家計管理
独身女性の老後資金はいくら必要?年金の男女差と不足分を補う3つの方法

「独身で老後を迎えたら、お金は足りるのだろうか」──この不安を抱える女性は少なくないでしょう。厚生年金の平均月額は男性約16.7万円に対し女性は約10.7万円で、月6万円もの差があります。独身の場合は配偶者の年金による補完もないため、計画的な備えが欠かせません。
一方で、年金の男女差がなぜ生じるのかを正しく理解し、自分に合った対策を早い段階から始めれば、不安は具体的な行動に変わるでしょう。この記事では、公的データをもとに年金の男女差の実態を明らかにしたうえで、独身女性が老後資金の不足分を補うための具体策を解説します。
年金の男女差はなぜ生まれるのか|厚生年金で月6万円の格差

厚生年金の平均月額は男性約16.7万円、女性約10.7万円で、この差には現役時代の収入格差と加入期間の違いが影響しています。
厚生年金の男女別平均額|女性は男性の約6割
厚生労働省「令和5年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、厚生年金の受給権者の平均年金月額(老齢基礎年金を含む)は以下のとおりです。
・男性:16万6,606円
・女性:10万7,200円
・差額:月約5万9,000円(年間で約71万円)
女性の平均額は男性の約64%にとどまっています。仮にこの差が65歳から87歳(女性の平均寿命付近)まで22年間続くとすると、生涯の年金受取総額の差は約1,560万円にのぼる計算です。
一方、国民年金(老齢基礎年金)の平均月額は男性5万9,965円、女性5万5,777円で、差は約4,000円にとどまります。年金の男女差は、主に厚生年金部分で生じているのが実態です。
出典:厚生労働省「令和5年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」
男女差が生じる3つの要因
厚生年金の額は「加入期間の長さ」と「期間中の報酬額」で決まります。女性の年金額が低くなる主な要因は以下の3つです。
・報酬額の差:厚生年金被保険者の標準報酬月額の平均は、男性37万7千円に対し女性は26万7千円(令和6年度末現在)。報酬が低いほど保険料も年金額も少なくなる
・加入期間の差:出産・育児・介護などで離職し、厚生年金に加入しない期間が生じやすい
・非正規雇用の影響:パートや派遣など厚生年金に加入しない(または加入期間が短い)働き方の割合が女性に多い
これらは「個人の努力不足」ではなく、労働市場の構造的な問題が背景にあります。ただし、この現実を踏まえて自分の年金額がどの程度になるかを把握し、不足分を補う行動を起こすことが重要です。
出典:厚生労働省「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」
独身女性の老後、年金だけでいくら足りないのか

65歳以上の単身無職世帯の平均支出は月約16.2万円であり、女性の厚生年金平均額10.7万円では毎月5万円以上の不足が見込まれます。
65歳以上・単身無職世帯の平均支出
総務省「家計調査報告(家計収支編)2024年平均結果の概要」によると、65歳以上の単身無職世帯の1か月あたりの支出は以下のとおりです。
・消費支出:約14万9,000円
・非消費支出(税・社会保険料):約1万3,000円
・合計:約16万2,000円
この金額は持ち家を前提とした平均値であり、賃貸住宅に住み続ける場合は住居費が上乗せされるため、さらに支出が増える可能性があります。
出典:総務省「家計調査報告(家計収支編)2024年(令和6年)平均結果の概要」
年金額と生活費のギャップを試算する
女性の厚生年金平均月額10万7,200円を収入の目安とし、単身無職世帯の平均支出16万2,000円と比較してみましょう。
・月の不足額:約5万5,000円
・年間の不足額:約66万円
・65歳から87歳まで22年間の累計不足額:約1,450万円
さらに、女性の平均寿命は87.14歳(厚生労働省「令和5年簡易生命表」)ですが、あくまで「平均」であり、90歳や95歳まで生きる可能性も十分あるでしょう。90歳まで25年間で計算すると不足額は約1,650万円、95歳まで30年間なら約1,980万円に膨らみます。
なお、この試算は厚生年金に加入していた女性の「平均」を前提としています。国民年金のみの場合は月額約5.6万円が平均のため、不足額はさらに拡大する点に留意が必要です。
独身女性が知っておきたい「公的保障の穴」

独身の場合、配偶者の年金や遺族年金による補完がないため、公的保障の「穴」が既婚者より大きくなりやすい構造にあります。
遺族年金がない|「もしも」の備えは自分だけが頼り
独身者には遺族年金を受け取る配偶者や子がいないため、自身が亡くなった場合に遺族年金は発生しません。裏を返せば、独身女性にとって死亡保障の優先度は低く、その分の保険料を老後資金の積立に回すほうが合理的だといえます。
一方、病気やケガで長期間働けなくなるリスクへの備えは重要度が高まります。会社員であれば健康保険の傷病手当金(標準報酬日額の3分の2、最長1年6か月)がありますが、自営業者・フリーランスの場合はこの制度がないため、就業不能保険や所得補償保険の検討が必要になるでしょう。
介護の担い手がいない|介護費用への備え
独身の場合、介護が必要になったときに同居の家族に頼ることが難しく、介護サービスの自己負担額が増える傾向にあります。公的介護保険では費用の1〜3割が自己負担となりますが、施設入居が必要になった場合は月10万〜20万円程度の負担が生じるケースもあります。
老後資金の試算においては、生活費だけでなく介護費用の備えも視野に入れておく必要があるでしょう。
不足分を補う3つの方法|年金の「目減り」時代に備える

年金の不足分を補うには、「年金自体を増やす」「税制優遇制度で資産を作る」「働き方を見直す」の3つのアプローチがあります。
①繰下げ受給で年金額を増やす
年金の受給開始を65歳から遅らせる「繰下げ受給」は、独身女性にとって有効な選択肢の一つです。1か月あたり0.7%増額され、最大75歳まで繰り下げると84%の増額になります。
仮に女性の厚生年金平均額10万7,200円を70歳まで5年間繰り下げた場合、月額は約15万2,000円(42%増)に増えます。これは65歳以上単身無職世帯の平均的な消費支出(約14.9万円)をほぼカバーできる水準です。
ただし、繰下げ期間中は年金を受け取れないため、65歳から70歳までの5年間の生活費(約970万円)を他の資金で賄う必要がある点は押さえておかなければなりません。
出典:厚生労働省「年金制度の仕組みと考え方 第11 老齢年金の繰下げ受給と繰上げ受給」
②iDeCo・NISAで「自分年金」を作る
公的年金の不足分を補う手段として、税制優遇制度を活用した資産形成が有効です。
iDeCo(個人型確定拠出年金)は、掛金が全額所得控除の対象となり、運用益も非課税、受取時にも税制優遇が受けられます。現在の加入可能年齢は65歳未満ですが、2026年12月の制度改正で70歳未満に引き上げられる予定です。独身で扶養控除がない分、所得控除のメリットはより実感しやすいでしょう。
NISA(少額投資非課税制度)は、つみたて投資枠(年間120万円)と成長投資枠(年間240万円)を合わせて最大1,800万円まで非課税で運用できます。iDeCoと異なり資金の引出しに年齢制限がないため、老後以外のライフイベントにも対応しやすい点が特徴です。
先ほどの試算で65歳から87歳までの不足額は約1,450万円でした。仮に35歳から30年間、毎月約2.7万円を年利3%で積み立てた場合、約1,570万円になります(金融庁つみたてシミュレーターで試算)。iDeCoとNISAを組み合わせれば、月3万円程度の積立でこの不足額をカバーできる計算です。
③厚生年金に長く加入する働き方を選ぶ
年金額の男女差の根本的な原因は、現役時代の報酬額と加入期間にあります。したがって、厚生年金に加入できる働き方をできるだけ長く続けることが、年金額を増やす最も直接的な方法になります。
2024年10月からは、従業員51人以上の企業で週20時間以上働くパートタイマーも厚生年金の加入対象に拡大されました。「扶養の範囲内で」と考えていた働き方を見直し、厚生年金に加入することで、将来の年金額を増やせる可能性があります。
厚生年金への加入は保険料負担が生じますが、その分は将来の年金として返ってきます。目先の手取り額だけでなく、生涯の収支で考えることが重要です。
まずやるべきこと|「ねんきんネット」で自分の年金額を把握する

老後資金の計画は、自分の年金見込み額を知ることから始まります。日本年金機構の「ねんきんネット」で確認しましょう。
確認の際には、以下の2点を意識してください。
・表示される金額は「現時点の制度・物価水準」での見込みであり、マクロ経済スライドによる調整で実質的な価値は目減りする可能性がある
・平均値ではなく「自分の数字」で計画を立てることが重要。平均より多い人も少ない人もいるため、自分の加入記録に基づいた見込み額を起点にする
年金見込み額と65歳以降の想定支出を比較し、不足額が見えれば、繰下げ受給・iDeCo・NISA・働き方の見直しなど、どの手段をどの程度活用すべきかが具体化するでしょう。
まとめ|独身女性の老後は「知ること」から始まる
独身女性の老後資金計画で押さえるべきポイントを整理します。
・厚生年金の平均月額は男性16.7万円に対し女性10.7万円で、月6万円の差がある
・65歳以上単身無職世帯の平均支出は月約16.2万円で、女性の年金平均額では月5万円以上の不足が見込まれる
・65歳から87歳までの22年間で約1,450万円の不足が試算される(厚生年金加入者の平均の場合)
・独身には遺族年金がなく、介護の担い手も限られるため、自助努力の重要度が高い
・繰下げ受給(70歳で42%増額)、iDeCo・NISAによる積立、厚生年金への長期加入が具体策となる
老後の不安は「漠然としている」から不安なのであり、数字で把握すれば具体的な対策に変わります。まずは「ねんきんネット」で自分の年金見込み額を確認し、不足額を算出するところから始めてみてください。
参考情報
・厚生労働省「令和5年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」
https://www.mhlw.go.jp/content/001359541.pdf
・厚生労働省「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」
https://www.mhlw.go.jp/content/001617995.pdf
・総務省「家計調査報告(家計収支編)2024年(令和6年)平均結果の概要」
https://www.stat.go.jp/data/kakei/sokuhou/tsuki/pdf/fies_gaikyo2024.pdf
・厚生労働省「令和5年簡易生命表の概況」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life23/index.html
・金融庁「つみたてシミュレーター」
https://www.fsa.go.jp/policy/nisa2/tsumitate-simulator/
本記事は、CFP資格保有者であり、J-FLEC認定アドバイザーの金子賢司が執筆しています。当記事の執筆者「金子賢司」の情報は、CFP検索システムおよびJ-FLECアドバイザー検索システムにてご確認いただけます。北海道エリアを指定して検索いただくとスムーズです。



