公的年金制度
年金制度の全体像を分かりやすく解説!国民年金と厚生年金、あなたはどっちのタイプ?

日本の公的年金制度の二階建て構造とは

日本の公的年金制度は、「2階建て構造」と呼ばれる独特の仕組みで運営されています。この構造を理解することで、自分がどの年金に加入しているのか、将来どのような給付を受けられるのかが明確になるでしょう。
1階部分:全国民共通の基礎年金(国民年金)
1階部分にあたる国民年金は、日本に住む20歳以上60歳未満のすべての方が加入する制度となっています。この年金は「基礎年金」とも呼ばれ、老後の生活を支える基盤的な役割を果たすものです。
国民年金は、国民皆年金の理念に基づき、昭和36年(1961年)に創設されました。すべての国民が何らかの公的年金制度に加入することで、老後や障害、遺族への経済的な保障を確保しています。
2階部分:会社員・公務員向けの厚生年金
2階部分にあたる厚生年金は、会社員や公務員などの被用者が加入する制度です。厚生年金に加入している方は、同時に国民年金にも加入していることになるため、2つの年金制度の適用を受けている状態となります。
つまり、会社員や公務員の方は、1階部分の基礎年金に加えて、2階部分の厚生年金も受け取ることができるため、より手厚い老後保障を享受できる仕組みになっています。
制度統一の歴史
平成27年10月には、被用者年金制度の一元化により、それまで公務員や私学教職員が加入していた共済年金が厚生年金に統一されました。これにより、民間企業の会社員も公務員も、同じ厚生年金制度のもとで年金を受け取れるようになっています。
国民年金(基礎年金)の役割と対象者

国民年金は、すべての国民に共通する基礎的な年金制度として、重要な役割を担っています。
国民年金の3つの給付
国民年金からは、以下の3種類の年金が支給されます。
・老齢基礎年金:65歳以降、生涯にわたって受け取ることができる年金
・障害基礎年金:病気やケガによって生活や仕事などが制限される程度の障害が残ったときに受け取れる年金
・遺族基礎年金:家族が亡くなったとき、子のある配偶者または子が受け取れる年金
このように、国民年金は老後だけでなく、若い世代にとっても万が一のときに備える重要な保険制度となっているのです。
国民年金の保険料
令和7年度の国民年金保険料は、月額17,510円です。この保険料は毎年改定され、20歳の誕生月分から納付が必要になります(誕生日が1日の場合は誕生月の前月分から)。
保険料を40年間(480月)納付すると、満額の老齢基礎年金を受け取ることが可能です。令和7年度の満額は年額831,700円(昭和31年4月2日以後生まれの方)となっています。
保険料の納付が難しい場合
経済的な理由で保険料の納付が困難な場合、以下のような制度を利用することができます。
・学生納付特例制度:大学や専門学校などに在学中の学生が利用できる制度
・納付猶予制度:50歳未満の方(学生を除く)で一定の所得以下の場合に利用できる制度
・免除制度:全額免除、4分の3免除、半額免除、4分の1免除の4種類が用意されている制度
これらの制度を利用することで、将来年金を受け取れなくなるリスクを回避できます。
厚生年金の役割と対象者

厚生年金は、国民年金に上乗せされる形で支給される年金制度であり、被用者の老後生活をより手厚く保障します。
厚生年金の加入対象者
厚生年金が適用されている事業所に勤める70歳未満の方は、基本的に厚生年金に加入することになります。正社員や会社役員だけでなく、以下の条件を満たすパートやアルバイトの方も加入対象です。
・週の所定労働時間が20時間以上
・月額賃金が8.8万円以上
・2カ月を超える雇用の見込みがある
・従業員51人以上の企業に勤務している
・学生ではない(夜間学生、通信制を除く)
このように、短時間労働者への適用拡大が進められており、より多くの方が厚生年金の恩恵を受けられるようになっています。
厚生年金の保険料
厚生年金の保険料率は18.3%で、この保険料は事業主(会社)と被保険者(従業員)が折半して負担します。つまり、実際の個人負担は9.15%となり、残りの9.15%は会社が負担する仕組みです。
保険料は、毎月の給与額を基準とした「標準報酬月額」に保険料率を掛けて算出されます。給与が高いほど保険料も増加する一方で、将来受け取れる年金額も増えるという仕組みになっています。
厚生年金の給付
厚生年金からは、国民年金と同様に3種類の年金が支給されます。
・老齢厚生年金:65歳以降、老齢基礎年金に上乗せして受け取れる年金
・障害厚生年金:障害基礎年金に上乗せして受け取れる年金
・遺族厚生年金:遺族基礎年金に上乗せして受け取れる年金
厚生年金の年金額は、在職中の報酬額と加入期間に応じて計算されるため、長く働いて高い給与を得ていた方ほど、多くの年金を受け取ることができます。
第1号、第2号、第3号被保険者の違いを徹底解説

国民年金の被保険者は、職業や家族の状況によって3つの種別に分類されます。この分類によって、保険料の納付方法や金額が異なってくるため、正確に理解しておくことが重要です。
第1号被保険者とは
第1号被保険者は、日本国内に住所を持つ20歳以上60歳未満の方で、第2号被保険者および第3号被保険者に該当しない方を指します。
具体的には、以下のような方が該当するでしょう。
・自営業者
・農業や漁業に従事している方
・学生
・無職の方
・フリーランスの方
第1号被保険者は、定額の保険料を自分で納付する必要があります。令和7年度の保険料は月額17,510円で、市区町村の窓口や金融機関、コンビニエンスストアなどで納付が可能です。
第2号被保険者とは
第2号被保険者は、厚生年金に加入している会社員や公務員などを指します。令和5年度末時点で、約4,672万人の方が第2号被保険者として加入しています。
第2号被保険者は、厚生年金を通じて国民年金にも加入しているため、厚生年金の保険料を納めることで、自動的に国民年金の保険料も納めていることになります。
保険料は毎月の給与から天引きされ、会社が半分を負担してくれるため、個人の実質的な負担は保険料の半分で済む仕組みです。
第3号被保険者とは
第3号被保険者は、第2号被保険者に扶養されている20歳以上60歳未満の配偶者で、年収が130万円未満の方を指します。
第3号被保険者の最大の特徴は、保険料の自己負担が発生しないという点です。配偶者が加入している厚生年金制度が一括して国民年金に保険料を払い込んでいるため、個人で保険料を納める必要はありません。
ただし、第3号被保険者になるためには、配偶者の勤務先を通じて届出を行う必要がありますので、忘れずに手続きを行いましょう。
被保険者の種別が変わるとき
人生の節目で被保険者の種別が変わることがあります。
・就職したとき:第1号被保険者から第2号被保険者へ(会社が手続き)
・退職したとき:第2号被保険者から第1号被保険者へ(市区町村で手続きが必要)
・結婚して配偶者の扶養に入ったとき:第1号被保険者または第2号被保険者から第3号被保険者へ(配偶者の勤務先を通じて手続き)
・配偶者が退職したとき:第3号被保険者から第1号被保険者へ(市区町村で手続きが必要)
種別変更の手続きを怠ると、将来の年金額が減少したり、受給できなくなったりする可能性があるため、必ず期限内に手続きを行うことが重要です。
あなたの年金タイプを診断するフローチャート

自分がどの被保険者に該当するのか、以下の流れで確認してみましょう。
ステップ1:年齢を確認
あなたは20歳以上60歳未満ですか?
・はい → ステップ2へ進む
・いいえ → 国民年金の加入義務はありません(任意加入は可能)
ステップ2:働き方を確認
あなたは会社員または公務員として、厚生年金に加入していますか?
・はい → あなたは第2号被保険者です
・いいえ → ステップ3へ進む
ステップ3:配偶者の状況を確認
あなたの配偶者は厚生年金に加入しており、あなたの年収は130万円未満ですか?
・はい → あなたは第3号被保険者です
・いいえ → あなたは第1号被保険者です
この診断で、自分がどの被保険者に該当するかが分かります。該当する被保険者のタイプに応じて、適切な保険料の納付方法や手続きを確認しましょう。
年金制度を理解するメリット:将来設計への活用

年金制度を正しく理解することには、多くのメリットがあります。
将来の収入を予測できる
自分がどの年金に加入しているかを理解すれば、将来受け取れる年金額の目安を把握することができます。日本年金機構の「ねんきんネット」を利用すれば、これまでの加入記録や将来の年金見込額を確認することも可能です。
将来の年金額が分かれば、老後に必要な貯蓄額や資産形成の目標を立てやすくなるでしょう。
適切な手続きができる
就職や退職、結婚などのライフイベントが発生したとき、年金制度を理解していれば、必要な手続きを漏れなく行うことができます。手続きの遅れは将来の年金額に影響する可能性があるため、タイミングよく適切な対応を取ることが大切です。
万が一のリスクに備えられる
年金制度は老後の保障だけでなく、障害を負ったときや家族が亡くなったときにも給付を受けられる仕組みです。これらの保障内容を知っておくことで、民間の保険に加入する際の判断材料にもなります。
公的年金でどこまでカバーされるのかを理解したうえで、必要に応じて民間の保険で補完するという考え方ができるようになるでしょう。
老後の生活設計ができる
年金制度を理解することで、現実的な老後の生活設計を立てることができます。厚生労働省の調査によると、高齢者世帯の平均所得の約6割を公的年金が占めており、約4割の世帯が年金だけで生活しているという実態があります。
自分の年金がどの程度になるのかを知ることで、老後の生活水準や必要な準備について、より具体的に考えることができるでしょう。
社会保障制度への理解が深まる
年金制度は、日本の社会保障制度の中核をなす重要な仕組みです。制度を理解することで、世代間の支え合いや社会連帯の意義についても認識を深めることができます。
現在、約6,744万人の現役世代が保険料を納めることで、約4,014万人の高齢者世代の老齢年金を支えています。このような世代間扶養の仕組みを理解することは、社会の一員としての責任を自覚することにもつながるでしょう。
まとめ:年金制度は「知る」ことから始まる
日本の年金制度は、すべての国民が加入する国民年金と、会社員や公務員が加入する厚生年金という二階建て構造になっています。
国民年金の被保険者は、第1号(自営業者など)、第2号(会社員・公務員)、第3号(被扶養配偶者)の3つに分類され、それぞれ保険料の納付方法や金額が異なってきます。
年金制度を正しく理解することで、将来の収入予測や適切な手続き、万が一のリスクへの備えなど、多くのメリットを得ることが可能です。
「年金は複雑」と感じるかもしれませんが、基本的な構造を理解すれば、それほど難しいものではありません。まずは、自分がどの被保険者に該当するのかを確認することから始めてみましょう。
将来のお金の不安を解消するためには、年金制度を「知る」ことが第一歩となります。日本年金機構のホームページ(https://www.nenkin.go.jp/)や「ねんきんネット」などを活用して、自分の年金記録や将来の年金見込額を確認し、早めの準備を始めることをおすすめいたします。
参考資料
・日本年金機構「知っておきたい年金のはなし」https://www.nenkin.go.jp/service/pamphlet/seido-shikumi.files/shitteokitai.pdf
・厚生労働省「令和5年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」
・日本年金機構ホームページ
本記事は、CFP資格保有者であり、J-FLEC認定アドバイザーの金子賢司が執筆しています。当記事の執筆者「金子賢司」の情報は、CFP検索システムおよびJ-FLECアドバイザー検索システムにてご確認いただけます。北海道エリアを指定して検索いただくとスムーズです。
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