公的年金制度
海外赴任・海外移住と日本の年金:脱退一時金や社会保障協定を解説

海外での生活や仕事は魅力的ですが、日本の年金制度がどうなるのか不安を感じる方も少なくないでしょう。特に海外赴任が決まった会社員や、海外移住を検討している方にとって、「年金保険料は払い続けるべきか」「将来の年金はどうなるのか」は切実な問題となります。
本記事では、海外居住中の日本の年金制度への加入方法、外国人向けの脱退一時金制度、そして年金の二重加入を防ぐ社会保障協定について詳しく解説します。海外赴任・移住前に知っておくべきポイントを押さえ、将来の年金を守るための参考にしてください。
海外居住中の日本の年金制度への加入はどうなる?

海外に居住する場合、日本の年金制度への加入状況は大きく変わります。ここでは、国民年金の任意加入制度と厚生年金の継続加入について説明します。
国民年金の任意加入制度
日本国内に住所がなくなると、国民年金の強制加入の対象外となります。しかし、日本国籍を持つ方であれば、海外居住中も国民年金に「任意加入」することが可能です。
任意加入の対象者
・日本国籍を持つ20歳以上65歳未満の方
・厚生年金保険や共済組合に加入していない方
任意加入のメリット
・将来受け取る老齢基礎年金の額を増やせる
・海外居住中に万が一のことがあった場合、障害基礎年金や遺族基礎年金の受給要件を満たせる
・付加保険料を納めることで年金額をさらに増やせる
手続き方法
出国前の場合は住所地の市区町村の国民年金担当窓口、出国後の場合は国内最終住所地の市区町村窓口または年金事務所で手続きが可能です。なお、届出をした月からの加入となり、海外転出日にさかのぼって加入することはできません。
保険料の納付方法
・日本国内の協力者(親族など)が納付書で納める方法
・日本国内に開設している預貯金口座からの口座振替
・クレジットカードでの納付
2025年度(令和7年度)の国民年金保険料は月額17,510円となっています。
任意加入しない場合の「合算対象期間(カラ期間)」
任意加入をしなかった場合でも、1961年(昭和36年)4月以降の海外居住期間は「合算対象期間(カラ期間)」として、老齢基礎年金の受給資格期間(10年)に算入されます。ただし、合算対象期間は年金額には反映されないため、将来の年金額を増やしたい場合は任意加入をして保険料を納めることが必要です。
海外赴任中の厚生年金の継続加入
日本の会社に在籍したまま海外赴任する場合、適用事業所との使用関係が継続していれば、引き続き日本の厚生年金保険の被保険者となります。
厚生年金の被保険者となる条件
・適用事業所との使用関係が継続していること(労務の提供、賃金等の支払い、人事管理等を総合的に判断)
・日本の事業所から給与が支払われていること
海外赴任期間中も厚生年金の加入期間として認められるため、将来の年金額に反映されます。なお、給与の全額が海外でのみ支払われる場合は、日本の事業所との使用関係が継続していないとみなされ、厚生年金に加入できない可能性があるため注意が必要です。
第3号被保険者の配偶者について
2020年(令和2年)4月1日から、国民年金第3号被保険者(厚生年金加入者の被扶養配偶者)には国内居住要件が追加されました。ただし、海外赴任に同行する配偶者については「海外特例」に該当し、引き続き第3号被保険者として認められます。この場合、勤務先を経由して届出が必要となります。
海外移住者向けの「脱退一時金」とは?

脱退一時金は、主に日本で働いていた外国人が帰国する際に利用できる制度ですが、その仕組みを理解しておくことは、外国人を雇用する企業にとっても、また国際結婚などで外国籍の家族がいる方にとっても重要となります。
脱退一時金の概要と受給条件
脱退一時金とは、日本国籍を持たない方が日本の年金制度に加入していた場合に、出国後に納めた保険料の一部を一時金として受け取れる制度です。年金の受給資格期間(10年)を満たさずに帰国する場合の「保険料の掛け捨て」を防ぐ目的で設けられました。
受給要件(国民年金・厚生年金共通)
・日本国籍を持っていないこと
・国民年金または厚生年金の加入期間が6か月以上あること
・老齢年金の受給資格期間(10年以上)を満たしていないこと
・障害基礎年金や障害厚生年金などの受給権を持ったことがないこと
・日本国内に住所がないこと
・公的年金制度の資格喪失日から2年以内であること(資格喪失日に日本国内に住所があった場合は、その後に住所がなくなった日から2年以内)
脱退一時金の支給額
国民年金の場合
支給額 = 最後に保険料を納付した月が属する年度の保険料額 × 1/2 × 支給額計算に用いる数
2024年度(令和6年度)の保険料は月額16,980円です。支給額計算に用いる数は、保険料納付済期間に応じて6~60(6か月ごとに区分)となります。2021年(令和3年)4月から支給上限が36か月(3年)から60か月(5年)に引き上げられました。
厚生年金の場合
支給額 = 被保険者であった期間の平均標準報酬額 × 支給率
支給率は、最終月の属する年の前年10月の保険料率(現在は18.3%)の2分の1に、被保険者期間に応じた数(6~60)を乗じて計算します。
脱退一時金を受給する際の注意点
将来の年金受給資格への影響
脱退一時金を受け取ると、それまでの年金加入期間がすべてなくなります。つまり、将来再び日本で働いて年金に加入しても、以前の加入期間は通算されません。社会保障協定締結国の出身者の場合は、母国の年金との通算にも影響が出るため、慎重な検討が必要です。
請求のタイミング
脱退一時金は、住民票の転出届を提出し、日本国内に住所がなくなった後に請求できます。出国前に請求書を提出する場合は、転出(予定)日以降に日本年金機構に届くように送付する必要があります。
税金の源泉徴収(厚生年金の場合)
厚生年金保険の脱退一時金については、支給時に20.42%の所得税(復興特別所得税を含む)が源泉徴収されます。ただし、後日「退職所得の選択課税」を適用して還付申告を行うことで、税金の還付を受けられる場合があります。なお、国民年金の脱退一時金は源泉徴収の対象外となっています。
社会保障協定とは?年金二重加入・無年金期間を防ぐ制度

海外赴任や海外勤務において「年金保険料の二重払い」や「保険料の掛け捨て」は大きな問題です。これらを解決するために、日本は各国と社会保障協定を締結しています。
社会保障協定の目的と仕組み
二重加入の防止
海外赴任者は、日本の年金制度に加入しながら、赴任先の国の年金制度にも加入を求められることがあります。社会保障協定により、どちらか一方の国の制度にのみ加入することで、二重払いを防止できます。
年金加入期間の通算
各国の年金制度には、年金を受け取るための最低加入期間が設けられています。協定により、日本と相手国の年金加入期間を通算できるため、どちらの国でも受給資格を満たしやすくなります。
適用のルール
・派遣期間が5年以内の見込み:派遣元国(日本)の年金制度のみに加入
・派遣期間が5年を超える見込み:派遣先国の年金制度に加入
協定締結国と日本の年金制度の扱い
2024年(令和6年)4月1日時点で、日本は23か国と社会保障協定を締結し発効しています。
協定発効済みの国(23か国)
ドイツ、イギリス、韓国、アメリカ、ベルギー、フランス、カナダ、オーストラリア、オランダ、チェコ、スペイン、アイルランド、ブラジル、スイス、ハンガリー、インド、ルクセンブルク、フィリピン、スロバキア、中国、フィンランド、スウェーデン、イタリア
二重加入防止のみの国(期間通算なし)
イギリス、韓国、中国、イタリアの4か国との協定は「保険料の二重負担防止」のみで、年金加入期間の通算は行われません。これらの国に赴任する場合は、日本での年金受給資格を満たすために、任意加入などで加入期間を確保する必要がある点に注意が必要です。
社会保障協定を活用するメリット
企業・個人の保険料負担軽減
二重加入が防止されることで、企業と従業員双方の保険料負担が軽減されます。
年金受給権の確保
複数国での勤務経験がある方でも、加入期間を通算することで、それぞれの国の年金を受け取れる可能性が高まります。例えば、日本で7年、アメリカで5年働いた場合、それぞれの国で受給資格期間を満たせなくても、通算12年として両国での年金受給が可能になります。
ただし、通算により受給資格を得た場合でも、実際に受け取る年金額は各国での加入期間に応じた額となります。
適用証明書の取得
社会保障協定を活用するためには、日本の年金制度に加入していることを証明する「適用証明書」が必要です。事業主が年金事務所に申請し、交付を受けた適用証明書を派遣先国に提出することで、相手国の年金制度への加入が免除されます。
出典:厚生労働省「海外で働かれている皆様へ(社会保障協定)」
海外で働く日本人・外国人が知るべき年金制度

海外で働く場合の年金制度への加入は、国籍や雇用形態、派遣先の国によって異なります。ここでは具体的なケースを整理します。
日本人が海外で働く場合
日本企業からの派遣(駐在員)
日本の会社に籍を置いたまま海外赴任する場合は、原則として日本の厚生年金に加入し続けます。社会保障協定締結国への派遣で5年以内の見込みであれば、適用証明書を取得することで現地の年金制度への加入が免除されます。
現地採用
海外の企業に直接雇用される場合は、原則として現地の年金制度に加入します。日本の年金については、国民年金の任意加入を検討することで、将来の年金受給権を確保できます。
自営業・フリーランス
海外で自営業やフリーランスとして働く場合も、国民年金の任意加入により日本の年金制度との関係を維持できます。
日本の年金制度と海外の年金制度の併用
将来受け取る年金を最大化するためには、日本と海外それぞれの年金制度を理解し、適切に活用することが重要です。
社会保障協定締結国で働く場合の選択肢
・5年以内の派遣:日本の年金制度に継続加入(適用証明書が必要)
・5年超の長期派遣:現地の年金制度に加入し、日本は任意加入を検討
・帰国後:両国の加入期間を通算して受給資格を判定
協定非締結国で働く場合
社会保障協定がない国で働く場合は、両国での二重加入となる可能性があります。日本の年金については任意加入で加入期間を維持しつつ、現地の年金制度にも加入することになります。合算対象期間(カラ期間)を活用すれば、日本での受給資格期間に算入される点は覚えておきましょう。
海外赴任・移住前に確認すべき年金チェックリスト

海外赴任や海外移住が決まったら、以下のポイントを確認し、必要な手続きを済ませておきましょう。
出国前に確認すべきこと
・現在の年金加入状況(国民年金・厚生年金の加入期間)の確認
・渡航先が社会保障協定締結国かどうかの確認
・協定締結国の場合、期間通算が可能かどうかの確認
・会社派遣の場合、厚生年金の継続加入について人事部門への確認
・適用証明書の取得手続き(該当する場合)
国民年金の任意加入を検討する場合
・出国前に市区町村または年金事務所で手続きを行う
・日本国内の協力者(親族など)を指定する
・保険料の納付方法を決める(口座振替・クレジットカード等)
・付加保険料の申込みを検討する
出国後に行うこと
・住民票の転出届の提出
・ねんきん定期便の海外送付申込み(日本年金機構のウェブサイトから申込み可能。1回の申込みで1回限りの送付)
・ねんきんネットの登録(海外からも年金記録をオンラインで確認可能)
・国民年金の任意加入手続きをしていない場合でも、海外居住期間は合算対象期間(カラ期間)として受給資格期間に算入される
帰国時に行うこと
・転入届の提出と同時に国民年金の加入手続き
・任意加入から強制加入への切り替え手続き
・付加保険料や口座振替を継続する場合は再度申出が必要
出典:日本年金機構「国民年金の任意加入の手続き(日本の年金制度への継続加入)」
まとめ:国際的な視点で年金を守る
海外赴任や海外移住を行う場合でも、日本の年金制度との関係を適切に維持することで、将来の年金受給権を守ることができます。
日本国籍を持つ方は、海外居住中も国民年金の任意加入により加入期間を積み重ねることが可能です。また、日本企業からの派遣であれば、厚生年金に継続加入できるケースも多くあります。社会保障協定締結国への赴任の場合は、二重加入の防止と期間通算の恩恵を受けられます。
外国人の方や外国籍の家族がいる場合は、脱退一時金制度と社会保障協定の関係を理解しておくことが大切です。脱退一時金を受け取ると年金加入期間がなくなるため、将来の再来日の可能性や母国での年金との通算を考慮して判断する必要があります。
年金制度は複雑ですが、事前に情報を収集し、必要な手続きを行うことで、将来の生活設計に役立てることができます。不明点がある場合は、最寄りの年金事務所や日本年金機構に相談することをおすすめします。
本記事は、CFP資格保有者であり、J-FLEC認定アドバイザーの金子賢司が執筆しています。当記事の執筆者「金子賢司」の情報は、CFP検索システムおよびJ-FLECアドバイザー検索システムにてご確認いただけます。北海道エリアを指定して検索いただくとスムーズです。
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