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長期金利が18年ぶりの高水準に上昇|住宅ローン金利や家計への影響を解説
2025年12月4日、日本の長期金利の代表的な指標である新発10年国債の利回りが一時1.935%まで上昇しました。これは2007年7月以来、約18年ぶりの高い水準となっています。背景には日銀の追加利上げ観測や財政への懸念があり、住宅ローン金利への影響も注目されています。
この記事では、長期金利上昇の要因と、住宅ローン金利や家計への影響について解説します。
長期金利とは
長期金利とは、資金の貸し借りの期間が1年を超える金融取引に適用される金利を指します。その代表的な指標が10年物国債の利回りであり、住宅ローンの固定金利や企業向け貸出金利など、さまざまな金融取引の基準として用いられています。
長期金利は、一般的に先行きの経済成長率や物価上昇率、国の財政状況などを基に市場で決まるとされています。経済成長率や物価上昇率が高くなったり、財政赤字が拡大したりすると、債券が売られて長期金利が上昇する傾向にあります。
出典:日本銀行「長期金利」
長期金利が18年ぶりの高水準に上昇した背景
2025年12月4日の東京債券市場において、新発10年物国債の流通利回りは一時1.935%まで上昇しました。この水準は2007年7月(1.960%)以来、約18年ぶりの高水準です。長期金利の上昇ピッチが速まっている背景には、複数の要因が絡み合っています。
日銀の追加利上げ観測
最も大きな要因として挙げられるのが、日銀の追加利上げ観測です。12月18日・19日に開催される金融政策決定会合において、政策金利が0.75%に引き上げられるとの見方が強まり、国債利回りの上昇につながりました。
植田和男日銀総裁は12月1日の会見で、利上げをしても「まだ緩和的な状況だ」との認識を示しており、今回の利上げで打ち止め感を出さない姿勢をにじませていると報じられています。市場では政策金利が1%を超える水準への利上げも、ある程度の時間をかけながら見込まれるとの観測が広がっており、長期金利の上昇を促しています。
財政悪化への懸念
長期金利の上昇には、財政への懸念も影響しています。高市政権が掲げる「責任ある積極財政」のもと、2025年度補正予算案では一般会計歳出が18兆3034億円に上り、新型コロナウイルス禍以降で最大規模となりました。財源のうち11兆6960億円は新規国債の追加発行で賄われる予定です。
当初予算と補正予算を合わせた国債発行額は約40兆円となり、前年度の42兆1390億円を下回るものの、市場の懸念を払拭できるかは不透明な情勢となっています。
国債入札への警戒
12月4日には30年国債の入札が予定されており、これを警戒した売りも長期金利の上昇につながったとみられます。ただし、入札結果は好調で、応札倍率は4.04と2019年以来最も強い需要を集める結果となりました。
長期金利上昇が住宅ローン金利に与える影響
住宅ローン金利は、金利タイプによって影響を受ける指標が異なります。固定金利と変動金利それぞれへの影響を確認しましょう。
固定金利への影響
住宅ローンの固定金利は、10年物国債の利回りなど長期金利を参考に決定されるとされています。長期金利が上昇すれば、固定金利も上昇する傾向にあります。
2024年7月の金融政策決定会合では「長期国債買入れの減額計画」が決定され、長期金利が上昇しやすい環境が整いました。実際に、昨年(2024年)から今年にかけて、住宅ローンの固定金利は上昇基調を強めています。今後も長期金利の動向次第では、さらなる上昇の可能性があります。
変動金利への影響
一方、変動金利は短期金利の影響を受けるため、長期金利の上昇が直接的に変動金利を押し上げるわけではありません。変動金利は多くの金融機関で「短期プライムレート」を指標に決定されており、日銀の政策金利の影響を受けやすい構造です。
日銀が追加利上げを実施すれば、短期プライムレートが上昇し、変動金利も引き上げられる可能性があります。実際に、2024年7月の利上げ以降、すでに変動金利を引き上げた金融機関も出てきています。
出典:住宅金融支援機構「"金利のある世界"でどう変わる?これからの住宅ローン選びを考えよう」
長期金利上昇時代の家計への影響と対策
長期金利の上昇は、住宅ローン以外にもさまざまな形で家計に影響を及ぼします。金利上昇時代における影響と対策を整理します。
住宅ローン返済額への影響
変動金利で住宅ローンを借り入れている場合、金利上昇に伴い返済額が増加する可能性があります。住宅金融支援機構のシミュレーションによると、金利が段階的に上昇した場合、返済総額が当初の見込みより数百万円増加するケースもあり得ます。
対策としては、繰上返済による借入残高の圧縮や、固定金利への借り換え検討などが挙げられます。家計に余裕がある場合は、金利上昇に備えて資金を確保しておくことも有効です。
預金金利への影響
金利上昇は預金者にとってはプラスの面もあります。各金融機関では預金金利の引き上げが進んでおり、定期預金や個人向け国債などの金融商品の利回りが改善しています。
物価上昇との関係
長期金利上昇の背景にはインフレ予想の高まりがあります。生鮮食品を除く消費者物価指数(CPI)の上昇率は、2022年4月から2025年10月まで3年7カ月連続で2%以上を維持しています。物価上昇が続く限り、日銀は利上げを継続せざるを得ないとの見方が強く、長期金利もさらに上昇する可能性があるといえます。
今後の見通し
10年国債の利回りは、節目となる2%が視野に入ってきています。今後の長期金利の動向は、以下の点に左右されるとみられています。
・日銀の追加利上げペースと到達点
・政府の財政運営方針と国債発行動向
・物価上昇率の推移と賃上げの動向
・海外金利の動向(特に米国長期金利)
日銀の植田総裁はかねてより、景気を熱しも冷ましもしない「中立金利」について「1〜2.5%くらいの間に分布している」との見方を示しており、段階的な利上げが続く可能性が示唆されています。一方で、賃上げによる家計の購買力向上が伴わなければ、金利上昇が景気に下押し圧力をかけるリスクも指摘されています。
まとめ
2025年12月4日に長期金利が約18年ぶりの高水準となる1.935%まで上昇しました。日銀の追加利上げ観測や財政悪化への懸念が背景にあり、住宅ローン金利への影響も懸念されています。
固定金利は長期金利の上昇に伴い上昇しやすく、変動金利も日銀の利上げが続けば引き上げられる可能性があります。住宅ローンを検討している方や、すでに借り入れている方は、今後の金利動向を注視しながら、家計への影響を慎重に見極める必要があるでしょう。



