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退職金は一時金?年金?税金・運用・生活設計から考える賢い選択

退職金の受け取り方には「一時金」「年金」「併用」の3つの選択肢があり、どれを選ぶかによって税金の負担額や老後の資金計画が変わってきます。厚生労働省「令和5年就労条件総合調査」によると、退職給付制度がある企業のうち「退職一時金制度のみ」が69.0%、「両制度併用」が21.4%、「退職年金制度のみ」が9.6%でした。この記事では、退職金の受け取り方ごとの税金や運用面のメリット・デメリットを整理し、判断材料を解説します。
退職金の3つの受け取り方

退職金の受け取り方は、会社の制度設計によって選べる範囲が異なります。ここでは3つの方法を整理しましょう。
一時金(一括受取)
退職時に全額をまとめて受け取る方法で、最も多く採用されている形態です。後述する退職所得控除という税制上の優遇措置が適用され、税負担を抑えやすいのが特徴といえます。受け取った資金を住宅ローンの返済や資産運用に充てるなど、使い道の自由度が高い点もメリットでしょう。
年金(分割受取)
退職金を5年・10年・15年などの期間に分けて受け取る方法です。企業年金として毎月または年数回に分けて支給されるのが一般的で、受取期間中に運用益が上乗せされる場合もあります。ただし、公的年金と合算して「雑所得」として課税される点には注意が必要でしょう。
併用(一時金+年金)
退職金の一部を一時金として受け取り、残りを年金として受け取る方法です。たとえば退職所得控除の枠内を一時金で受け取り、超過分を年金にすることで、税金と安定収入のバランスを取れます。両方のメリットを活用できるため、検討する価値のある選択肢でしょう。ただし、併用を選べるかどうかは会社の退職金制度によって異なるため、事前に人事部門へ確認しておくことをおすすめします。
一時金受取の税金:退職所得控除の仕組み

退職金を一時金で受け取る場合、「退職所得控除」と「2分の1課税」という2つの税制優遇が適用されます。国税庁によれば、退職所得の計算式は以下のとおりです。
退職所得 =(退職金 − 退職所得控除額)× 1/2
退職所得控除額の計算式
・勤続年数20年以下の場合:40万円 × 勤続年数(80万円に満たない場合は80万円)
・勤続年数20年超の場合:800万円 + 70万円 ×(勤続年数 − 20年)
なお、勤続年数に1年未満の端数がある場合は1年に切り上げて計算します。たとえば勤続30年6か月なら、勤続年数は31年として扱われるため、退職所得控除額が70万円分増えるということです。
出典:国税庁「No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)」
退職所得は他の所得と分離して課税される(分離課税)うえ、2分の1課税が適用されるため、給与所得などと比べて税負担が軽くなる仕組みです。
具体的な計算例
【例1】勤続30年・退職金2,000万円の場合
・退職所得控除額:800万円 + 70万円 × 10年 = 1,500万円
・退職所得:(2,000万円 − 1,500万円)× 1/2 = 250万円
・所得税額:250万円 × 10% − 9万7,500円 = 15万2,500円(別途、復興特別所得税が加算)
・住民税額:250万円 × 10% = 25万円
・税金合計:約40万円 → 手取り:約1,960万円
【例2】勤続40年・退職金2,500万円の場合
・退職所得控除額:800万円 + 70万円 × 20年 = 2,200万円
・退職所得:(2,500万円 − 2,200万円)× 1/2 = 150万円
・所得税額:150万円 × 5% = 7万5,000円(別途、復興特別所得税が加算)
・住民税額:150万円 × 10% = 15万円
・税金合計:約23万円 → 手取り:約2,477万円
勤続年数が長いほど退職所得控除額が増え、課税対象となる退職所得が小さくなることがわかります。2,000万円の退職金でも税金は約40万円にとどまり、手取りは約98%を確保できる計算です。
なお、役員等以外で勤続年数が5年以下の場合(短期退職手当等)は、退職所得控除額を差し引いた残額のうち300万円を超える部分について2分の1課税が適用されない点にも注意してください。
年金受取の税金:雑所得として課税

退職金を年金形式で受け取る場合は、公的年金等と合算して「雑所得」として課税対象になります。国税庁によれば、計算式は以下のとおりです。
雑所得 = 年金の収入金額 − 公的年金等控除額
公的年金等控除額は年齢と年金収入額によって異なり、公的年金等に係る雑所得以外の合計所得金額が1,000万円以下の場合、65歳未満で年金収入130万円以下なら60万円、65歳以上で年金収入330万円以下なら110万円が控除の対象となります。
退職金の年金受取分は企業年金として公的年金等に含まれるため、老齢厚生年金や老齢基礎年金と合算されたうえで「総合課税」の対象になります。一時金の「分離課税+2分の1課税」と比べると、年金受取は税金面で不利になるケースが多いでしょう。
さらに、年金収入が増えることで国民健康保険料や介護保険料の算定基準となる所得が上がり、保険料負担が増える可能性もあります。手取り額への影響は税金だけにとどまりません。たとえば、企業年金で年間100万円を受け取ると、その分だけ雑所得が増え、国民健康保険料や介護保険料に反映されるケースがあります。退職金を年金で受け取るか検討する際は、社会保険料の負担増も含めてシミュレーションしておくことが重要です。
一時金と年金を5つの観点で比較

退職金の受け取り方は、税金だけでなく複数の観点から検討することが求められます。以下に5つの比較ポイントを整理しました。
比較1:税金面
一時金は退職所得控除と2分の1課税によって税負担が軽くなるのに対し、年金は雑所得として毎年課税され、公的年金と合算されるため税率が上がる可能性もあります。税金面では一時金が有利です。
比較2:運用面
一時金で受け取れば、NISAや投資信託などを活用して自分のペースで資産運用を行えます。一方、年金受取の場合は企業年金の予定利率に依存するため、運用の自由度は限られるでしょう。ただし、投資にはリスクが伴うため、運用経験がない方にとっては年金受取の方が安心感を得やすい面もあります。
比較3:インフレへの対応
一時金であれば株式やREIT(不動産投資信託)など、物価上昇に強い資産に振り向けることも可能です。年金は原則として受取額が固定されるため、インフレ局面では実質的な価値が目減りするリスクがあるでしょう。近年の物価上昇傾向を踏まえると、インフレへの対応力は一時金の方が高いといえます。
比較4:長生きリスク
一時金は使い切ってしまう懸念がある一方、年金は受取期間中に安定的な収入を確保できるメリットがあります。取り崩し計画に不安がある方には年金の方が向いているかもしれません。ただし、企業年金は一般的に「確定年金」であり、受取期間が終了すれば支給も終わる点には留意が必要です。終身年金であれば長生きリスクにも対応できますが、採用している企業は限られるでしょう。
比較5:企業の経営リスク
一時金は退職時点で全額を受け取るため、その後の会社の経営状況に左右されません。年金受取の場合、企業年金基金の運用状況や会社の財務状況が支給に影響する可能性がゼロとはいえないでしょう。確定給付企業年金には積立義務があるものの、万一のリスクに備えて一時金を選ぶという考え方もあります。
ケース別:どの受け取り方が向いているか

退職金の受け取り方に唯一の正解はなく、個人の状況によって最適な選択は変わります。ここでは代表的なケースを整理しました。
一時金がおすすめのケース
・退職所得控除を最大限活用し、税負担を抑えたい方
・投資経験があり、自分で資産運用を行いたい方
・住宅ローンの繰り上げ返済やリフォームなど、まとまった資金が必要な方
・インフレ対策を自分で講じたい方
・会社の将来的な経営状況に不安がある方
年金がおすすめのケース
・計画的にお金を取り崩すのが苦手で、安定収入がほしい方
・まとまった金額を一度に受け取ると使いすぎてしまう心配がある方
・公的年金の受給額が少なく、月々の収入を補いたい方
・投資経験がなく、運用に不安を感じる方
併用がおすすめのケース
・退職所得控除の範囲内で一時金を受け取り、残りを年金にしたい方
・まとまった資金確保と安定収入の両方を実現したい方
・税金と生活の安定のバランスを重視する方
たとえば退職金2,000万円のうち、退職所得控除額内の1,500万円を一時金で受け取れば、一時金部分の課税対象はゼロになります。残り500万円を年金にすることで、安定的な収入源も確保できるでしょう。このように併用は、税金の最適化と生活設計の安定を両立させる手段として有効です。
住宅ローンが残っている場合の判断

退職時に住宅ローンが残っている場合、退職金で繰り上げ返済をするかどうかも重要な検討事項です。判断の目安は以下のとおりでしょう。
・住宅ローンの金利が運用で見込める利回りよりも高い場合 → 繰り上げ返済が有利
・住宅ローンの金利が低く、運用利回りの方が上回る場合 → 運用を続けた方が合理的
住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)の適用期間中であれば、繰り上げ返済を急がない方が得になるケースもあります。残りの控除期間と控除額を確認したうえで判断してください。
一方、数字だけでは割り切れない部分もあるでしょう。「借金がない状態」という心理的な安心感を重視して返済を選ぶのも一つの判断です。いずれにしても、手元に生活防衛資金(生活費の6か月〜1年分程度)を残したうえで繰り上げ返済を検討することが重要になります。
退職金の受け取り前に確認すべきこと

退職金の受け取り方を決める前に、以下の点を確認しておきましょう。
・会社の退職金制度の内容:一時金のみか、年金や併用も選べるか、人事部門に確認する
・企業年金の予定利率:年金を選ぶ場合、運用利率が何%か把握しておく
・iDeCo(個人型確定拠出年金)や企業型DCとの受取時期の調整:退職所得控除を複数回使う場合、受取時期によっては控除額が制限されることがある
・「退職所得の受給に関する申告書」の提出:勤務先に提出しないと、退職金全額の20.42%が源泉徴収され、確定申告で精算する手間が生じる
特にiDeCoや企業型DCの一時金と退職金を同じ年に受け取る場合、退職所得控除の計算方法が変わる場合があるため、受取時期の調整を含めて慎重に検討してください。
まとめ:自分の状況に合った受け取り方を選ぶ
退職金の受け取り方を検討する際、押さえておきたいポイントは以下の3つです。
・税金面では一時金が有利:退職所得控除と2分の1課税により、年金受取と比べて税負担を抑えられる
・使いすぎリスクや長生きリスクも考慮:一時金は自由度が高い反面、計画的な取り崩しが求められる
・多くの方には「一時金メイン+一部年金」の併用がバランスの良い選択肢
退職金は老後資金の柱となる資産であり、受け取り方の判断を誤ると、数十万円から数百万円単位の税金差が生じる可能性もあるでしょう。判断に迷う場合は税理士やファイナンシャルプランナーに相談し、家族と話し合ったうえでライフプランを作成してから決めることをおすすめします。
本記事は、CFP資格保有者であり、J-FLEC認定アドバイザーの金子賢司が執筆しています。当記事の執筆者「金子賢司」の情報は、CFP検索システムおよびJ-FLECアドバイザー検索システムにてご確認いただけます。北海道エリアを指定して検索いただくとスムーズです。
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