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資産寿命を延ばす!老後資金の計画的な取り崩しと支出管理の5つのポイント

資産寿命とは、老後の生活を営むにあたって、これまで形成してきた金融資産が尽きるまでの期間を指します。金融庁の報告書では、長寿化に伴い「資産寿命」を延ばすことの重要性が指摘されており、計画的な資産の取り崩しと支出管理が欠かせません。総務省「家計調査(2024年)」によると、65歳以上の夫婦のみの無職世帯では月々約3.4万円の不足が生じています。この記事では、老後の資産を長持ちさせるための具体的な方法を5つのポイントに分けて解説します。
「資産寿命」とは?老後の資金が尽きるまでの期間

資産寿命とは、退職後の生活を支える金融資産が底をつくまでの期間のことです。
金融庁が2019年に公表した金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」では、資産寿命を「老後の生活を営んでいくにあたって、これまで形成してきた資産が尽きるまでの期間」と定義しています。報告書では、資産寿命が尽きた後は年金等のフロー収入のみで生活を営んでいくことになると指摘されており、計画的な資産管理の重要性が示されました。
出典:金融庁「金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書 高齢社会における資産形成・管理」
「生命寿命」「健康寿命」に加えて、「資産寿命」という考え方を意識することが、安心できる老後を過ごすための第一歩となるでしょう。
資産寿命が注目される背景
資産寿命が重要視されるようになった背景には、日本人の長寿化があります。厚生労働省の「令和6年簡易生命表」によると、平均寿命は男性81.09歳、女性87.13歳に達しています。65歳で退職した場合、20年から30年にわたる老後生活の資金を計画的に管理する必要があるのです。
まず把握すべき「年金収入と生活費の差額」

資産寿命を延ばすためには、年金収入と生活費の差額を正確に把握することが出発点となります。
総務省統計局「家計調査報告(家計収支編)2024年平均結果の概要」によると、65歳以上の夫婦のみの無職世帯(夫婦高齢者無職世帯)の家計収支は次のとおりです。
・実収入:252,818円(うち社会保障給付225,182円)
・可処分所得(税・社会保険料を除いた手取り額):222,462円
・消費支出:256,521円
・毎月の不足額:約34,058円
出典:総務省統計局「家計調査報告(家計収支編)2024年(令和6年)平均結果の概要」
この不足額が30年間続くと仮定すると、約1,226万円の取り崩しが必要になる計算です。ただし、これはあくまで平均値であり、実際には世帯ごとの収入や支出状況によって大きく異なります。まずは自身の年金見込額と生活費を照らし合わせ、月々の不足額を確認することが重要でしょう。
年金見込額の確認方法
日本年金機構が運営する「ねんきんネット」では、将来受け取れる年金の見込額をシミュレーションできます。50歳以上の方には毎年届く「ねんきん定期便」でも確認可能です。資産寿命の計画を立てるうえで、年金の受取見込額を正確に把握しておくことは欠かせません。
【ポイント1】計画的な取り崩し戦略を立てる

資産の取り崩しは無計画に行うのではなく、戦略的に実行することで資産寿命を延ばせます。
「定額取り崩し」と「定率取り崩し」の違い
取り崩し方法には、主に「定額」と「定率」の2つの考え方があります。
定額取り崩しは、毎月(または毎年)一定の金額を引き出す方法です。家計管理がしやすい反面、相場が下落しているときも同額を引き出すため、資産の減少が加速するリスクがあります。
定率取り崩しは、保有資産の一定割合(たとえば年4%)を引き出す方法です。資産額が減れば取り崩し額も減るため、資産の枯渇リスクを抑えやすくなります。一方で、毎年の取り崩し額が変動するため、生活費の見通しが立てにくいというデメリットもあるでしょう。
「4%ルール」は参考指標として
米国の研究で知られる「4%ルール」は、退職時の資産から毎年4%ずつ取り崩すと、30年以上にわたって資産が持続するという過去のデータに基づく考え方です。
ただし、この研究は米国の市場データをもとにしたものであり、日本の経済環境やインフレ率、為替リスクなどを考慮すると、そのまま適用するのは慎重になるべきでしょう。あくまで取り崩しの「ペース」を検討する際の参考指標として捉えるのが適切です。
【ポイント2】生活費の見直しと固定費の削減

支出を適正化することは、資産寿命を延ばすうえで効果の高い方法の一つです。
総務省の家計調査によると、65歳以上の夫婦のみ無職世帯の主な消費支出の内訳は以下のとおりです。
・食料:76,352円(29.8%)
・交通・通信:27,768円(10.8%)
・教養娯楽:25,377円(9.9%)
・光熱・水道:21,919円(8.5%)
・保健医療:18,383円(7.2%)
・住居:16,432円(6.4%)
固定費の見直しが効果的
支出削減で最も効果的なのは、毎月必ず発生する「固定費」の見直しです。一度見直せば、その後は継続的に節約効果が生まれるためです。具体的には以下のような項目が挙げられます。
・通信費:大手キャリアから格安SIM・格安プランへの変更で月数千円の削減が見込めます
・保険料:子どもの独立後は死亡保障の見直しが可能な場合があります
・サブスクリプション:利用頻度の低いサービスの解約も有効です
変動費は「削りすぎない」ことも大切
食費や交際費などの変動費は、削りすぎると生活の満足度が下がり、長続きしにくくなります。趣味やレジャーなどの「ゆとり費」は、精神的な健康を保つうえで一定の予算を確保しておくのがよいでしょう。無理な節約よりも、メリハリのある支出管理を心がけることが、結果として長く続けられるポイントになります。
【ポイント3】予備費を確保して「想定外」に備える

老後の家計では、想定外の出費に備えた予備費の確保が欠かせません。
医療費や介護費用は、加齢とともに増加する傾向があります。厚生労働省「令和5年度 国民医療費の概況」によると、65歳以上の1人あたり年間医療費は約79.7万円で、65歳未満(約21.8万円)の約3.7倍に上ります。高額療養費制度などの公的制度で自己負担は一定の範囲に抑えられますが、差額ベッド代や先進医療費など保険適用外の費用が発生する場合もあります。
また、住宅のリフォームや設備の修繕、家電の買い替えといった一時的な支出も想定しておく必要があります。生活費とは別に、医療・介護・住宅修繕などに充てる予備費として、200万~300万円程度を流動性の高い預貯金で確保しておくと安心でしょう。
【ポイント4】運用しながら取り崩す「資産の延命」

老後も資産の一部を運用に回すことで、取り崩しのペースを緩やかにできる可能性があります。
金融庁の報告書でも、リタイア期以降は「金融資産の目減りの防止や計画的な資産の取崩しに向けて行動する時期」と位置づけられています。すべてを預貯金に置くのではなく、リスク許容度に応じて一部を運用に充てるという考え方です。
老後の運用で重視すべき3つの原則
老後の資産運用では、現役世代とは異なるアプローチが求められます。以下の3つの原則を意識しましょう。
・安全性を最優先:元本割れのリスクが小さい商品を中心に据えることが重要です。個人向け国債(変動10年型)は元本保証があり、半年ごとに適用利率が見直されるため、インフレへの一定の対応力も期待できます
・流動性の確保:急な出費に対応できるよう、すぐに現金化できる資産を一定割合確保しておくことが不可欠です
・分散投資:預貯金・国債・投資信託など複数の商品に分散させることで、リスクを軽減できます
出典:財務省「個人向け国債」
運用比率の目安
一般的には、「100マイナス年齢」をリスク資産の割合の目安とする考え方があります。たとえば70歳であれば、リスク資産は30%程度が目安です。ただし、老後の運用は「増やす」よりも「減らさない」ことを最優先に考えるべきでしょう。投資経験が少ない方が退職金をまとめて運用に回すことはリスクが高いため、慎重な判断が必要です。
【ポイント5】インフレへの備えと資産の「見える化」

インフレ(物価上昇)は、資産の実質的な価値を目減りさせるため、資産寿命に影響を与えます。
インフレリスクへの対応
2022年以降、日本でも物価上昇が顕著となっており、消費者物価指数は上昇傾向にあります。仮にインフレ率が年2%で推移した場合、20年後には物価が約1.5倍になる計算です。つまり、現在の2,000万円の貯蓄は、20年後には実質的に約1,350万円分の購買力にしかならないことを意味します。
インフレに対応するためには、すべてを預貯金に置くのではなく、物価連動型の商品やインフレに強い資産を一部組み入れることも検討に値します。
資産の「見える化」で管理精度を高める
資産寿命を延ばすためには、保有資産の全体像を把握し、定期的に見直す習慣が欠かせません。具体的には以下の取り組みが効果的です。
・預貯金、有価証券、保険、不動産など保有資産をすべてリストアップする
・毎月の収支(年金収入と支出)を記録し、不足額の推移を確認する
・年に1回は「資産残高÷月々の取り崩し額」で資産があと何年持つかを計算する
・家族と資産状況を共有し、万が一のときに備えておく
金融庁の報告書でも、高齢期においては「資産の計画的な取崩しを実行するとともに、認知・判断能力の低下や喪失に備えて行動する時期」であると述べられています。判断力がしっかりしているうちに、資産管理の方針を決めておくことが重要でしょう。
まとめ:5つのポイントで資産寿命を計画的に延ばす
資産寿命を延ばすための5つのポイントを整理すると、以下のとおりです。
・計画的な取り崩し:定額か定率かを選び、取り崩しペースを管理する
・固定費の見直し:通信費・保険料など毎月の固定支出を点検する
・予備費の確保:医療・介護・住宅修繕に備え、200万~300万円程度を流動性の高い預貯金で準備する
・運用しながら取り崩す:安全性・流動性・分散を意識し、資産の目減りを緩やかにする
・インフレ対策と見える化:物価上昇に備え、年に1回は資産残高と取り崩しペースを点検する
老後の資金管理は、一度プランを立てたら終わりではありません。健康状態や生活スタイルの変化、経済環境の動向に合わせて、定期的に計画を見直していくことが、安心できる老後を過ごすための鍵となるでしょう。
本記事は、CFP資格保有者であり、J-FLEC認定アドバイザーの金子賢司が執筆しています。当記事の執筆者「金子賢司」の情報は、CFP検索システムおよびJ-FLECアドバイザー検索システムにてご確認いただけます。北海道エリアを指定して検索いただくとスムーズです。
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