する重要性
離婚を検討している段階で、早めに「年金分割のための情報通知書」を取得しておくことをお勧めします。離婚前であれば、請求者のみに通知書が交付されるため、相手に知られることなく年金分割後の見込み額を把握できます。
50歳以上で老齢年金の受給資格期間を満たしている方は、情報通知書と併せて年金見込額の試算を依頼することも可能です。この情報をもとに、離婚後の生活設計を具体的に検討できます。
また、離婚前に情報通知書を取得しておくことで、年金分割を含めた離婚条件の交渉をスムーズに進められるメリットがあります。情報通知書の有効期限は、離婚前に取得した場合は1年間となっているため、早めの取得を心がけましょう。
専門家への相談タイミング
年金分割の手続きは複雑なため、状況に応じて専門家への相談を検討することも有効です。以下のようなケースでは、弁護士や社会保険労務士などへの相談が役立ちます。
・相手方が年金分割に合意しない場合
・按分割合について争いがある場合
・離婚調停や訴訟を検討している場合
・複数の年金制度(厚生年金と共済年金など)に加入していた場合
・2年の請求期限が迫っている場合
特に請求期限が迫っている場合は、一刻も早く専門家に相談し、調停や審判の申し立てを行うことで期限の特例を活用できる可能性があります。
年金分割後の老後資金計画の見直し
年金分割を行った場合でも、受け取れる年金額は期待したほど増えないケースもあります。年金分割で増額されるのは厚生年金の報酬比例部分のみであり、将来の年金額を単純に半分にするものではありません。
年金分割後の生活を安定させるためには、以下の点について見直しを行うことが大切です。
・年金分割後の受給見込額を正確に把握する
・不足する老後資金を試算し、貯蓄計画を立てる
・iDeCo(個人型確定拠出年金)やNISAなどの資産形成制度の活用を検討する
・就労による収入確保の可能性を検討する
年金分割はあくまで老後の収入源の一つであり、それだけで十分な生活資金を確保できるとは限りません。離婚後の生活全体を見据えた資金計画を立てることが求められます。
まとめ:離婚後の生活設計を見据えた年金分割の知識
年金分割制度は、離婚後の年金受給額の格差を是正し、公平な老後生活を実現するための制度です。本記事の要点をまとめると以下のとおりです。
・年金分割の対象は厚生年金(旧共済年金を含む)のみで、国民年金は対象外
・「合意分割」と「3号分割」の2種類があり、それぞれ対象期間や手続き方法が異なる
・年金分割の請求は離婚成立後2年以内に行う必要がある
・手続きには「年金分割のための情報通知書」の取得が必要
・離婚前に情報通知書を取得しておくことで、計画的な準備が可能になる
年金分割は離婚後の生活を支える重要な制度ですが、手続きを行わなければ分割は実現しません。離婚を検討している方は、早めに年金事務所や専門家に相談し、将来の生活設計に役立てることをお勧めします。
出典:法務省「年金分割」
本記事は、CFP資格保有者であり、J-FLEC認定アドバイザーの金子賢司が執筆しています。当記事の執筆者「金子賢司」の情報は、CFP検索システムおよびJ-FLECアドバイザー検索システムにてご確認いただけます。北海道エリアを指定して検索いただくとスムーズです。
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