自動車保険
自動車保険の示談交渉サービスとは?仕組みと保険会社の役割を解説

こうした状況で役立つのが「示談交渉サービス」です。契約している自動車保険会社が代理人として相手方とのやり取りを行ってくれるため、事故後の対応を安心して任せることができます。本記事では、その仕組みや保険会社の役割、利用にあたっての注意点を整理して解説します。
示談交渉サービスの仕組み

示談交渉サービスとは、自動車保険の対人賠償責任保険や対物賠償責任保険を利用する場合に、保険会社が契約者に代わって相手方と交渉を行う仕組みです。事故状況の確認、損害額の算定、過失割合の調整などを保険会社が担当するため、契約者は精神的・時間的な負担を大幅に軽減できます。
利用できるのは契約者に一定の過失がある事故です。例えば、過失割合が7:3で自分に3割の過失がある場合には、相手方との交渉を保険会社が代行します。一方で、過失ゼロの「もらい事故」の場合には、自分の保険会社は示談交渉に入れず、相手方や相手方の保険会社と直接やり取りをする必要があります。
保険会社の役割
保険会社は、事故対応において以下のような役割を担います。
・事故状況の確認と調査
・相手方や相手方の保険会社との交渉
・損害額や修理費の査定
・示談内容の確認と契約者への報告
こうした対応は、個人で行うと専門知識や法的知見が求められる難しい作業ですが、保険会社が代理してくれることでスムーズな解決が期待できます。
示談交渉サービスの限界と弁護士費用特約の役割

示談交渉サービスには利用できないケースもあります。代表的なものは以下の通りです。
・過失ゼロの被害事故(もらい事故):自分の保険会社は交渉できません。
・相手方が無保険の場合:交渉の前提となる保険契約が存在せず、示談交渉サービスは利用できません。
このようなケースで役立つのが弁護士費用特約です。被害者として損害賠償を請求する場合や、過失割合や慰謝料を巡って争いがある場合に、弁護士に依頼するための費用を保険でカバーしてくれます。また、日本損害保険協会の解説によれば、弁護士費用特約を利用しても自動車保険の等級や翌年以降の保険料には影響しません(ノーカウント事故)とされています。
ただし、利用にあたっては保険会社の事前承認が必要となる点に注意が必要です。
シミュレーションで見る示談交渉サービス
例えば、相手車両の修理費が100万円、自分の過失割合が30%であった場合を考えます。このケースでは自分の負担は30万円となりますが、保険会社が示談交渉を代理することで、修理費の査定や過失割合の調整がスムーズに進みます。契約者自身が相手と直接金銭交渉を行う必要はありません。
一方、過失ゼロのもらい事故で同様に修理費100万円の損害が発生した場合、自分の保険会社は交渉に入れません。この場合には、相手方の保険会社と直接交渉するか、弁護士費用特約を利用して弁護士に依頼することになります。
等級制度と保険料への影響
示談交渉サービスを利用して保険を使うと、通常は3等級ダウンとなり、翌年以降の保険料が上がります。さらに「事故有係数」が適用され、一定期間は割増保険料を支払うことになります。一方で、弁護士費用特約を利用した場合はノーカウント事故として扱われるため、等級や保険料に影響はありません。この違いを理解しておくことが重要です。
事故対応時の判断フロー

実際に事故が起きたとき、どのように対応すべきか迷う方も多いでしょう。以下の流れで整理すると判断しやすくなります。
ステップ1:事故の規模を確認する
修理費用が数万円程度の軽微な物損事故であれば、保険を使わず自己負担で解決する方が将来の保険料増額を防げる場合があります。一方、人身事故や修理費が高額な場合は、保険会社へ速やかに連絡し、示談交渉サービスを利用するのが安心です。
ステップ2:相手方の対応を確認する
相手方が誠実に対応し、過失割合や賠償額に合意できる場合には、示談交渉サービスで十分対応可能です。しかし、相手方が無保険であったり、過失割合や慰謝料の算定を巡って争いが生じる場合には、弁護士の力を借りる必要があります。
ステップ3:弁護士費用特約の有無を確認する
被害者の立場で賠償請求を行う場合や、相手方との交渉が難航する場合には、弁護士費用特約の利用を検討します。この特約があれば、弁護士に依頼する費用を自己負担することなく専門家のサポートを受けられます。
ステップ4:将来の保険料を考慮して判断する
保険を使うことで等級が下がり、翌年度以降の保険料が数年間上がる可能性があります。事故による損害額と保険料の増加見込みを比較し、どちらが経済的に合理的かを判断することが大切です。
このように、事故の規模・相手方の対応・弁護士特約の有無・将来の保険料への影響を踏まえて判断することで、より納得感のある対応につながります。
まとめ
示談交渉サービスは、事故後の精神的・時間的な負担を軽減する心強い仕組みです。ただし利用できる範囲には限界があり、特に過失ゼロの被害事故では自分の保険会社は交渉に入れません。その場合に備えて弁護士費用特約を活用することが有効です。
示談交渉サービスと弁護士費用特約、それぞれの役割を正しく理解し、事故時の対応を事前にイメージしておくことが、安心と経済的な備えにつながります。
参考情報
・金融庁|保険を契約している方へ(損害保険の基礎)
https://www.fsa.go.jp/ordinary/insurance.html
・国土交通省|交通事故の被害者救済対策
https://www.mlit.go.jp/jidosha/jidoshajiko.html
・日本損害保険協会|交通事故の示談の流れ
https://www.sonpo.or.jp/report/publish/bousai/koutuu/article/9/
・日本損害保険協会|任意の自動車保険の特約(弁護士費用特約)
https://soudanguide.sonpo.or.jp/car/q018.html
・日本損害保険協会|示談交渉サービスQ&A
https://soudanguide.sonpo.or.jp/car/q010.html
本記事は、CFP資格保有者であり、J-FLEC認定アドバイザーの金子賢司が執筆しています。当記事の執筆者「金子賢司」の情報は、CFP検索システムおよびJ-FLECアドバイザー検索システムにてご確認いただけます。北海道エリアを指定して検索いただくとスムーズです。