iDeCo
自営業者のiDeCo活用術:国民年金基金との併用で手厚い老後保障

「自営業だから、老後の年金が国民年金だけだと不安…」
「iDeCoと国民年金基金って、どっちも入った方がいいの?併用できるの?」
「小規模企業共済もやってるけど、iDeCoとどう組み合わせればいいんだろう?」
自営業者の方々にとって、会社員のような厚生年金がないため、老後資金の準備は特に重要な課題です。公的年金が国民年金のみとなるため、将来受け取れる年金額が会社員に比べて少なくなる傾向があります。そこで、iDeCo(個人型確定拠出年金)や国民年金基金、小規模企業共済といった「自助努力」の制度を賢く活用することが、安心できる老後を築く鍵となります。
この記事では、自営業者がiDeCoを最大限に活用するためのポイントを解説します。国民年金のみの自営業者にとってのiDeCoの重要性、国民年金基金との併用方法と掛金上限額、そして小規模企業共済との連携まで、自営業者ならではの視点から、手厚い老後保障を築くための具体的な戦略を提案します。
国民年金のみの自営業者にとってのiDeCoの重要性

自営業者(フリーランス、個人事業主など)は、公的年金制度において「国民年金」のみに加入しています。会社員が加入する厚生年金に比べて、国民年金から将来受け取れる年金額は、一般的に月額数万円程度と少額です。
公的年金の不足を補う「自分年金」の必要性
・国民年金だけでは生活費が不足: 国民年金を満額(月額約6.8万円、2024年度)受け取れたとしても、それだけで老後の生活費をまかなうのは非常に困難です。総務省の家計調査などを見ても、夫婦二人世帯の平均的な生活費は月20万円以上とされており、大きなギャップがあります。
出典:日本年金機構 令和7年4月分からの年金額等について
出典:総務省 家計調査報告 〔 家計収支編 〕 2024年(令和6年)平均結果の概要
・iDeCoは税制優遇付きの「自分年金」: iDeCoは、自らが掛金を拠出し、運用することで資産を形成する「私的年金」制度です。特に自営業者にとっては、会社員の厚生年金に代わる、あるいはそれを補完する「自分だけの年金」として、その重要性が極めて高いと言えます。
自営業者にとってのiDeCoの強力な税制メリット
iDeCoは、自営業者にとって特に大きな税制メリットを享受できる制度です。
・掛金が全額所得控除: 拠出した掛金は、その年の所得から全額控除されます。これにより、所得税と住民税が軽減され、手元に残るお金が増えます。所得税の税率は所得が高いほど上がるため、所得が高い自営業者ほど節税効果が大きくなります。
・運用益が非課税: 運用中に得た利益(利息や分配金など)が非課税で再投資されます。通常かかる20.315%の税金が引かれないため、効率的に資産を増やし、複利効果を最大限に享受できます。
・受け取り時も税制優遇: 60歳以降に年金として受け取る場合は「公的年金等控除」、一時金として受け取る場合は「退職所得控除」が適用され、税負担が軽減されます。
国民年金基金との併用方法と掛金上限額

自営業者の老後資金準備において、iDeCoと並んで重要なのが「国民年金基金」です。これら二つの制度は併用が可能であり、組み合わせることでより手厚い老後保障を築くことができます。
国民年金基金とは
国民年金基金は、国民年金(1階部分)に上乗せして加入できる公的な年金制度です。加入口数に応じて将来受け取れる年金額が決まる「確定給付型」の年金です。
・特徴: 終身年金が基本で、加入時の掛金と口数に応じて将来の年金額が確定するため、老後の生活設計が立てやすいというメリットがあります。掛金は全額社会保険料控除の対象となり、所得税・住民税が軽減されます。
iDeCoと国民年金基金の併用と掛金上限額
iDeCoと国民年金基金は、掛金の合計額に上限が設けられています。
・掛金合計の上限: 自営業者の場合、iDeCoと国民年金基金の掛金の合計は、月額6.8万円(年間81.6万円)が上限です。
併用のメリット:
・税制優遇の最大化: 両制度の掛金が所得控除の対象となるため、節税効果を最大限に引き出せます。
・確定給付と確定拠出の組み合わせ: 国民年金基金で「確定した年金額」を確保しつつ、iDeCoで「運用次第で増える可能性のある資産」を形成することで、リスク分散を図りながら老後資金を積み上げられます。
・将来の年金受取額を増やす: 国民年金基金とiDeCoを併用することで、国民年金だけでは不足する老後資金を、より確実に、より多く準備することが可能になります。
掛金設定の考え方:
・例えば、国民年金基金に月3万円拠出している場合、iDeCoには月3.8万円まで拠出できます(3万円+3.8万円=6.8万円)。
・国民年金基金に加入せず、iDeCoのみに拠出する場合、iDeCoの掛金上限は月6.8万円となります。
詳細は、全国国民年金基金のサイトをご確認ください。
小規模企業共済との連携

自営業者にとって、iDeCoや国民年金基金と並んで検討すべき制度が「小規模企業共済」です。これもまた、税制優遇を受けながら退職金や老後資金を準備できる制度です。
小規模企業共済とは
小規模企業共済は、小規模企業の経営者や役員、個人事業主のための退職金制度です。毎月掛金を積み立て、廃業時や引退時に共済金を受け取ることができます。掛金は全額所得控除の対象となり、iDeCoと同様に節税効果が高いです。共済金は退職所得扱いになるため、受け取り時にも税制優遇があります。
詳細は、独立行政法人 中小企業基盤整備機構のサイトをご確認ください。
iDeCo、国民年金基金、小規模企業共済の連携
これらの3つの制度は、それぞれ異なる目的と特徴を持ちますが、すべて併用が可能です。ただし、iDeCoと国民年金基金は合計で掛金、月6万8,000円が上限です。
・iDeCo: 掛金が所得控除、運用益が非課税、受け取り時も税制優遇。老後資金形成の核。
・国民年金基金: 掛金が社会保険料控除、将来の年金額が確定。公的年金の上乗せ。
・小規模企業共済: 掛金が所得控除、退職金準備。
連携のポイント:
・節税効果の最大化: いずれの制度も掛金が所得控除(または社会保険料控除)になるため、所得がある自営業者にとっては、これらの制度をフル活用することで、毎年大きな節税メリットを享受できます。
・資金使途の分散: iDeCoは原則60歳まで引き出せない老後資金、国民年金基金は終身年金、小規模企業共済は退職金や廃業時の資金として、それぞれ異なるタイミングや目的で資金を受け取れます。これにより、将来の様々な資金ニーズに対応できる柔軟性が生まれます。
・優先順位の検討: 資金に余裕があれば全て併用するのが理想ですが、まずはiDeCoと国民年金基金で老後資金の土台を固め、さらに余裕があれば小規模企業共済で退職金の上乗せを検討するなど、ご自身の事業状況や資金計画に応じた優先順位を立てることが重要です。
まとめ:自営業者こそiDeCoを核に手厚い老後保障を築こう
自営業者にとって、国民年金のみという公的年金の現状は、老後資金準備において大きな課題です。しかし、iDeCoを核に、国民年金基金や小規模企業共済といった税制優遇制度を賢く併用することで、会社員に劣らない、むしろそれ以上に手厚い老後保障を築くことが可能です。
・iDeCo: 掛金全額所得控除、運用益非課税という強力なメリットを最大限に活用し、老後資金形成の柱に据えましょう。自営業者の掛金上限は、国民年金基金との合計で月額6.8万円です。
・国民年金基金: iDeCoと併用することで、公的年金の上乗せとして、将来の確定年金額を確保できます。
・小規模企業共済: さらに余裕があれば、退職金準備として小規模企業共済も活用し、多角的に老後資金を積み上げましょう。
これらの制度を上手に組み合わせることで、現役時代の節税メリットを享受しつつ、安心して事業を継続し、豊かな老後を迎えるための盤石な基盤を築くことができます。ぜひ、今日からあなたの老後資金計画を見直し、これらの制度の活用を検討してみてください。
本記事は、CFP資格保有者であり、J-FLEC認定アドバイザーの金子賢司が執筆しています