公的年金制度
老後資金計画の第一歩:具体的な目標額と達成期間の設定方法

老後資金の目標額は、夫婦世帯で2,000万円〜3,000万円が一つの目安となります。総務省の家計調査(2024年)によると、65歳以上の夫婦のみ無職世帯では毎月約3.4万円の不足が生じており、25年間で約1,020万円。ゆとりある生活や介護費用を含めると、2,000万円以上の準備が必要です。
ただし、この金額は年金額や生活スタイルによって異なります。老後資金の準備で成功するためには、「いつまでに、いくら貯めるか」という明確なゴールを設定し、そこから逆算して計画を立てることが欠かせません。
この記事では、公的年金の見込み額の確認方法から、理想の老後生活に必要な金額の算出、達成期間の設定まで、老後資金計画の立て方を3つのステップで解説します。
なぜ「目標設定」が老後資金計画に不可欠なのか?

老後資金の準備において、具体的な目標設定が重要な理由は明確です。目標がなければ、どれだけ貯めればよいのか分からず、準備が十分かどうかも判断できません。
生命保険文化センターの「生活保障に関する調査」(2025年度)によると、自分の老後生活に「不安感あり」と回答した人は8割以上にのぼっています。その不安の内容として最も多いのが「公的年金だけでは不十分」という回答でした。
出典:公益財団法人 生命保険文化センター「老後の生活費はいくらくらい必要と考える?」
不安を解消するには、まず自分に必要な金額を把握し、具体的な計画を立てることから始める必要があります。目標を設定することで、以下のメリットが得られます。
・毎月の貯蓄額が明確になり、行動に移しやすくなる
・進捗状況を確認でき、軌道修正が可能になる
・達成に向けたモチベーションを維持しやすくなる
・不安が軽減され、精神的な余裕が生まれる
目標設定は老後資金計画の土台であり、この土台がしっかりしていなければ、どれだけ努力しても効果は限定的になってしまいます。
年金見込み額の確認方法【ステップ1:現状分析】

老後資金の目標を設定する前に、まずは現在の状況を正確に把握することが第一歩となります。現状分析では、以下の3つの項目を確認しましょう。
現在の年齢と退職予定年齢を確認する
老後資金を準備できる期間は、現在の年齢と退職予定年齢によって決まります。例えば、現在40歳で65歳での退職を予定している場合、準備期間は25年間です。
準備期間が長ければ長いほど、毎月の積立額は少なくて済みます。逆に50代から準備を始める場合は、より集中的な資産形成が求められるでしょう。まずは自分にどれくらいの準備期間があるのかを把握してください。
現在の貯蓄額と毎月の貯蓄可能額を把握する
次に、現時点でいくらの貯蓄があるのか、そして毎月いくら貯蓄に回せるのかを確認します。家計簿をつけていない場合は、この機会に収支を整理することをお勧めします。
毎月の収入から、住居費、食費、光熱費、保険料、通信費などの固定費と変動費を差し引いた残りが、貯蓄可能額の目安です。ボーナスがある場合は、ボーナスからの貯蓄分も計算に含めましょう。
公的年金の見込み額を確認する
公的年金の見込み額を把握することは、老後資金計画において最も重要なステップです。年金がいくらもらえるかによって、自分で準備すべき金額が大きく変わるためです。
年金見込み額の確認方法は以下の通りです。
ねんきん定期便で確認する方法
ねんきん定期便は、毎年誕生月に日本年金機構から届く書類で、これまでの年金加入記録や将来の年金見込み額が記載されています。50歳以上の方には、現在と同じ条件で60歳まで加入し続けた場合の年金見込み額が記載されます。
50歳未満の方のねんきん定期便には見込み額の記載がないため、後述する「ねんきんネット」や「公的年金シミュレーター」を活用する必要があります。
ねんきんネットで確認する方法
日本年金機構が運営する「ねんきんネット」では、24時間いつでも年金記録の確認や見込み額の試算ができます。登録には基礎年金番号が必要ですが、マイナポータルとの連携も可能です。
ねんきんネットの「年金見込額試算」機能を使えば、今後の働き方や受け取り開始年齢を変えた場合のシミュレーションも行えます。
公的年金シミュレーターで試算する方法
厚生労働省が提供する「公的年金シミュレーター」は、利用登録不要で無料で使えるツールです。ねんきん定期便に記載された二次元コードからアクセスすれば、入力の手間を省いて試算できます。
老後資金はいくら必要?目標額の算出方法【ステップ2】

現状を把握したら、次は老後にどのような生活を送りたいのかを具体的にイメージし、必要な生活費を算出します。
老後の生活費を具体的に算出する
老後の生活費は「基本生活費」と「ゆとり費」に分けて考えると整理しやすくなります。
基本生活費の目安
総務省の「家計調査」(2024年)によると、65歳以上の夫婦のみの無職世帯における消費支出は月額約25.7万円となっています。単身の無職世帯では月額約14.9万円です。
出典:総務省統計局「家計調査報告(家計収支編)2024年平均結果の概要」
ただし、この金額は全国平均であり、住んでいる地域や持ち家か賃貸かによっても変わってきます。持ち家の場合は住居費が抑えられる一方、賃貸の場合は家賃が継続的にかかります。自分の状況に合わせて調整することが必要です。
ゆとりある老後生活費の目安
生命保険文化センターの「生活保障に関する調査」(2025年度)では、ゆとりある老後生活を送るために必要な生活費は月額平均39.1万円という結果が出ています。最低日常生活費(月額平均23.9万円)に、ゆとりのための上乗せ額(月額平均15.2万円)を加えた金額です。
ゆとりのための上乗せ額の使途として多いのは、旅行やレジャー(59.5%)、日常生活費の充実(50.1%)、趣味や教養(47.9%)などでした。老後にどのような生活を送りたいかによって、必要な金額は変わります。
出典:公益財団法人 生命保険文化センター「老後の生活費はいくらくらい必要と考える?」
医療費・介護費などの不測の出費を見込む
老後の支出を考える際に見落としがちなのが、医療費や介護費用です。これらは予測が難しい支出ですが、ある程度の備えは必要でしょう。
介護費用の目安
生命保険文化センターの「生命保険に関する全国実態調査」(2024年度)によると、介護にかかる費用は以下の通りです。
・一時的な費用(住宅改造、介護用ベッド購入など):平均47.2万円
・月々の費用:平均9.0万円
・介護期間:平均55ヶ月(4年7ヶ月)
これらを合計すると、介護費用の総額は約542万円となります。在宅介護の場合は月額平均5.3万円、施設介護の場合は月額平均13.8万円と、介護の形態によっても費用は異なります。
出典:公益財団法人 生命保険文化センター「介護にはどれくらいの費用・期間がかかる?」
介護が必要になるかどうかは分かりませんが、介護期間が4年以上に及ぶケースが約4割を占めることを考えると、500万円程度の予備資金は確保しておきたいところです。
公的年金で賄えない不足額を特定する
老後に必要な生活費と公的年金の見込み額が分かれば、自分で準備すべき金額を算出できます。
総務省の「家計調査」(2024年)によると、65歳以上の夫婦のみの無職世帯では、可処分所得(実収入から税金・社会保険料を差し引いた金額)が約22.2万円であるのに対し、消費支出は約25.7万円となっており、毎月約3.4万円の不足が生じています。
65歳以上の単身無職世帯でも、可処分所得約12.1万円に対して消費支出が約14.9万円で、毎月約2.8万円の不足です。
仮に65歳から90歳までの25年間、毎月3.4万円の不足が続くと仮定すると、不足額の合計は約1,020万円になります。さらに、ゆとりある生活を送りたい場合や介護費用を考慮すると、2,000万円から3,000万円程度の準備が目安となるでしょう。
ただし、この金額はあくまで目安であり、年金額や生活スタイル、健康状態によって必要額は大きく変わります。
毎月いくら貯めればいい?必要貯蓄額の計算【ステップ3】

必要な老後資金の目標額が決まったら、次は達成期間と毎年(毎月)の必要貯蓄額を逆算します。
複利効果を考慮した貯蓄計画の立て方
単純に目標額を準備期間の年数で割る方法もありますが、資産運用を活用すれば、複利効果によって効率的に資産を増やせる可能性があります。
複利効果とは
複利とは、元本だけでなく、運用で得た利息にも利息がつく仕組みです。例えば、年利3%で運用した場合、1年目は元本100万円に対して3万円の利息がつきます。2年目は元本103万円に対して利息がつくため、利息は3万900円となります。この差は運用期間が長くなるほど大きくなります。
試算例:2,000万円を目標とした場合
40歳から65歳までの25年間で2,000万円を準備する場合を考えてみましょう。
・運用なし(利回り0%)の場合:毎月約6.7万円の積立が必要
・年利3%で運用した場合:毎月約4.5万円の積立で達成可能
・年利5%で運用した場合:毎月約3.4万円の積立で達成可能
運用を活用することで、毎月の負担を軽減できる可能性があります。ただし、運用にはリスクが伴い、元本割れの可能性もあることは理解しておく必要があります。
無理のない範囲での年間目標額設定
目標額を設定する際に重要なのは、無理のない金額を設定することです。高すぎる目標を設定して途中で挫折するよりも、継続できる金額を設定して長く続ける方が確実です。
一般的に、収入の10〜20%程度を貯蓄に回すのが理想とされていますが、家計の状況は人それぞれです。まずは無理なく続けられる金額から始め、収入が増えたり支出を見直したりしたタイミングで貯蓄額を増やしていく方法も有効でしょう。
また、現在の貯蓄額が目標に対して不足している場合でも、焦る必要はありません。退職金の見込み額がある場合は、その金額を差し引いて計算することで、毎月の負担を軽減できます。
老後資金を効率的に貯める3つの方法

目標と期間が決まったら、具体的な行動に移しましょう。ここでは、老後資金を効率的に準備するための3つのアプローチを紹介します。
家計改善で貯蓄額を増やす
毎月の貯蓄額を増やす最も確実な方法は、支出を見直すことです。固定費の削減は効果が継続するため、優先的に取り組みたい項目となります。
・通信費:格安スマホへの乗り換えで月数千円の節約が可能
・保険料:必要以上の保障がないか見直し
・サブスクリプション:利用頻度の低いサービスの解約
・光熱費:電力会社の見直しや省エネ家電への買い替え
支出を見直した分を貯蓄に回すことで、生活水準を大きく変えずに貯蓄額を増やせます。
資産運用で効率的に増やす
預貯金だけでなく、資産運用を活用することで複利効果を得られる可能性があります。老後資金の準備に活用できる制度として、iDeCo(個人型確定拠出年金)とNISA(少額投資非課税制度)があります。
iDeCo(個人型確定拠出年金)
iDeCoは、掛金が全額所得控除の対象となり、運用益も非課税となる税制優遇が魅力です。ただし、原則60歳まで引き出しができないため、老後資金専用の積立として活用できます。
NISA
NISAは、年間360万円までの投資枠で運用益が非課税となる制度です。生涯投資枠は1,800万円で、いつでも引き出しが可能なため、老後資金だけでなく、緊急時の資金としても活用できます。
資産運用を始める際は、リスク許容度に応じた商品選びが重要です。運用期間が長く取れる場合は株式の比率を高めに、運用期間が短い場合は債券など値動きの小さい商品の比率を高めにするのが一般的です。
働き方の見直しで収入を増やす
支出の削減や資産運用に加えて、収入を増やすことも選択肢の一つとなります。
・副業やフリーランスとしての仕事
・スキルアップによる昇給や転職
・定年後も働き続けることで年金受給開始を遅らせる
特に、年金の繰り下げ受給は検討する価値があります。65歳からの受給開始を70歳まで遅らせると年金額は42%増加し、75歳まで遅らせると84%増加します。健康状態や働ける環境があれば、繰り下げ受給によって老後の収入を安定させる方法も有効でしょう。
まとめ:老後資金の目標額と計画の立て方
老後資金の目標額は、夫婦世帯で2,000万円〜3,000万円、単身世帯で1,000万円〜1,500万円が目安となります。この金額は、公的年金だけでは賄えない生活費の不足分と、介護費用などの予備資金を含めた数字です。
老後資金計画を成功させるためには、以下の3ステップで具体的な目標を設定することが欠かせません。
・ステップ1:ねんきん定期便やねんきんネットで公的年金の見込み額を確認する
・ステップ2:理想の老後生活費(月額25.7万円〜39.1万円)から目標額を算出する
・ステップ3:準備期間から毎月の必要貯蓄額を逆算する
目標を達成するためには、家計改善、資産運用(iDeCo・NISA)、働き方の見直しを組み合わせることが効果的です。年金の繰り下げ受給を活用すれば、70歳で42%、75歳で84%の増額も可能となります。
老後資金の準備は、早く始めるほど複利効果を活かせて有利になります。まずは自分の年金見込み額を確認し、具体的な目標設定から始めてみてください。
本記事は、CFP資格保有者であり、J-FLEC認定アドバイザーの金子賢司が執筆しています。当記事の執筆者「金子賢司」の情報は、CFP検索システムおよびJ-FLECアドバイザー検索システムにてご確認いただけます。北海道エリアを指定して検索いただくとスムーズです。
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