相続
相続財産には「負の遺産」も含まれる!借金や負債を見逃さないための調査方法

相続と聞くと、不動産や預貯金といったプラスの財産をイメージしがちですが、実は借金や未払金などのマイナスの財産も相続の対象となります。民法第896条では、相続人は「被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する」と定められており、これには債務も含まれているためです。プラスの財産だけでなく、負債の調査も慎重に行うことが相続において重要なポイントとなります。
相続財産には「負の遺産」も含まれる

民法第896条は、相続人が被相続人の権利と義務を包括的に承継することを定めており、これには借金や保証債務などのマイナスの財産も含まれます。
相続が開始すると、相続人は被相続人のすべての財産を引き継ぐことになりますが、これはプラスの財産だけではありません。住宅ローンやクレジットカードの未払金、連帯保証債務など、マイナスの財産もそのまま相続人に移ります。場合によっては、プラスの財産よりもマイナスの財産のほうが多いケースもあるため、負債の調査は相続手続きにおいて欠かせないプロセスといえます。
相続される「負の遺産」の種類

相続において引き継がれる負債には、さまざまな種類があります。主なものを見ていきましょう。
借金
住宅ローン、自動車ローン、カードローン、消費者金融からの借入金など、被相続人が生前に負っていた借金は相続の対象となります。住宅ローンについては、団体信用生命保険(団信)に加入していれば死亡時に保険金で完済されることが一般的ですが、加入していなかった場合は相続人が返済義務を負うことになるため注意が必要です。
未払金
被相続人が亡くなった時点で未払いとなっていた税金、公共料金(電気・ガス・水道など)、医療費、家賃なども相続債務に含まれます。これらは比較的把握しやすいものですが、見落とすことがないよう請求書や通帳の引き落とし履歴を確認しておくことが大切です。
保証債務
被相続人が誰かの借金の連帯保証人や保証人になっていた場合、その保証債務も相続されます。保証債務は、主債務者が返済を滞らせない限り表面化しないため、相続人が存在を知らないまま相続してしまうケースがあります。特に連帯保証債務は主債務者と同等の返済義務を負うため、慎重な調査が求められる分野です。
個人事業に関連する債務
被相続人が個人事業主だった場合、事業に関連する買掛金や未払いの仕入代金、リース料なども相続債務となります。事業用の借入金や事業資金のための保証債務についても確認が必要となります。
負債があるかどうかを調べる方法

相続財産に負債が含まれているかどうかを確認するには、以下のような方法があります。
信用情報機関への開示請求
借金の有無を調査する最も確実な方法の一つが、信用情報機関への開示請求を行うことです。日本には、CIC(シー・アイ・シー)、JICC(日本信用情報機構)、KSC(全国銀行個人信用情報センター)の3つの主要な信用情報機関があり、それぞれに加盟している金融機関の情報が登録されています。
・CIC:クレジットカード会社や信販会社が加盟
・JICC:消費者金融や銀行、クレジット会社が加盟
・KSC:銀行や信用金庫などが加盟
相続人は、被相続人の信用情報を開示請求することができます。開示請求には、被相続人が亡くなったことを証明する戸籍謄本や、請求者が相続人であることを証明する書類が必要です。手数料は各機関で異なりますが、1,000円前後が一般的となります。
郵便物の確認
被相続人宛ての郵便物には、借入先からの請求書や督促状、クレジットカードの利用明細などが含まれていることがあります。死亡後も届く郵便物を注意深く確認することで、隠れた債務を発見できる可能性が高まります。
通帳の引き落とし履歴
被相続人の預金通帳を確認すると、定期的な引き落としの記録から借金やローンの返済状況を把握できます。ローン会社名や金融機関名が記載されていれば、そこから具体的な借入内容を調査することが可能です。
契約書類の確認
自宅に保管されている契約書類、金銭消費貸借契約書、保証契約書などを探すことも有効な方法です。書類が見つかれば、借入額や返済条件、保証人としての責任範囲などを確認できます。
負債が多い場合の選択肢:相続放棄と限定承認

調査の結果、負債がプラスの財産を上回ることが判明した場合、相続人には選択肢があります。
相続放棄
相続放棄とは、プラスの財産もマイナスの財産も一切相続しないことを選択する手続きをいいます。相続放棄を選択すると、初めから相続人ではなかったものとみなされるため、借金などの負債を引き継ぐ必要がなくなる反面、不動産や預貯金などのプラスの財産も受け取ることができません。
相続放棄は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に家庭裁判所に申述する必要があります。この3か月の期間を「熟慮期間」と呼びます。
熟慮期間内に相続財産の調査が完了しない場合は、家庭裁判所に期間の伸長を申し立てることもできます。
限定承認
限定承認とは、プラスの財産の範囲内でマイナスの財産を相続するという方法です。プラスの財産が1,000万円、マイナスの財産が1,500万円だった場合、1,000万円の範囲内でのみ負債を返済し、残りの500万円については責任を負わないという仕組みになります。
限定承認は、相続人全員が共同で行う必要があり、相続放棄と同じく3か月以内に家庭裁判所に申述しなければなりません。手続きが複雑であることや、相続人全員の同意が必要なことから、実務上はあまり利用されていないのが現状です。
相続放棄や限定承認を検討する際の注意点

相続放棄や限定承認を選択する前に、以下の点に注意が必要となります。
単純承認とみなされる行為に注意
相続財産の一部を処分したり、使用したりすると、単純承認(すべての財産を相続すること)をしたとみなされ、その後に相続放棄や限定承認をすることができなくなります。被相続人の預金を引き出して葬儀費用以外に使った場合や、不動産を売却した場合などが該当する可能性があるため、慎重な対応が求められます。
3か月の期限は厳守
熟慮期間の3か月は非常に重要な期限となります。この期間内に相続放棄または限定承認の申述を行わないと、自動的に単純承認したものとみなされ、すべての負債を引き継がなければなりません。財産調査に時間がかかりそうな場合は、早めに期間伸長の申立てを検討することが重要です。
後順位の相続人への影響
相続人が相続放棄をすると、次の順位の相続人に相続権が移ります。たとえば、子全員が相続放棄をした場合、被相続人の親が相続人となり、親もいなければ兄弟姉妹が相続人となります。相続放棄を検討する際は、後順位の相続人にも連絡を取り、状況を説明しておくことが望ましいといえます。
まとめ
相続では、プラスの財産だけでなく借金や未払金などの負債も引き継がれるため、財産調査は慎重に行う必要があります。
・民法第896条により、債務も含めたすべての権利義務を相続する
・信用情報機関への開示請求で借金の有無を確認できる
・郵便物や通帳の確認も有効な調査方法となる
・負債が多い場合は3か月以内に相続放棄または限定承認を検討する
・相続財産を処分すると単純承認とみなされるため注意が必要
相続開始後の3か月は、財産調査と今後の方針を決める重要な期間です。負債の存在を見逃さないよう、複数の方法で調査を行い、必要に応じて弁護士や司法書士などの専門家に相談することをおすすめします。次回は、相続人の範囲と法定相続分について詳しく解説していきます。
本記事は、CFP資格保有者であり、J-FLEC認定アドバイザーの金子賢司が執筆しています。当記事の執筆者「金子賢司」の情報は、CFP検索システムおよびJ-FLECアドバイザー検索システムにてご確認いただけます。北海道エリアを指定して検索いただくとスムーズです。
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