公的年金制度
年金制度改正の歴史と今後の動向:最新の議論と私たちの対策

年金制度は、社会情勢の変化に合わせて何度も改正されてきました。そしてこれからも、私たちの生活に影響を与えるであろう様々な議論が進行中です。この記事では、過去の主な改正の歴史を振り返り、最新の議論や今後の動向、それに対する私たちの対策を解説します。
はじめに:年金制度は生き物!常に変化している

日本の公的年金制度は、昭和17年(1942年)に労働者年金保険制度として創設されて以来、社会経済状況の変化に応じて幾度となく見直されてきました。その歴史は大きく3つの時期に分けることができます。
第1期は制度創設から昭和36年(1961年)の「国民皆年金」実現まで、第2期は経済の発展とともに給付水準が充実した高度成長期、そして第3期は少子高齢化への対応として制度の持続可能性を高める改革が続いている現在に至るまでの期間となります。
年金制度は「生き物」といわれることがあります。これは、社会や経済の変化に応じて常に進化し続けなければならないという特性を表しています。今後も働き方の多様化や人口構造の変化に対応するため、さらなる改正が予想されるでしょう。
日本の主な年金制度改正の歴史を振り返る

公的年金制度は、戦後から現在に至るまで数多くの改正を経て今日の姿になっています。ここでは、特に重要な改正について時系列で振り返ってみましょう。
昭和60年(1985年)改正:基礎年金制度の創設
この改正は日本の年金制度の根幹を形作る画期的なものでした。全国民共通の「基礎年金」が導入され、国民年金と厚生年金・共済年金が2階建ての構造として整理されました。また、被用者年金の被扶養配偶者を国民年金に強制加入とする「第3号被保険者」制度が創設され、女性の年金権確立が図られています。
平成6年(1994年)改正:老齢厚生年金の支給開始年齢引き上げ
この改正では、定額部分(基礎年金相当部分)の支給開始年齢を60歳から65歳へ段階的に引き上げることが決定されました。これにより、平成13年(2001年)から令和7年(2025年)にかけて、生年月日に応じて段階的に支給開始年齢が引き上げられることになりました。
平成12年(2000年)改正:報酬比例部分の支給開始年齢引き上げ
平成6年改正に続き、報酬比例部分についても支給開始年齢を60歳から65歳へ段階的に引き上げることが決定されました。男性は平成25年(2013年)から令和7年(2025年)にかけて、女性は5年遅れで引き上げが進められています。
平成16年(2004年)改正:いわゆる「100年安心プラン」
この改正は現在の年金財政フレームワークの基礎となる極めて重要なものでした。主な内容は以下のとおりです。
・保険料水準の固定:厚生年金の保険料率を18.3%(労使折半)、国民年金の保険料を16,900円(平成16年度価格)に上限を設定し、平成29年(2017年)度以降は引き上げを行わないこととしました
・基礎年金国庫負担の引き上げ:3分の1から2分の1へ段階的に引き上げることが決定されました
・マクロ経済スライドの導入:現役世代の人口減少と平均余命の伸びに応じて、年金額の伸びを自動的に調整する仕組みが導入されました
・積立金の活用:おおむね100年間で財政均衡を図る方式とし、計画的に積立金を活用して後世代の給付に充てることとされました
最近の主な改正点:令和2年(2020年)改正
令和2年改正では、多様な就労を年金制度に反映させるため、以下の見直しが行われました。
・被用者保険の適用拡大:短時間労働者を対象とする企業規模要件を段階的に引き下げ、令和4年10月に100人超規模、令和6年10月に50人超規模へと拡大されました
・在職定時改定の導入:65歳以上の在職中の老齢厚生年金受給者について、年金額を毎年10月に改定し、それまでに納めた保険料を早期に年金額に反映する仕組みが創設されました
・繰下げ受給の上限年齢引き上げ:75歳まで繰り下げて受給開始を選択できるようになりました(最大84%増額)
出典:厚生労働省「年金制度改正法(令和2年法律第40号)が成立しました」
現在進行中の年金制度改革の議論

令和7年(2025年)には5年に一度の財政検証を踏まえた年金制度改正法が成立しました。ここでは、今後も議論が続く主要なテーマについて整理します。
令和7年(2025年)改正の主な内容
令和7年5月16日に国会に提出され、衆議院で修正のうえ6月13日に成立した年金制度改正法には、以下の内容が盛り込まれています。
・社会保険の適用拡大:企業規模要件の撤廃や、5人以上の個人事業所における非適用業種の解消など、より多くの短時間労働者が厚生年金に加入できるよう見直しが進められます
・在職老齢年金制度の見直し:65歳以上の支給停止基準額が現行の月額50万円から62万円へ引き上げられます(令和8年度から施行予定)
・遺族厚生年金の見直し:男女差を解消し、18歳未満の子のない20~50代の配偶者については原則5年間の有期給付へ移行します。60歳未満の男性も新たに支給対象となります(令和10年4月施行)
・標準報酬月額の上限引き上げ:高所得者の年金額と保険料を適正化するため、段階的に上限を引き上げます
基礎年金の給付水準底上げに関する議論
令和6年(2024年)財政検証では、経済が好調に推移しない場合、マクロ経済スライドの調整期間が基礎年金で2057年度まで続き、報酬比例部分の2026年度終了と大きな乖離が生じることが示されました。
この結果、基礎年金の給付水準が将来的に低下し、特に低所得者への影響が懸念されています。そこで、基礎年金と報酬比例部分のマクロ経済スライド調整期間を一致させることで、基礎年金の給付水準を底上げする措置が検討されてきました。
衆議院での修正により、次回の財政検証(2029年予定)で基礎年金の給付水準低下が見込まれる場合には、基礎年金のマクロ経済スライド調整を早期に終了させる措置を講じることが規定されました。この措置により、若い世代や年金額が低い方ほど増加額が大きくなる見込みです。
出典:厚生労働省「将来の基礎年金の給付水準の底上げについて」
受給開始年齢に関する議論
現在、老齢年金の受給開始年齢は原則65歳ですが、60歳から75歳の間で自由に選択できます。繰下げ受給を選択すると1か月あたり0.7%増額され、75歳まで繰り下げた場合は最大84%の増額となります。
今後、平均寿命のさらなる延伸や高齢者就業率の上昇に伴い、支給開始年齢のあり方について議論が行われる可能性があります。ただし、現時点で支給開始年齢を引き上げる具体的な法案は提出されていません。
全世代型社会保障への移行
政府は「全世代型社会保障」の構築を掲げており、年金制度もその一環として見直しが進められています。具体的には、現役世代の負担増を抑えながら高齢者への給付を確保し、かつ子育て世代への支援を充実させるという難しい課題に取り組んでいます。
令和7年改正では、子に係る加算額が年額約23.9万円から28万円へ増額されるなど、子育て世帯への支援強化も盛り込まれました。
年金制度改正が私たちの生活に与える影響

これらの制度改正は、現役世代から年金受給者まで、幅広い層の生活に影響を与えます。具体的にどのような影響があるのか確認しましょう。
現役世代の保険料負担と将来の年金受給額
平成16年改正により、厚生年金の保険料率は18.3%(労使折半)、国民年金の保険料は平成16年度価格で17,000円に固定されています。令和7年度の国民年金保険料は月額17,510円となっており、今後の大幅な引き上げは予定されていません。
将来の年金受給額については、令和6年財政検証によると、経済が順調に成長するケースでは所得代替率50%以上を維持できる見通しです。一方、経済成長が低迷するケースでは、マクロ経済スライドの調整期間が長期化し、給付水準が低下する可能性があります。
令和7年度の年金額は前年度比1.9%増となり、老齢基礎年金(満額)は月額69,308円、モデル年金(夫婦2人分)は月額232,784円となっています。
働き方やライフプランへの影響
社会保険の適用拡大により、これまで厚生年金に加入していなかった短時間労働者も、将来の年金額が増える可能性があります。一方で、保険料負担が新たに発生するため、手取り収入への影響を考慮した働き方の選択が求められるでしょう。
在職老齢年金制度の見直しにより、支給停止基準額が62万円に引き上げられることで、年金を受給しながら働く高齢者の就労意欲が高まることが期待されます。厚生労働省の試算では、この改正により約20万人が新たに満額受給の対象となる見込みとされています。
また、iDeCoの加入可能年齢が70歳未満まで延長されるなど、自助努力による資産形成の選択肢も広がっています。
【提言】将来の年金制度に備えるための具体的対策

年金制度の変化に適応し、安心した老後を迎えるために、今から実践できる対策を整理します。
自身の年金見込み額を定期的に確認する
将来の年金額を把握するために、以下の方法で定期的に確認することをお勧めします。
・ねんきん定期便:毎年誕生月に届くハガキ(35歳・45歳・59歳は封書)で、加入記録や見込み額を確認できます。50歳以上の方には、現在の加入条件が60歳まで続いた場合の年金見込み額が記載されています
・ねんきんネット:日本年金機構が運営するオンラインサービスで、24時間いつでも年金記録の確認や将来の年金見込み額のシミュレーションができます
・公的年金シミュレーター:厚生労働省が運営するツールで、ねんきん定期便に記載された二次元コードからアクセスし、様々な条件での年金見込み額を試算可能です
自助努力による資産形成の強化(iDeCo・NISA)
公的年金だけに頼らず、私的年金や資産形成を組み合わせることで、老後の経済的な安定を図ることができます。
・iDeCo(個人型確定拠出年金):掛金が全額所得控除の対象となり、運用益も非課税というメリットがあります。令和7年改正により、加入可能年齢の上限が70歳未満まで引き上げられる予定です
・NISA(少額投資非課税制度):令和6年から新しいNISA制度が始まり、非課税保有限度額が1,800万円に拡大されました。長期・分散・積立投資により、計画的な資産形成が可能です
これらの制度を活用する際は、リスク許容度や投資期間を考慮し、無理のない範囲で取り組むことが重要です。
働き方を柔軟に考える
人生100年時代といわれる現代において、60歳や65歳で完全にリタイアするのではなく、働き続けることも選択肢の一つです。
・厚生年金に長く加入することで、将来の年金額を増やすことができます
・在職定時改定により、65歳以降も働きながら年金額が毎年10月に改定されます
・年金の繰下げ受給を活用すれば、75歳まで繰り下げた場合は84%の増額となります
働き方の選択にあたっては、健康状態や生活スタイル、家族の状況なども含めて総合的に判断することが大切でしょう。
まとめ:制度の変化に対応し、自らの未来を切り拓く
日本の年金制度は、昭和17年の創設以来、社会経済状況の変化に応じて進化し続けてきました。平成16年の「100年安心プラン」でマクロ経済スライドが導入され、令和2年改正で適用拡大や繰下げ上限年齢の引き上げが行われ、令和7年改正では在職老齢年金の基準緩和や遺族年金の見直しなど、さらなる機能強化が図られています。
制度改正に振り回されるのではなく、変化を正しく理解し、自らの人生設計に活かしていくことが求められます。そのためには、ねんきん定期便やねんきんネットを活用して自身の年金見込み額を定期的に確認し、iDeCoやNISAなどの制度を活用した資産形成にも取り組むことが有効です。
年金制度は今後も変化し続けるでしょう。しかし、制度がどう変わっても、自分自身で準備し、柔軟に対応できる力を身につけておけば、安心して老後を迎えることができるはずです。
本記事は、CFP資格保有者であり、J-FLEC認定アドバイザーの金子賢司が執筆しています。当記事の執筆者「金子賢司」の情報は、CFP検索システムおよびJ-FLECアドバイザー検索システムにてご確認いただけます。北海道エリアを指定して検索いただくとスムーズです。
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