相続
相続でよくあるトラブル10選と回避策!「争族」を防ぐために知っておくべきポイント

相続トラブルは資産家だけの問題ではありません。令和6年の司法統計によると、家庭裁判所に持ち込まれた遺産分割事件は15,379件にのぼり、認容・調停成立に至った事件のうち約78%は遺産額5,000万円以下のごく一般的な家庭で発生しています。相続は家族の絆を試される場面でもあり、事前の備えがないまま相続が発生すると、それまで仲の良かった家族関係が一変することも珍しくありません。この記事では、相続の現場で実際に起こりやすいトラブルを10のパターンに分類し、それぞれの回避策を解説します。
相続トラブルの現状|遺産分割事件は20年で約1.7倍に増加

家庭裁判所に申し立てられた遺産分割事件の件数は増加傾向にあり、20年前と比べて約1.7倍に達しています。
令和6年の司法統計によると、遺産分割事件の総数は15,379件です。このうち認容・調停成立に至った7,903件を遺産価額別に見ると、遺産額1,000万円以下が約36%(2,810件)、5,000万円以下が約78%(6,164件)を占めている状況です。遺産が少ないからといってトラブルが起きないわけではなく、むしろ遺産の大部分が自宅の土地・建物である場合、分割方法をめぐって意見が対立しやすい傾向にあるといえるでしょう。
出典:裁判所「司法統計年報」
トラブル1:不動産の分け方で意見が対立する

相続財産に不動産が含まれる場合、分割方法をめぐる対立が最も起きやすいトラブルの一つです。
預貯金や現金は金額どおりに分けられますが、自宅や土地といった不動産は物理的に分けることが難しい財産の代表格です。たとえば、相続人の一人が実家に住み続けたい場合でも、ほかの相続人は売却して現金で分けたいと考えるケースがあります。
回避策:不動産の分割方法を事前に検討しておく
不動産の分割には主に以下の4つの方法があり、家族の状況に合った方法を事前に話し合っておくことが重要です。
・現物分割:土地を分筆してそれぞれが取得する方法
・代償分割:不動産を取得した相続人が、ほかの相続人に代償金を支払う方法
・換価分割:不動産を売却し、売却代金を分配する方法
・共有分割:不動産を共有名義にする方法(将来のトラブルにつながりやすいため注意が必要)
トラブル2:遺言書がないために話し合いが難航する

遺言書が残されていない場合、相続人全員で遺産分割協議を行う必要があり、合意形成が難しくなりがちです。
遺産分割協議は相続人全員の合意が必要であり、一人でも反対すれば成立しません。相続人同士が疎遠だったり、連絡が取れない相続人がいたりすると、手続きが長期間にわたって停滞することになります。
回避策:公正証書遺言を作成しておく
遺言書を作成しておけば、遺産分割協議を経ずに手続きを進められます。特に公正証書遺言は、公証人が作成するため無効になるリスクが低く、家庭裁判所での検認手続きも不要です。遺言書には「付言事項」として家族へのメッセージを添えることもでき、遺産の分け方に込めた思いを伝えることで、相続人の納得を得やすくなります。
出典:日本公証人連合会
トラブル3:寄与分をめぐる争い|「親の介護をしたのに…」

被相続人の介護や事業の手伝いなどで特別な貢献をした相続人が、寄与分の主張をめぐって他の相続人と対立するケースも目立ちます。
たとえば、長男が長年にわたり親の介護を担った場合、「その分多くもらうべきだ」と考えるのは自然なことです。しかし、介護の負担を客観的に金銭評価することは難しく、ほかの相続人が「それほどの貢献はなかった」と感じれば、話し合いは平行線をたどることになりかねません。
回避策:介護記録を残し、生前に家族で話し合う
介護にかかった費用や時間の記録を残しておくことで、客観的な根拠に基づいた話し合いがしやすくなります。また、被相続人が元気なうちに「誰がどの程度貢献しているか」を家族間で共有し、遺言書に反映しておくことも有効な対策です。なお、令和元年の民法改正により、相続人以外の親族(たとえば長男の妻など)が介護に貢献した場合、「特別寄与料」として金銭を請求できる制度も設けられています。
トラブル4:生前贈与をめぐる「特別受益」の争い

生前に特定の相続人だけが多額の贈与を受けていた場合、他の相続人との間で不公平感からトラブルに発展することがあります。
たとえば、長女だけが住宅購入資金として1,000万円の贈与を受けていたケースでは、相続時にほかの相続人から「その分は遺産の前渡しだったはず」と特別受益の主張がなされることがあるでしょう。特別受益に該当する贈与は遺産に「持ち戻し」して計算されるため、生前贈与を受けた相続人の取り分が減る可能性も出てきます。
回避策:贈与の内容を記録し、遺言書に「持ち戻し免除」を記載する
被相続人が遺言書で「特別受益の持ち戻しを免除する」旨を記載しておけば、生前贈与分を遺産に加算せずに分割できます。ただし、遺留分を侵害する場合は遺留分侵害額請求の対象となるため、贈与額と遺産額のバランスには注意が必要です。
トラブル5:相続人が多く、連絡が取れない人がいる

被相続人の戸籍を調べた結果、疎遠な親族や面識のない相続人が判明し、手続きが進まなくなるトラブルも少なくありません。
前妻との間に子どもがいるケース、認知した子がいるケースなどでは、被相続人の出生から死亡までの戸籍を取得して初めて相続人の存在が明らかになることがあります。遺産分割協議は相続人全員の参加が必要なため、連絡の取れない相続人がいると手続きが完全に止まってしまいます。
回避策:戸籍調査を早期に行い、必要に応じて専門家に依頼する
相続が発生したら、まず被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本を取得し、法定相続人を正確に把握することが第一歩です。連絡先が不明な相続人がいる場合は、戸籍の附票から住所を調べることも可能です。どうしても連絡が取れない場合は、家庭裁判所に不在者財産管理人の選任を申し立てるなどの法的手続きが必要になることもあるため、弁護士や司法書士への相談を検討してみてください。
トラブル6:二次相続の税負担が想定以上に重い

一次相続(最初の相続)で配偶者の税額軽減を最大限に活用した結果、二次相続(配偶者が亡くなったときの相続)で子どもに想定以上の税負担がかかるケースがあります。
配偶者の税額軽減は、配偶者が取得した財産が1億6,000万円または法定相続分のいずれか大きい金額まで相続税がかからない制度です。この制度を活用すれば一次相続の税額は大幅に抑えられますが、二次相続では配偶者の税額軽減が使えないうえ、法定相続人が1人減ることで基礎控除額も下がるため、トータルの税負担が増えることがあります。
回避策:一次相続と二次相続を通じたシミュレーションを行う
一次相続の時点で、二次相続まで見据えた税額シミュレーションを行うことが重要です。場合によっては、一次相続で配偶者の取得分を抑え、子どもに多く相続させたほうが、トータルの税負担が軽くなるケースもあります。相続税の計算は複雑なため、税理士に試算を依頼することを検討してみてください。
トラブル7:相続登記を放置して過料を科される

令和6年4月から相続登記が義務化され、正当な理由なく登記を怠ると10万円以下の過料の対象になります。
法務省によると、不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内に相続登記を申請することが法律上の義務となりました。令和6年4月1日より前に発生した相続についても、令和9年3月31日までに登記が必要です。相続登記を放置すると、将来の売却や活用が困難になるだけでなく、相続人がさらに増えて権利関係が複雑化するリスクもあります。
回避策:早期に相続登記を済ませる
遺産分割協議がまとまらない場合でも、「相続人申告登記」制度を利用すれば、法務局に相続人であることを申し出るだけでひとまず義務を果たすことが可能です。ただし、これは暫定的な措置であり、遺産分割が成立した日から3年以内に正式な相続登記を行わなければなりません。
トラブル8:被相続人の借金が相続後に発覚する

相続開始後に被相続人の借金やローンが判明し、想定外のマイナス財産を引き継ぐことになるトラブルも起こりえます。
相続ではプラスの財産だけでなく借金などのマイナスの財産も承継対象となるのが原則です。被相続人が連帯保証人になっていた場合、主債務者が返済不能になれば保証債務の履行を求められる可能性もあるため、注意が必要です。
回避策:信用情報機関への開示請求で負債を確認する
相続が発生したら、以下の3つの信用情報機関に対して開示請求を行い、被相続人の借入状況を確認しましょう。
・CIC(割賦販売・クレジット関連)
・JICC(日本信用情報機構)(消費者金融・信販関連)
・KSC(全国銀行個人信用情報センター)(銀行ローン関連)
プラスの財産よりマイナスの財産が多い場合は、相続の開始を知った日から3か月以内に家庭裁判所で「相続放棄」の手続きを行うことで、借金の引き継ぎを回避できます。期限を過ぎると原則として相続放棄ができなくなるため、早期の財産調査が欠かせません。
トラブル9:遺言書の内容に不満がある相続人が遺留分を請求する

遺言書で特定の相続人に遺産を集中させた場合、遺留分を侵害された相続人から遺留分侵害額請求がなされる可能性があります。
たとえば、「全財産を長男に相続させる」という遺言があっても、配偶者や他の子どもには法律で保障された最低限の取り分(遺留分)が認められています。遺留分は配偶者や子の場合、法定相続分の2分の1です。
回避策:遺言書の作成時に遺留分を考慮する
遺言書を作成する際は、各相続人の遺留分を侵害しない内容にすることが基本です。やむを得ず遺留分を侵害する内容にする場合は、遺留分に相当する金銭を用意しておくか、付言事項でその理由を丁寧に説明し、相続人の理解を得る工夫が必要になります。また、遺留分侵害額請求には「知った時から1年」「相続開始から10年」という時効がある点も押さえておきましょう。
トラブル10:デジタル資産の存在を把握できない

近年はネット銀行や暗号資産、電子マネーなどのデジタル資産を保有するケースが増えており、相続人がその存在を把握できないトラブルが増加しています。
通帳やキャッシュカードが存在しないネット銀行口座、ID・パスワードがわからない証券口座などは、相続人が存在自体を知らないまま放置されてしまうリスクがあるでしょう。また、サブスクリプションサービスの解約漏れにより、被相続人の口座から継続的に引き落としが続く事例も見られます。
回避策:デジタル資産のリストを生前に作成しておく
ネット銀行、ネット証券、暗号資産、電子マネー、各種サブスクリプションなど、デジタル資産の一覧をエンディングノートや財産目録に記載しておくことが有効です。パスワードそのものを記録することはセキュリティ上の懸念がありますが、「どの金融機関にどんな口座があるか」だけでも整理しておけば、相続人の負担は大幅に軽減されます。
相続トラブルを防ぐための5つの基本対策

ここまで紹介した10のトラブルに共通する、基本的な予防策をまとめます。
対策1:遺言書を早めに作成する
遺言書は相続トラブルを防ぐ最も有効な手段です。公正証書遺言であれば無効になるリスクも低く、自筆証書遺言の場合も法務局の保管制度を利用することで紛失や改ざんを防げます。
対策2:財産目録を作成して家族と共有する
プラスの財産・マイナスの財産・デジタル資産を含む財産目録を作成し、信頼できる家族と情報を共有しておくことで、相続発生後の混乱を防げます。
対策3:生前に家族で話し合いの場を設ける
相続について生前に話し合うことに抵抗を感じる方も少なくありませんが、被相続人の意思を直接聞ける機会は生前しかありません。家族間の認識のズレを早い段階で解消しておくことが、トラブル防止には効果的です。
対策4:相続登記や各種手続きを先送りしない
手続きを放置すると、相続人の増加や関係の複雑化を招きます。相続登記の義務化にともなう過料のリスクもあるため、相続が発生したら速やかに手続きを進めることが大切です。
対策5:専門家に早めに相談する
相続は法律・税務・不動産など多くの分野にまたがる問題です。税理士、司法書士、弁護士など、それぞれの専門家の役割を理解し、早めに相談することでトラブルを未然に防ぐことができます。
トラブルが発生したら|家庭裁判所の調停制度を活用する

遺産分割協議がまとまらない場合は、家庭裁判所の「遺産分割調停」を利用して解決を図ることができます。
裁判所によると、遺産分割調停は裁判官と調停委員が中立公正な立場で当事者双方の言い分を聞き、合意を目指して話し合いを進める手続きです。当事者同士が直接顔を合わせずに進められるため、感情的な対立を避けやすいというメリットがあります。
調停で合意に至らない場合は自動的に審判手続きに移行し、裁判官が遺産分割の方法を決定します。申立てに必要な費用は被相続人1人につき収入印紙1,200円と連絡用の郵便切手で、経済的な負担は比較的軽いといえるでしょう。
出典:裁判所「遺産分割調停」
まとめ
相続トラブルは「うちは大丈夫」と思っている家庭ほど起こりやすいといわれています。司法統計が示すとおり、遺産額5,000万円以下の一般的な家庭でも、遺産分割をめぐる争いは数多く発生しています。
トラブルを防ぐために押さえておきたいポイントは以下の3つです。
・遺言書を作成し、遺留分にも配慮した内容にする
・財産の全容(デジタル資産・負債を含む)を生前に整理しておく
・不安がある場合は税理士・司法書士・弁護士など専門家に早めに相談する
「争族」を「想続」に変えるために、元気なうちから準備を始めることが、家族への最大の思いやりといえるでしょう。
本記事は、CFP資格保有者であり、J-FLEC認定アドバイザーの金子賢司が執筆しています。当記事の執筆者「金子賢司」の情報は、CFP検索システムおよびJ-FLECアドバイザー検索システムにてご確認いただけます。北海道エリアを指定して検索いただくとスムーズです。
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