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老後資金の賢い運用術!安全性重視で資産寿命を延ばす5つの方法

老後資金の運用は「増やす」だけでなく「減らさない」視点が欠かせません。金融庁は2019年の報告書で「資産寿命の延伸」の重要性を指摘しており、退職後も計画的に資産を運用・取り崩すことが求められています。本記事では、安全性を重視しながら老後の資産寿命を延ばすための具体的な5つの方法を、公的データに基づいて紹介します。
老後資金の運用で「安全性」を優先すべき理由

退職後の資産運用では、現役世代とは異なるリスク管理の考え方が求められます。
老後の資産は「取り崩し期」に入る
現役世代の運用は「資産を増やす」フェーズですが、退職後は「資産を取り崩しながら運用する」フェーズに移行します。金融庁の金融審議会市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」(2019年)では、退職後も資産運用を継続しながら計画的に取り崩すことで、資産寿命を延ばすことが重要と指摘されました。
出典:金融庁「金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書 高齢社会における資産形成・管理」
取り崩し期には、運用で相当の損失を出すと回復する時間が限られるため、元本の安全性が最優先となります。ただし、預貯金だけで資産を保有すると、インフレ(物価上昇)によって実質的な価値が目減りするリスクもあるため、安全性とのバランスが重要になるでしょう。
高齢者世帯の収支は依然として赤字傾向
総務省「家計調査報告(2024年)」によると、65歳以上の夫婦のみ無職世帯では、可処分所得222,462円に対して消費支出が256,521円となっており、毎月約3.4万円の不足が生じています。この不足分を金融資産の取り崩しで賄う以上、運用によって資産の目減りスピードを抑える工夫が必要になります。
出典:総務省統計局「家計調査報告(家計収支編)2024年平均結果の概要」
方法1:個人向け国債で元本保証の土台をつくる

個人向け国債は国が元本と利子の支払いを保証する金融商品であり、老後資金の安全な運用先として有力な選択肢の一つです。
3種類の個人向け国債の特徴
財務省が発行する個人向け国債には、変動金利型10年・固定金利型5年・固定金利型3年の3種類があります。いずれも1万円から購入可能で、発行後1年が経過すれば中途換金もできる仕組みになっています。
2025年12月募集分の適用利率は、変動10年が1.23%、固定5年が1.35%、固定3年が1.10%と、すべてのタイプで1%を超えた水準となりました。
金利上昇局面では「変動10年」に注目
変動10年型は、半年ごとに適用利率が見直される仕組みのため、金利上昇局面では受取利息が増加するメリットがあります。適用利率には最低0.05%の保証がある点も安心材料の一つでしょう。
一方、固定5年型は発行時の利率が満期まで変わらないため、将来の金利動向に左右されず計画的な運用が可能です。2025年10月時点の応募額では固定5年が2,323億円と最も多く、個人投資家から幅広い支持を集めていることがわかります。
注意点として、個人向け国債はNISA口座では購入できません。また、中途換金時には直前2回分の利子相当額が差し引かれるため、短期間での換金には向かない商品です。
方法2:新NISAで非課税メリットを最大限活用する

2024年から始まった新NISAは、老後資金の運用においても有効な制度です。運用益が非課税になるため、資産の目減りを防ぐ効果が期待できます。
新NISAの基本的な仕組み
新NISAには「つみたて投資枠」(年間120万円)と「成長投資枠」(年間240万円)の2つの枠があり、併用が可能です。生涯を通じた非課税保有限度額は1,800万円(うち成長投資枠は1,200万円まで)で、非課税保有期間は無期限となっています。
出典:金融庁「NISAを知る」
老後資金の運用に適した活用法
退職後の運用では、つみたて投資枠を活用してバランス型の投資信託に定額で積み立てる方法が選択肢の一つとなります。バランス型ファンドは株式と債券を組み合わせているため、株式100%のファンドに比べて値動きが穏やかな傾向があります。
金融庁の資料によると、2024年にNISAを利用した動機・目的として「将来・老後の生活資金」が58%と最も多い回答でした。老後資金の運用手段としてNISAの活用が広がっていることがうかがえます。
出典:金融庁「NISA推進・連絡協議会 説明資料(2025年4月3日)」
ただし、投資信託には元本保証がないため、すべての老後資金をNISAに投入するのではなく、預貯金や個人向け国債など安全資産と組み合わせる分散が不可欠です。
方法3:預貯金を「目的別」に分けて管理する

預貯金はインフレに弱い一方、流動性(必要なときにすぐ引き出せること)に優れた資産です。老後資金の管理では、預貯金を目的別に分けることで、安全性と効率性を両立させることができます。
3つの資金区分で管理する
老後の預貯金は、以下の3つに区分して管理する方法が効果的です。
・生活防衛資金:病気やケガなど急な出費に備えるお金。生活費の6か月〜1年分を普通預金で確保する
・使う予定のあるお金:住宅リフォームや旅行など、数年以内に使う予定のあるお金。定期預金や個人向け国債で管理する
・当面使わないお金:5年以上使う予定のないお金。NISAやiDeCoなどを活用した運用に回すことも選択肢になる
この区分を行うことで、「運用に回せるお金」と「手をつけてはいけないお金」の境界が明確になります。投資に回した資産が一時的に値下がりしても、生活防衛資金が確保されていれば、慌てて売却する必要はありません。
預金保険制度の範囲も確認しておく
複数の金融機関に預金を分散する際は、預金保険制度の保護範囲を確認しておくことも重要です。預金保険制度では、1金融機関ごとに預金者1人あたり元本1,000万円までとその利息が保護の対象となっています。
出典:預金保険機構
方法4:年金の繰下げ受給で受給額を増やす

公的年金の受給開始時期を遅らせる「繰下げ受給」は、運用とは異なるアプローチで資産寿命を延ばす方法です。
繰下げによる増額の仕組み
老齢基礎年金・老齢厚生年金は、65歳での受給開始を原則として、66歳以降に受給開始を繰り下げることが可能です。繰下げた期間1か月あたり0.7%の増額率が適用され、75歳まで繰り下げた場合は最大84%の増額となります。この増額率は一生涯適用されるため、長生きするほどメリットが大きくなる仕組みです。
繰下げ受給の注意点
繰下げ受給にはいくつかの留意点があります。
・繰下げ期間中は年金を受け取れないため、その間の生活費を貯蓄や就労収入で賄う必要がある
・増額された年金は所得として課税対象となり、住民税や社会保険料の負担が増える場合がある
・加給年金や振替加算は繰下げ待機中には受け取れない
繰下げ受給は個人の健康状態や家計の状況によって判断が分かれるため、自身のライフプランを踏まえた慎重な検討が求められます。
方法5:定率取り崩しで資産の枯渇を防ぐ

老後資金を計画的に取り崩す方法にも工夫が必要です。毎月一定額を取り崩す「定額取り崩し」に対し、「定率取り崩し」は資産寿命を延ばしやすい手法として注目されています。
定額取り崩しと定率取り崩しの違い
定額取り崩しは、毎月決まった金額を引き出す方法です。家計管理がしやすい反面、相場が下落した時期にも同じ金額を引き出すことになり、資産の減少が加速するリスクを抱えています。
一方、定率取り崩しは、保有資産の一定割合(例えば年4%など)を取り崩す方法です。資産残高が減れば取り崩す金額も減るため、資産が一定のペースでゼロに近づく定額方式に比べて、理論上は資産寿命を延ばしやすい特徴があります。
定率取り崩しの注意点と実践のコツ
定率取り崩しのデメリットは、毎回の受取額が変動するため、家計の予算が立てにくい点にあります。対策としては、以下のような組み合わせが考えられるでしょう。
・年金収入で基本的な生活費をカバーする
・定率取り崩し分は「ゆとり費」として位置づける
・取り崩し率は年3〜4%程度を目安とし、無理のない範囲に設定する
金融庁の報告書でも、退職後のマネープランとして「資産運用を継続しつつ計画的に取り崩す」ことの重要性が強調されています。自身の生活費や年金収入を踏まえたうえで、無理のない取り崩し計画を立てることが大切です。
老後資金の運用で避けるべき3つのリスク

安全性を重視した運用を行ううえで、以下の3つのリスクには特に注意が必要です。
過度な集中投資
一つの金融商品や資産クラスに資金を集中させると、その商品の値動きによって資産全体が大きく影響を受けます。預貯金・国債・投資信託など、性質の異なる複数の資産に分散することでリスクの軽減が期待できるでしょう。
高コスト商品への投資
老後資金の運用では、手数料などのコストが長期的な資産の目減りにつながります。投資信託を選ぶ際は、信託報酬(運用管理費用)が低い商品を選ぶことが基本です。金融庁のNISA特設サイトでは、つみたて投資枠の対象商品として、販売手数料がゼロで信託報酬が一定水準以下の投資信託が選定されています。
インフレリスクの軽視
すべての資産を預貯金だけで保有していると、物価上昇によって資産の実質的な購買力が低下します。2025年5月の全国消費者物価指数(前年同月比)は3.5%上昇しており、預金金利だけではインフレに追いつかない状況が続いています。安全資産と運用資産を適切に配分することで、インフレリスクへの備えになるでしょう。
まとめ:安全性と成長性のバランスが資産寿命を延ばす
老後資金の運用で重要なのは、「守り」と「攻め」のバランスを取りながら、資産寿命を計画的に延ばしていくことにあります。本記事で紹介した5つの方法を整理すると、以下のとおりです。
・個人向け国債:元本保証で安全性の高い運用先として活用する
・新NISA:非課税メリットを活かしてインフレに対応した運用を行う
・預貯金の目的別管理:生活防衛資金と運用資金を明確に区分する
・年金の繰下げ受給:受給額を増やすことで毎月の収支を改善する
・定率取り崩し:資産の枯渇リスクを軽減する取り崩し方法を選ぶ
どの方法が最適かは、保有資産の規模、年金の受給見込み額、生活スタイルなど、個人の状況によって異なります。まずは自身の家計収支を把握したうえで、無理のない範囲から運用を検討してみてはいかがでしょうか。
本記事は、CFP資格保有者であり、J-FLEC認定アドバイザーの金子賢司が執筆しています。当記事の執筆者「金子賢司」の情報は、CFP検索システムおよびJ-FLECアドバイザー検索システムにてご確認いただけます。北海道エリアを指定して検索いただくとスムーズです。
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