相続
早めが肝心!「生前贈与」で賢く相続税対策する年間110万円の活用術と5つの注意点

相続税対策の王道として知られる生前贈与は、年間110万円の非課税枠を活用することで、計画的に財産を次世代へ移転できる有効な手段となっています。生前贈与とは、生きている間に財産を他人に無償で譲り渡すことで、受贈者1人あたり年間110万円までであれば贈与税がかからず、申告も不要です。ただし、税制改正により令和6年以降の贈与は相続開始前7年以内が相続財産に加算されるため、早期の実施が重要になりました。本記事では、生前贈与の仕組みと活用方法、そして失敗を避けるための5つの注意点を解説します。
生前贈与が相続税対策の王道となる理由

生前贈与は、被相続人が亡くなる前に財産を贈与することで、相続時の財産を減らす対策として広く活用されています。相続税は、被相続人が亡くなった時点で保有している財産に対して課税されるため、生前に財産を減らしておくことで相続税の負担を軽減できるのです。
生前贈与を活用すれば、将来発生する相続税を計画的に抑えることができます。たとえば、年間110万円の非課税枠を活用して複数の子や孫に贈与を続ければ、長期的には相当額の財産を非課税で移転することが可能となります。
暦年贈与の基本:年間110万円の非課税枠

暦年贈与とは、1年間(1月1日から12月31日まで)に受けた贈与の合計額が基礎控除額を超えるかどうかで贈与税が決まる制度です。受贈者1人あたり年間110万円までは贈与税が非課税となり、贈与税の申告も必要ありません。
この110万円という金額は贈与者ではなく受贈者を基準に計算されます。たとえば、父から80万円、母から30万円の贈与を受けた場合、受贈者は合計110万円の贈与を受けたことになり、基礎控除額110万円以内のため贈与税はかかりません。
複数の人に贈与する場合、それぞれの受贈者に対して110万円までの非課税枠が適用されるため、子2人と孫3人に毎年110万円ずつ贈与すれば、年間550万円、10年間で5,500万円もの財産を非課税で移転できます。
出典:国税庁「No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)」
効果的な生前贈与の活用方法

基本パターン:年間110万円以内の贈与
最も基本的な活用方法は、毎年110万円以内の金額を贈与し続けることです。この方法であれば贈与税の申告は不要で、手続きも簡単です。
ただし、長期間にわたり毎年同じ金額を贈与する場合、定期贈与とみなされるリスクがあるため、贈与額や時期を変えるなどの工夫が必要になります。
応用パターン:あえて110万円を超える贈与
相続税対策として生前贈与を行う場合、あえて年間110万円を少し超える額を贈与する方法もあります。たとえば、年間120万円を贈与した場合、基礎控除後の課税価格は10万円となり、贈与税は1万円(10万円×10%)となります。
この方法には2つのメリットがあります。1つ目は、少額の贈与税を支払うことで贈与の証拠を税務署に残せることです。贈与税の申告書を提出することで、確実に贈与があったことを証明できます。
2つ目は、相続税の税率が高い場合、低い贈与税率で財産を移転できることです。相続税の最高税率は55%ですが、少額の贈与であれば10%~15%の税率で済むため、トータルでの税負担を抑えられる可能性があります。
生前贈与を行う際の5つの注意点

生前贈与を相続税対策として活用するには、いくつかの重要な注意点があります。これらを理解せずに贈与を行うと、思わぬ課税リスクが生じる可能性があるのです。
注意点1:贈与契約書を必ず作成する
贈与は口頭での合意でも法的に有効ですが、相続税対策として活用する場合は必ず贈与契約書を作成しましょう。贈与契約書があれば、贈与者と受贈者の間で「贈与した・贈与を受けた」という認識が一致していることを証明できます。
贈与契約書には、贈与する財産の内容、贈与の日付、贈与者と受贈者の署名・押印などを記載します。日付を明確にすることで、後から贈与の事実を証明しやすくなります。
税務調査では「本当に贈与があったのか」が問われることがあります。特に現金の贈与は証拠が残りにくいため、贈与契約書の作成は必須といえるでしょう。
注意点2:名義預金とみなされないように注意
子や孫の名義で預金口座を作り、親や祖父母が勝手に入金を続けているケースは「名義預金」とみなされ、贈与とは認められません。名義預金とは、名義は子や孫になっているものの、実質的には親や祖父母が管理している預金のことを指します。
贈与と認められるには、受贈者が贈与された財産を自由に使える状態になっている必要があります。通帳や印鑑を贈与者が保管し続けている場合、税務署から名義預金と判断されるリスクがあります。
名義預金と判断されると、その預金は贈与者の財産として相続税の課税対象となってしまいます。贈与を行う際は、必ず受贈者に通帳と印鑑を渡し、受贈者が自由に管理できる状態にしておくことが重要です。
注意点3:定期贈与と判断されるリスクを避ける
「毎年110万円を10年間贈与する」という約束を最初にしてしまうと、定期贈与とみなされ、1,100万円(110万円×10年)の一括贈与があったと判断される可能性があります。この場合、初年度に1,100万円の贈与があったとして贈与税が課税されてしまいます。
定期贈与のリスクを避けるには、以下の対策が有効です。
・毎年贈与契約書を作成する
・贈与額を毎年変える(今年は100万円、来年は110万円など)
・贈与の時期を毎年変える(今年は3月、来年は9月など)
・受贈者の同意を毎回得る形にする
これらの対策により、毎年独立した贈与であることを証明しやすくなります。
注意点4:相続開始前の贈与は相続財産に加算される
令和6年(2024年)1月1日以降に行われた贈与については、税制改正により加算対象期間が延長されました。相続開始日に応じて、以下のように加算対象期間が定められています。
令和13年(2031年)1月1日以降に相続が発生した場合、相続開始前7年以内の贈与が相続財産に加算されます。また、令和9年(2027年)1月1日から令和12年(2030年)12月31日までの間に相続が発生した場合は、令和6年1月1日から死亡の日までの贈与が加算対象となります。
たとえば、令和13年以降に相続が発生した場合、亡くなる7年前から行われた暦年贈与は、110万円以下であっても相続財産として加算され、相続税の課税対象となるのです。ただし、相続開始前3年以内の贈与以外については、合計100万円までは加算されません。
この改正により、早めに贈与を始めることの重要性がさらに高まりました。相続発生の7年以上前から計画的に贈与を行えば、贈与した財産は相続財産に加算されず、確実に相続税の軽減効果を得られます。
出典:国税庁「No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)」
注意点5:贈与税の税率を理解する
年間110万円を超える贈与を行う場合は贈与税が課税されます。贈与税には「一般税率」と「特例税率」の2種類があり、贈与者と受贈者の関係によって適用される税率が異なります。
特例税率は、直系尊属(父母や祖父母)から18歳以上の子や孫への贈与に適用されます。基礎控除後の課税価格が200万円以下であれば10%、400万円以下であれば15%(控除額10万円)となっています。
一般税率は、特例税率に該当しない贈与、たとえば兄弟間の贈与や夫婦間の贈与、親から未成年の子への贈与などに適用されます。基礎控除後の課税価格が200万円以下であれば10%、300万円以下であれば15%(控除額10万円)です。
たとえば、祖父が20歳の孫に500万円を贈与した場合、基礎控除後の課税価格は390万円(500万円-110万円)となり、特例税率15%が適用されます。贈与税額は48.5万円(390万円×15%-10万円)となります。
出典:国税庁「No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)」
その他の贈与税非課税制度

暦年贈与の110万円の非課税枠以外にも、特定の用途に限定した贈与税の非課税制度があります。これらの制度を併用することで、より効果的な相続税対策が可能となります。
教育資金の一括贈与(1,500万円)
直系尊属から30歳未満の子や孫に対して教育資金を一括贈与する場合、受贈者1人あたり1,500万円まで贈与税が非課税となります。学校等以外に支払われる教育資金(学習塾や習い事など)は500万円が限度です。
この制度は令和8年(2026年)3月31日までの時限措置となっています。金融機関との教育資金管理契約に基づき、専用口座を開設して贈与を受ける必要があります。
出典:国税庁「No.4510 直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の非課税」
結婚・子育て資金の一括贈与(1,000万円)
直系尊属から18歳以上50歳未満の子や孫に対して結婚・子育て資金を一括贈与する場合、受贈者1人あたり1,000万円まで贈与税が非課税となります。このうち結婚資金は300万円が限度です。
この制度は令和9年(2027年)3月31日までの時限措置です。前年の受贈者の合計所得金額が1,000万円を超える場合は適用を受けられません。
出典:国税庁「No.4511 直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の非課税」
住宅取得等資金の贈与
直系尊属から住宅取得のための資金贈与を受けた場合、一定の要件を満たせば非課税となる制度があります。非課税限度額は省エネ等住宅の場合で1,000万円、それ以外の住宅で500万円です。
受贈者は贈与を受けた年の1月1日時点で18歳以上であり、贈与を受けた年の合計所得金額が2,000万円以下(床面積が40㎡以上50㎡未満の場合は1,000万円以下)である必要があります。
相続時精算課税制度(2,500万円)
相続時精算課税制度は、60歳以上の父母または祖父母から18歳以上の子や孫への贈与について選択できる制度です。累計2,500万円まで贈与税がかからず、2,500万円を超えた部分には一律20%の贈与税が課税されます。
令和6年の税制改正により、相続時精算課税制度にも年間110万円の基礎控除が新設されました。この110万円以下の贈与については、相続時の持ち戻し計算の対象外となります。
ただし、この制度を一度選択すると、その贈与者からの贈与については暦年課税に戻ることができません。また、贈与時の価額が相続時に加算されるため、値上がりが期待できる財産の贈与には向いています。
まとめ:計画的な実行が相続税対策の鍵
生前贈与は相続税対策の王道ですが、効果を最大化するには早めの実施と計画的な実行が不可欠です。令和6年以降の贈与は相続開始前7年以内が相続財産に加算されるため、早期に贈与を開始することで、確実に相続財産を減らすことができます。
贈与を行う際は、必ず贈与契約書を作成し、名義預金や定期贈与とみなされないよう注意が必要です。受贈者が贈与された財産を自由に管理できる状態にし、毎年独立した贈与であることを証明できるようにしておきましょう。
また、年間110万円の暦年贈与だけでなく、教育資金や結婚・子育て資金、住宅取得資金などの特例制度を組み合わせることで、より大きな節税効果を得られる可能性があります。
ただし、贈与税や相続税の制度は複雑で、個々の状況によって最適な対策は異なります。大きな金額の贈与を検討する場合や、複数の制度を組み合わせる場合は、税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
計画的な生前贈与により、次世代への円滑な財産承継と相続税の軽減を両立させることができるでしょう。
本記事は、CFP資格保有者であり、J-FLEC認定アドバイザーの金子賢司が執筆しています。当記事の執筆者「金子賢司」の情報は、CFP検索システムおよびJ-FLECアドバイザー検索システムにてご確認いただけます。北海道エリアを指定して検索いただくとスムーズです。
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