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配当生活は実現可能?必要資金とNISAを活用した資産運用戦略

配当生活の基礎知識

配当生活を実現するためには、まず配当所得の基本的な仕組みと、必要となる資金規模を理解することが重要です。
配当所得とは何か
配当所得とは、株式や出資を保有することで法人から受け取る利益の配当や分配に係る所得を指します。具体的には、株式の配当金、投資信託の分配金、投資法人からの金銭分配などが該当する所得です。
配当所得の金額は、収入金額(源泉徴収税額を差し引く前の金額)から、株式などを取得するための借入金の利子を差し引いて計算されます。
配当生活に必要な資金の目安
配当生活を実現するために必要な資金は、目標とする年間生活費と配当利回りによって決まります。
一般的に高配当株といわれる銘柄の配当利回りは4%前後とされています。仮に年間生活費を300万円と設定した場合、配当利回り4%で運用するには7,500万円の投資資金が必要になる計算です。年間生活費が500万円であれば、1億2,500万円の投資元本が必要となります。
ただし、これらは税引き前の金額であり、実際には税金を考慮する必要があることに注意が必要です。
配当所得の税制

配当金には税金が課されるため、配当生活を計画する際は税制の理解が欠かせません。課税方式の選択によって税負担が変わる可能性もあります。
源泉徴収される税率
上場株式等の配当金を受け取る際には、支払時に所得税および復興特別所得税15.315%、住民税5%の合計20.315%が源泉徴収されます。
例えば、100万円の配当金を受け取った場合、源泉徴収後の手取り額は約79万6,850円となります。配当生活を計画する際は、この税負担を考慮した資金計画が欠かせません。
出典:No.1330 配当金を受け取ったとき(配当所得)|国税庁
配当所得の課税方式
配当所得には3つの課税方式があり、投資家が選択できます。
・申告不要制度:源泉徴収だけで納税を完了させる方法
・総合課税:他の所得と合算して累進税率を適用する方法。配当控除の適用を受けられる点が特徴です
・申告分離課税:20.315%の税率で分離して課税される方法。上場株式等の譲渡損失との損益通算が可能になります
課税総所得金額が一定額以下の場合、総合課税を選択して配当控除を受けることで税負担を軽減できる可能性があります。配当控除は、課税総所得金額1,000万円以下の部分については配当所得の10%(住民税2.8%)が控除されます。
出典:No.1331 上場株式等の配当等に係る申告分離課税制度|国税庁
NISAを活用した配当生活戦略

配当生活を目指す投資家にとって、NISAの非課税メリットは非常に大きな意味を持ちます。制度を正しく理解し、効果的に活用することが重要です。
NISAの非課税メリット
2024年から開始された新しいNISA制度は、配当生活を目指す投資家にとって非常に有効な制度です。NISA口座で保有する株式から得られる配当金は、原則として非課税となります。
新NISAでは、つみたて投資枠(年間120万円)と成長投資枠(年間240万円)を併用でき、年間最大360万円まで投資が可能となりました。非課税保有限度額は1,800万円(うち成長投資枠は1,200万円)となっています。
出典:NISA特設ウェブサイト:金融庁
配当金を非課税で受け取る条件
NISA口座で配当金を非課税で受け取るためには、配当金の受取方式を「株式数比例配分方式」に設定する必要があります。
株式数比例配分方式とは、証券会社で保有している株式数に応じた配当金を証券総合口座で受け取る方式のことです。配当金領収証方式や登録配当金受領口座方式などを選択すると、NISA口座であっても課税対象になってしまうため注意が必要です。
複数の証券会社で取引をしている場合、証券会社ごとに配当金の受け取り方法を設定することはできません。いずれかの証券会社を通じて最後に設定した受け取り方法が、各証券会社へ通知される仕組みになっています。
出典:NISA口座における上場株式の配当金等受取方式に関する注意事項|日本証券業協会
NISAを活用した配当生活のシミュレーション
NISAの非課税保有限度額1,800万円を成長投資枠で活用し、配当利回り4%の株式に投資した場合を考えてみましょう。
年間配当金は72万円(1,800万円×4%)となり、これがすべて非課税で受け取れます。課税口座で同じ投資を行った場合、約14万6,268円が税金として徴収されるため、NISA活用による節税効果は大きいといえます。
ただし、NISAのみで配当生活を実現するのは難しく、課税口座との併用が現実的な選択肢となるでしょう。
配当生活を実現するための投資戦略

安定した配当生活を実現するには、適切な銘柄選定と分散投資が不可欠です。長期的な視点を持った投資戦略を構築しましょう。
銘柄選定のポイント
配当生活を目指す場合、配当利回りの高さだけで銘柄を選ぶのは危険です。以下の点に注目して銘柄を選定することが重要になります。
・財務の健全性:自己資本比率が高く、安定した経営基盤を持つ企業を選びましょう
・配当の継続性:過去の配当実績を確認し、減配リスクが低い企業を選定することが大切です
・業績の安定性:景気変動に左右されにくい事業構造を持つ企業が望ましいでしょう
・配当性向:利益に対する配当の割合が適正水準(一般的に30~50%程度)であることを確認しましょう
配当利回りが極端に高い銘柄は、株価が大きく下落している可能性があります。株価下落の背景に業績悪化がある場合、将来の減配リスクも高まるため注意が必要です。
分散投資の重要性
特定の銘柄や業種に集中投資すると、その企業の業績悪化や減配が生活に直接影響を与えます。複数の業種、複数の銘柄に分散投資することで、リスクを軽減できます。
また、国内株式だけでなく、海外株式やETF(上場投資信託)への分散投資も検討する価値があります。ただし、外国株式の配当金については、現地での源泉徴収税が課されることに留意が必要です。例えば、米国株式の場合は10%の源泉徴収税が課され、NISA口座でもこの現地課税分は非課税になりません。
再投資戦略の検討
配当金をすべて生活費に充てるのではなく、一部を再投資に回すことで、資産をさらに拡大させる戦略も有効です。
ただし、NISA口座で配当金を再投資する場合、その金額は年間投資枠を消費することになります。非課税保有限度額を効率的に活用するため、再投資戦略は慎重に検討しましょう。
配当生活のリスクと注意点

配当生活には複数のリスクが存在するため、事前に十分な理解と対策が求められます。
減配・無配のリスク
企業の業績悪化により、配当金が減額されたり、無配転落したりする可能性があります。このリスクに備えて、複数銘柄への分散投資と、ある程度の現金預金を保有しておくことが重要です。
配当金は企業の利益から支払われるため、景気後退局面では多くの企業が減配に踏み切る可能性があります。リーマンショックや新型コロナウイルス感染症拡大時には、多くの企業が配当を減額しました。
株価下落リスク
配当生活では定期的な配当金収入が重要ですが、保有株式の株価が大きく下落すると、資産全体が目減りします。
長期的な視点を持ち、短期的な株価変動に一喜一憂しない姿勢が大切です。また、配当金だけでなく、株価の値上がり益も含めた総合的なリターンを意識することが望ましいでしょう。
インフレリスク
物価上昇により、同じ配当金額でも実質的な購買力が低下する可能性があります。
インフレに対応するため、配当金額が定期的に増加する「増配株」への投資も検討する価値があります。連続増配を続けている企業は、株主還元に積極的で、財務基盤も安定している傾向があります。
配当生活実現に向けた準備

配当生活への移行は段階的に進めることで、リスクを抑えながら実現可能性を高められます。
段階的なアプローチ
いきなり完全な配当生活を目指すのではなく、段階的にアプローチすることが現実的です。
まずは給与収入を得ながら投資を継続し、配当金収入を徐々に増やしていく戦略が有効でしょう。配当金が生活費の一部をカバーできるようになったら、労働時間を減らすなど、柔軟な働き方への移行を検討できます。
生活費の見直し
配当生活を実現するために必要な資金を抑えるには、生活費を見直すことも重要です。
固定費の削減や無駄な支出の見直しにより、必要な年間生活費を抑えられれば、配当生活に必要な投資元本も少なくて済みます。
社会保険料の考慮
会社員を退職して配当生活に移行する場合、国民健康保険料や国民年金保険料の負担が発生します。
これらの社会保険料も含めて、必要な年間収入を計算することが重要です。また、将来受け取る年金額が減少する可能性も考慮に入れる必要があります。
まとめ
配当生活の実現には、多額の投資元本と綿密な計画が必要です。配当利回り4%で年間生活費300万円を得るには、7,500万円程度の投資資金が必要となる計算になります。
NISAを活用することで、配当金を非課税で受け取れるメリットは大きいものの、非課税保有限度額には上限があるため、課税口座との併用が現実的な選択肢となります。
配当生活を目指す場合は、高配当銘柄への投資だけでなく、財務の健全性や配当の継続性を重視した銘柄選定、複数銘柄への分散投資、減配リスクへの備えなど、総合的な資産運用戦略が求められます。
段階的なアプローチを取り、給与収入を得ながら徐々に配当金収入を増やしていく方法が、リスクを抑えながら配当生活を実現する現実的な道筋といえるでしょう。
本記事は、CFP資格保有者であり、J-FLEC認定アドバイザーの金子賢司が執筆しています。当記事の執筆者「金子賢司」の情報は、CFP検索システムおよびJ-FLECアドバイザー検索システムにてご確認いただけます。北海道エリアを指定して検索いただくとスムーズです。
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