相続
遺言書があると何が変わる?遺言書の必要性とメリットを5つの観点から解説

「遺言書は資産家だけのもの」「うちは家族仲が良いから必要ない」と考えていませんか?実は、遺言書がないと相続人全員の合意が必要になり、たとえ家族仲が良くても手続きが複雑化したり、思わぬトラブルに発展したりする可能性があるのです。この記事では、遺言書の必要性と具体的なメリットを、CFP(ファイナンシャルプランナー)の視点から詳しく解説します。
遺言書とは?法律上の定義と役割

遺言書とは、自分が亡くなった後の財産の分け方や、家族へのメッセージを書き残す法的文書のことです。民法では、遺言によって財産の処分や相続分の指定、遺言執行者の指定などができると定められています。
遺言書の最大の役割は、被相続人(亡くなった人)の意思を明確にし、相続人間のトラブルを防ぐことにあります。遺言書があれば、法定相続分とは異なる分け方も可能となり、被相続人の意思が尊重されます。
遺言書がないとどうなる?法定相続と遺産分割協議の課題

遺言書がない場合、相続は「法定相続」によって進められることになります。法定相続とは、民法が定めた相続人の範囲と相続分に従って財産を分ける方法です。
法定相続人と法定相続分の基本
配偶者は常に相続人となり、配偶者以外には第1順位(子)、第2順位(直系尊属)、第3順位(兄弟姉妹)という優先順位があります。法定相続分は、例えば配偶者と子が相続人の場合、それぞれ2分の1ずつとなっています。
遺産分割協議が必要になる
法定相続分は財産全体の割合を示すものであり、具体的に「どの財産を誰が取得するか」は相続人全員で話し合って決める必要があります。この話し合いを「遺産分割協議」といいます。
民法第907条では、共同相続人は被相続人が遺言で禁じた場合を除き、いつでもその協議で遺産の分割をすることができると定めています。ただし、遺産分割協議は相続人全員の合意が必要であり、1人でも反対すれば成立しません。
出典:遺産分割調停|裁判所
遺産分割協議の5つの課題
遺産分割協議には、以下のような課題があります。
・相続人全員の合意が必要(1人でも反対すると進まない)
・遠方に住む相続人や連絡が取れない相続人がいると手続きが止まる
・不動産など分けにくい財産があると調整が難しい
・相続人間の感情的な対立が起きやすい
・協議が長期化すると、相続税の申告期限(10ヶ月以内)に間に合わない可能性がある
実際、家庭裁判所への遺産分割調停の申立件数は年間1万件を超えており、相続をめぐる争いは決して少なくありません。「争族」という言葉があるように、相続が家族間のトラブルに発展するケースは多いのです。
遺言書作成の5つのメリット

では、遺言書を作成することで、どのようなメリットがあるのでしょうか。主なメリットを5つの観点から解説します。
メリット1:故人の意思を正確に反映できる
遺言書があれば、被相続人の意思通りに財産を分けることができます。法定相続分にとらわれず、「長男に事業を継がせたい」「介護してくれた次女に多く残したい」といった希望を実現できるのです。
特に、子がいない夫婦の場合、遺言書がないと配偶者と被相続人の兄弟姉妹が相続人となり、配偶者が自宅に住み続けられなくなる可能性もあります。遺言書があれば、このような事態を防ぐことができます。
メリット2:遺産分割協議が不要になり手続きがスムーズ
遺言書で財産の分け方が明確に指定されていれば、遺産分割協議を行う必要がなくなります。相続人は遺言書に従って手続きを進めればよく、全員で集まって話し合う必要もありません。
これにより、相続手続きの期間が大幅に短縮され、相続税の申告期限(死亡を知った日の翌日から10ヶ月以内)に余裕を持って対応できます。
メリット3:家族間の争いを未然に防ぐ
遺言書があることで、「なぜこのような分け方なのか」という被相続人の考えが明確になり、相続人が納得しやすくなります。特に、法定相続分と異なる分け方をする場合、その理由を遺言書に記載しておくことが重要です。
また、遺言書には「付言事項」として、家族へのメッセージや感謝の言葉を残すこともできます。法的効力はありませんが、被相続人の思いを伝えることで、相続人間の感情的な対立を和らげる効果が期待できます。
メリット4:法定相続人以外にも財産を残せる
遺言書がなければ、財産は法定相続人にのみ引き継がれます。しかし、遺言書があれば、法定相続人以外の人や団体にも財産を残すこと(遺贈)が可能になります。
例えば、以下のようなケースで遺言書が有効です。
・内縁関係のパートナーに財産を残したい
・お世話になった人に感謝の気持ちを形にしたい
・特定の慈善団体やNPO法人に寄付をしたい
・孫に直接財産を残したい(通常は子が相続人となるため)
ただし、法定相続人には「遺留分」という最低限の取り分が保障されているため、遺留分を侵害する遺言の場合、後でトラブルになる可能性があります。遺言書作成時には、遺留分にも配慮することが大切です。
メリット5:相続手続きの負担を軽減できる
遺言書には「遺言執行者」を指定することができます。遺言執行者とは、遺言の内容を実現するために必要な手続きを行う人のことで、弁護士や司法書士などの専門家を指定することも可能です。
遺言執行者がいれば、相続人は煩雑な手続きから解放され、遺言執行者が代わりに預貯金の解約や不動産の名義変更などを進めてくれます。これにより、相続人の精神的・時間的な負担が大幅に軽減されます。
遺言書が特に必要な7つのケース

すべての人に遺言書が必要というわけではありませんが、以下のようなケースでは遺言書の作成を強く推奨します。
1. 子がいない夫婦
子がいない場合、配偶者と被相続人の親(親が亡くなっている場合は兄弟姉妹)が相続人となります。配偶者にすべての財産を残したい場合は、遺言書が必須です。
2. 再婚している・前婚の子がいる
前婚の子も相続人となるため、現在の配偶者や子との間で調整が必要になります。遺言書で分け方を明確にしておくことで、トラブルを防げます。
3. 内縁関係のパートナーがいる
内縁関係のパートナーは法定相続人ではないため、遺言書がなければ一切財産を受け取れません。遺言書で遺贈することが必要です。
4. 事業を特定の相続人に継がせたい
個人事業主や会社経営者の場合、事業用資産を後継者に集中させる必要があります。遺言書で後継者を明確にしておくことが重要です。
5. 介護や看病をしてくれた人に報いたい
特定の相続人が介護や看病に尽くしてくれた場合、その貢献に応じて多めに財産を残したいと考えるのは自然なことです。遺言書でその意思を明確にできます。
6. 相続人間で争いが予想される
相続人の仲が悪い、経済状況に大きな差があるなど、争いが予想される場合は、遺言書で明確に分け方を指定しておくことが望ましいです。
7. 社会貢献や寄付をしたい
お世話になった団体や、特定の社会貢献活動に遺産を役立てたい場合、遺言書で遺贈先を指定できます。
遺言書の種類は3つ(概要)

遺言書には、主に以下の3種類があります。
・自筆証書遺言:自分で全文を手書きして作成する遺言書。費用がかからず手軽だが、形式不備で無効になるリスクがある
・公正証書遺言:公証役場で公証人に作成してもらう遺言書。費用はかかるが、最も確実で安全
・秘密証書遺言:内容を秘密にしたまま、遺言書の存在だけを公証人に証明してもらう方法。あまり利用されていない
それぞれの詳しい作成方法やメリット・デメリットについては、次回以降の記事で詳しく解説します。
遺言書作成時の3つの注意点

注意点1:遺留分に配慮する
法定相続人のうち、配偶者・子・直系尊属には「遺留分」という最低限保障された取り分があります。遺留分を大きく侵害する遺言は、後で遺留分侵害額請求を受ける可能性があるため、遺留分にも配慮した内容にすることが望ましいです。
注意点2:定期的に見直す
遺言書は何度でも書き直すことができます。財産状況や家族関係が変わった場合は、遺言書の内容も見直すことが大切です。古い遺言書がそのままになっていると、現在の状況に合わない内容になっている可能性があります。
注意点3:専門家に相談する
遺言書は法的文書であり、形式不備があると無効になる可能性があります。特に財産が多い場合や、複雑な分け方をする場合は、弁護士や司法書士、行政書士などの専門家に相談することをおすすめします。
まとめ:遺言書は「家族への最後の思いやり」
遺言書について、以下のポイントを押さえておきましょう。
・遺言書がないと遺産分割協議が必要になり、相続人全員の合意が必要
・遺言書があれば、故人の意思を反映でき、手続きがスムーズになる
・法定相続人以外にも財産を残せるなど、柔軟な対応が可能
・子がいない夫婦、再婚している人、事業承継が必要な人などは遺言書の作成を強く推奨
・遺言書には自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3種類がある
遺言書は「家族への最後の思いやり」ともいえます。自分が亡くなった後、家族が困らないように、そして争わないように、今から準備を始めてみてはいかがでしょうか。
本記事は、CFP資格保有者であり、J-FLEC認定アドバイザーの金子賢司が執筆しています。当記事の執筆者「金子賢司」の情報は、CFP検索システムおよびJ-FLECアドバイザー検索システムにてご確認いただけます。北海道エリアを指定して検索いただくとスムーズです。
金子賢司へのライティング・監修依頼はこちらから。ポートフォリオもご確認ください。



