公的年金制度
年金に頼りすぎない!自分で作る老後資金の重要性と具体的なステップ

「年金だけで老後の生活は大丈夫だろうか」という不安を抱える人が増えています。公的年金は老後の生活を支える重要な制度ですが、それだけに頼りきるのはリスクがあるのも事実です。
この記事では、年金を「土台」としながら、自分自身で老後資金を作り上げる「上積み」の重要性と、具体的な方法について解説していきます。iDeCoや新NISAといった税制優遇制度を活用した資産形成のステップや、働く期間を延ばすことの効果についても触れていきますので、ぜひ最後までご覧ください。
はじめに:年金は「土台」、自分で作る「上積み」がカギ

日本の公的年金制度は、国民年金と厚生年金の2階建て構造で成り立っており、現役時代に保険料を納めることで老後に年金を受け取る仕組みになっています。しかし、公的年金はあくまでも老後生活の「土台」であり、ゆとりある生活を送るためには、自分自身で準備する「上積み」部分が欠かせません。
厚生労働省の資料によれば、年金制度は「100年安心」を目指して設計されていますが、これは制度が維持されることを意味するもので、個人の生活が保障されるわけではありません。老後の生活水準は、公的年金だけでなく、退職金や貯蓄、私的年金など複数の収入源で支えられるものと考えるべきでしょう。
年金だけでは不足する理由:平均受給額と必要生活費のギャップ

公的年金だけで老後生活を賄うことが難しい理由として、年金受給額と実際の生活費との間にギャップがある点が挙げられます。現在の年金水準と老後の支出状況を確認してみましょう。
公的年金の平均受給額
厚生労働省「令和5年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、令和5年度末現在における厚生年金保険(第1号)の老齢年金受給者の平均年金月額は、老齢基礎年金を含めて約14万7千円となっています。また、国民年金(老齢基礎年金)の満額は、令和7年度で月額69,308円(昭和31年4月2日以後生まれの場合)になりました。
厚生労働省が示すモデル世帯(平均的な収入で40年間働いた夫と専業主婦の夫婦2人)の場合、令和7年度の年金月額は23万2,784円です。
出典:厚生労働省「令和5年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」
老後の生活費はどのくらいかかるのか
一方、総務省「家計調査報告(家計収支編)2024年」によれば、65歳以上の夫婦のみの無職世帯における1カ月の消費支出は約25.7万円となっています。可処分所得(手取り収入)は約22.2万円であり、毎月約3.4万円の不足が生じている状況です。
この不足分は、貯蓄の取り崩しによって補われることになります。仮に老後生活が25年続くとすると、毎月3.4万円×12カ月×25年=約1,020万円の貯蓄が必要という計算になるでしょう。
出典:総務省統計局「家計調査報告(家計収支編)2024年(令和6年)結果の概要」
「老後2000万円問題」の再認識

2019年6月、金融庁の金融審議会「市場ワーキング・グループ」が発表した報告書「高齢社会における資産形成・管理」が大きな話題を呼びました。この報告書では、高齢夫婦無職世帯において毎月約5万円の赤字が生じるとし、老後30年間で約2,000万円の金融資産の取り崩しが必要になるとの試算が示されました。
この「老後2000万円問題」は、当時の家計調査データに基づく平均値から算出されたものであり、すべての人に当てはまるわけではありません。報告書自体にも「この金額はあくまで平均の不足額から導きだしたものであり、不足額は各々の収入・支出の状況やライフスタイル等によって大きく異なる」と明記されています。
しかしながら、この問題提起は、多くの人に「年金だけでは老後の生活を賄えない可能性がある」という現実を認識させるきっかけとなりました。重要なのは、2,000万円という数字にとらわれるのではなく、自分自身の老後に必要な金額を具体的に把握し、計画的に準備を進めることでしょう。
出典:金融庁 金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」
マクロ経済スライドによる実質価値の低下

公的年金の実質的な価値が将来的に低下する可能性があるという点も、自助努力の必要性を高める要因となっています。その仕組みが「マクロ経済スライド」です。
マクロ経済スライドとは
マクロ経済スライドは、2004年の年金制度改正で導入された仕組みで、少子高齢化による現役世代の減少や平均寿命の伸びに合わせて、年金の給付水準を自動的に調整するものです。具体的には、物価や賃金の上昇率から「スライド調整率」を差し引くことで、年金額の伸びを抑制します。
令和7年度の年金額改定を例に挙げると、名目手取り賃金変動率は+2.3%でしたが、マクロ経済スライドによる調整(-0.4%)が適用され、年金額の改定率は+1.9%にとどまりました。つまり、物価や賃金の上昇ほどには年金額が増えないことを意味しています。
この仕組みが適用される調整期間は、基礎年金については2057年度頃まで続く見込みです。長期的に見れば、年金の実質的な購買力が低下していく可能性があり、インフレに備えた資産形成がより重要になると言えるでしょう。
出典:厚生労働省「いっしょに検証!公的年金 給付と負担をバランスさせる仕組み」
「自分で作る老後資金」のメリット

公的年金を補完する「自分年金」を作ることには、いくつかの重要なメリットがあります。老後の経済的な安心感を高めるためにも、これらのメリットを理解しておくことが大切です。
受給開始時期や金額を自分でコントロールできる
公的年金は原則として65歳から受給開始となり、繰り上げ・繰り下げの選択肢はあるものの、基本的な制度設計は国が決めています。一方、自分で準備した資産であれば、受け取りの時期や金額を自由に決められます。
たとえば、60歳で早期退職した場合に65歳までの「つなぎ資金」として活用したり、特定の年にまとまった出費が必要になった際に対応したりすることが可能です。ライフイベントに合わせた柔軟な資金計画を立てられる点は、自助努力による資産形成ならではの強みと言えます。
インフレ対策、税制優遇を活用できる
前述のとおり、マクロ経済スライドによって年金の実質価値は長期的に低下する可能性があります。しかし、投資信託や株式などの資産に分散投資することで、インフレに対応した資産形成が期待できます。
また、iDeCo(個人型確定拠出年金)や新NISAといった税制優遇制度を活用することで、効率的に資産を増やすことができるでしょう。これらの制度では、運用益が非課税になるなどの優遇措置が設けられており、通常の投資よりも有利な条件で資産形成を進められます。
老後資金作りのステップ

ここからは、「自分年金」を作るための具体的なステップを紹介します。すべてを一度に実行する必要はなく、できるところから始めることが大切です。
ステップ1:目標設定と現状把握(必要な老後資金と、現在の貯蓄・資産状況)
まず取り組むべきは、老後に必要な資金の目標額を設定することと、現在の資産状況を正確に把握することです。
必要な老後資金を算出するには、想定する老後の生活費から年金収入を差し引き、その差額に老後の年数をかけて計算します。たとえば、月5万円の不足が25年続くと仮定すれば、5万円×12カ月×25年=1,500万円が目安となります。
「ねんきんネット」や「ねんきん定期便」を活用すれば、将来受け取れる年金額の見込みを確認できます。現在の貯蓄残高、加入している生命保険や企業年金の内容と併せて、老後資金の全体像を把握しましょう。
ステップ2:家計の見直しと貯蓄率の向上
目標と現状のギャップが明らかになったら、次は毎月の収支を見直し、貯蓄に回せる金額を増やすことを検討しましょう。
固定費の見直しは効果が大きい手法です。通信費やサブスクリプションサービス、保険料などを点検し、本当に必要なものかどうかを吟味してください。また、変動費についても無理のない範囲で節約を心がけることで、毎月の貯蓄可能額を着実に増やすことができます。
重要なのは、収入が入ったらまず貯蓄分を「先取り」し、残りで生活する習慣を身につけることです。この方法なら、意識しなくても自然と貯蓄が積み上がっていくでしょう。
ステップ3:非課税制度を活用した資産形成(iDeCo、新NISA)
貯蓄を効率的に増やすためには、税制優遇制度の活用が欠かせません。代表的な制度として、iDeCo(個人型確定拠出年金)と新NISAがあります。
iDeCo(個人型確定拠出年金)の特徴
iDeCoは、自分で掛金を積み立て、運用し、原則60歳以降に受け取る私的年金制度です。3つの段階で税制優遇が受けられます。
・拠出時:掛金が全額所得控除の対象となり、所得税・住民税が軽減される
・運用時:運用で得た利益が非課税になる
・受取時:一時金で受け取る場合は退職所得控除、年金で受け取る場合は公的年金等控除が適用される
2024年12月の制度改正により、企業年金に加入している会社員や公務員のiDeCo掛金上限額が月額1万2,000円から月額2万円に引き上げられました。より多くの金額を積み立てられるようになり、節税効果も高まっています。
出典:政府広報オンライン「iDeCoがより活用しやすく! 2024年12月法改正のポイント」
新NISA(少額投資非課税制度)の特徴
2024年1月にスタートした新NISAは、投資で得た利益が非課税になる制度です。旧制度から大幅に拡充され、より使いやすくなりました。
・年間投資枠:つみたて投資枠120万円+成長投資枠240万円=合計360万円
・非課税保有限度額:1,800万円(うち成長投資枠は1,200万円まで)
・非課税保有期間:無期限
・両枠の併用:可能
つみたて投資枠では、長期・積立・分散投資に適した投資信託を毎月コツコツと購入できます。成長投資枠では、上場株式やより幅広い投資信託への投資も可能です。iDeCoと異なり、原則としていつでも売却・換金できる点も特徴となっています。
ステップ4:分散投資と長期運用の原則
資産運用においては、「分散投資」と「長期運用」が基本原則となります。
分散投資とは、投資先を一つに集中させず、複数の資産や地域に分けて投資することでリスクを軽減する手法です。具体的には、国内株式・海外株式・国内債券・海外債券などに分散することで、特定の市場が下落しても資産全体への影響を抑えられます。
長期運用のメリットは、短期的な価格変動に左右されにくくなる点と、複利効果を活かせる点にあります。投資期間が長くなるほど、元本に加えて運用益にも利益が付く複利の効果が大きくなり、資産の成長が加速していきます。
一般的に、老後資金のように使用時期まで10年以上ある資金であれば、株式を中心とした運用でリターンを追求し、使用時期が近づくにつれて債券など値動きの小さい資産の比率を高めていくのが一つの考え方です。
ステップ5:必要に応じて個人年金保険などの活用
投資に不安がある場合や、確実に受け取れる金額を確保したい場合は、個人年金保険の活用も選択肢の一つです。
個人年金保険は、保険料を積み立てて将来年金として受け取る商品で、契約時に将来の受取額がある程度確定している点が特徴です。また、一定の条件を満たすと「個人年金保険料控除」として所得控除を受けられるメリットもあります。
ただし、一般的に個人年金保険はiDeCoや新NISAと比較して利回りが低い傾向にあります。税制優遇制度を優先的に活用したうえで、それでも資金に余裕がある場合や、安定性を重視したい部分に個人年金保険を組み合わせるという考え方が合理的でしょう。
「働く期間の延長」も立派な老後資金対策

資産形成だけでなく、働く期間を延ばすことも効果的な老後対策となります。定年後も働き続けることで、年金受給開始までの生活費を賄えるだけでなく、年金の繰り下げ受給によって将来の年金額を増やすこともできます。
高齢者の就業率は上昇傾向
総務省の統計によると、2024年の65歳以上の就業者数は930万人で、21年連続で増加し過去最高を更新しています。65歳以上の就業率は25.7%で、前年より0.5ポイント上昇しました。
年齢階級別に見ると、65〜69歳の就業率は53.6%と2人に1人以上が働いており、70〜74歳でも35.1%が就業しています。高齢者の就業率は主要国の中でも高い水準にあり、企業の定年延長や継続雇用制度の普及が背景にあると考えられます。
働き続けることのメリット
内閣府「令和6年版高齢社会白書」によれば、現在収入のある仕事をしている60歳以上の方のうち、約8割が70歳以降も働き続けたいと回答しています。働く理由としては「収入のため」が最も多いものの、「働くのは体によいから、老化を防ぐから」「自分の知識・能力を生かせるから」といった理由も挙げられています。
働き続けることのメリットには、収入を得られること以外にも、社会とのつながりを維持できること、生活にリズムと張り合いが生まれること、心身の健康維持に役立つことなどがあります。もちろん無理をする必要はありませんが、体力や気力が許す限り、何らかの形で社会参加を続けることは、経済面・健康面の両方でプラスになるでしょう。
出典:内閣府「令和6年版高齢社会白書 第1章 高齢化の状況 就業・所得」
まとめ:老後を豊かにする「自分年金」の作り方

公的年金は老後生活の重要な「土台」ですが、それだけに頼りきるのではなく、自分自身で「上積み」を準備することが、ゆとりある老後を実現するカギとなります。
本記事で紹介した老後資金作りのポイントは、まず自分の老後に必要な金額を把握し、現状とのギャップを明確にすること、そして家計を見直して貯蓄可能額を増やすことから始まります。iDeCoや新NISAといった税制優遇制度を活用し、分散投資・長期運用の原則に沿って資産を育てていきましょう。
また、健康である限り働き続けることも、立派な老後対策です。収入を得るだけでなく、社会参加を通じて心身の健康を維持することにもつながります。
「自分年金」づくりは、早く始めるほど時間を味方につけられます。今日から一歩を踏み出し、将来の安心に向けた準備を始めてみてはいかがでしょうか。
本記事は、CFP資格保有者であり、J-FLEC認定アドバイザーの金子賢司が執筆しています。当記事の執筆者「金子賢司」の情報は、CFP検索システムおよびJ-FLECアドバイザー検索システムにてご確認いただけます。北海道エリアを指定して検索いただくとスムーズです。
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