公的年金制度
少子高齢化で年金は破綻する?年金制度の財政検証と将来見通しを解説

「年金は将来もらえるのか?」「少子高齢化で破綻するのでは?」といった不安は、多くの人が抱えている問題ではないでしょうか。しかし、日本の年金制度は本当に「破綻」するのでしょうか。
結論から言えば、年金がゼロになる可能性は極めて低いと考えられています。この記事では、2024年7月に公表された最新の財政検証結果をもとに、年金制度の仕組みと将来見通しについて解説します。公的年金への理解を深め、老後の備えを考える際の参考にしてください。
はじめに:年金不安を煽る情報に惑わされないために

インターネットやSNSでは「年金は破綻する」「若い世代は年金をもらえない」といった情報が拡散されることがあります。こうした不安を感じている方も少なくないでしょう。
しかし、年金制度について正確に理解するためには、厚生労働省が公表している「財政検証」の結果を確認することが重要になります。財政検証とは、年金財政の健全性を定期的にチェックする仕組みであり、将来の給付と負担のバランスを検証するものです。
年金制度を正しく理解するためのポイントは以下の3点に集約されます。
・年金制度は「破綻」ではなく「調整」の仕組みで運営されている
・給付水準は下がる見通しだが、ゼロにはならない
・公的年金だけでなく、自助努力も組み合わせた老後設計が求められる
年金制度の「財政検証」とは?

財政検証について理解することは、年金制度の将来を考えるうえで欠かせません。ここでは財政検証の基本的な仕組みと、どのような前提条件で将来見通しが作成されるのかを見ていきましょう。
5年に一度の点検作業とその目的
財政検証とは、国民年金法および厚生年金保険法の規定に基づき、少なくとも5年ごとに実施される年金財政の健全性チェックのことを指します。厚生労働省はこれを「年金の定期健康診断」と表現しています。
財政検証では主に2つの点が検証されます。
・長期的な給付と負担の均衡が確保されるかどうか
・均衡が確保される給付水準はどの程度になるか
直近の財政検証は2024年7月3日に結果が公表されました。前回(2019年)と比較して、女性や高齢者の厚生年金加入者増加、株価上昇による積立金の運用好調などを背景に、見通しは改善しています。
将来の人口動態予測と経済前提
財政検証では、将来の社会・経済状況について一定の前提を置いたうえで試算が行われます。将来は不確実であるため、幅広い複数のケースが設定されているのが特徴です。
2024年財政検証では、経済前提として以下の4ケースが設定されました。
・高成長実現ケース:経済成長と労働参加が進展するパターン
・成長型経済移行・継続ケース:一定程度の経済成長が続くパターン
・過去30年投影ケース:過去30年と同程度の経済状況が続くパターン
・1人当たりゼロ成長ケース:経済成長が停滞するパターン
人口の前提については、国立社会保障・人口問題研究所の将来推計人口に基づき、出生率や死亡率、外国人入国者数などが考慮されています。
「破綻」という言葉の誤解:積立方式と賦課方式のハイブリッド

年金が「破綻する」という表現を耳にすることがありますが、これは年金制度の仕組みを正確に理解していない場合に生じる誤解です。日本の年金制度がどのような財政方式で運営されているのかを解説します。
日本の年金制度は「世代間の助け合い」で成り立っている
日本の公的年金制度は「賦課方式」を基本としています。賦課方式とは、現役世代が納める保険料をその時々の年金受給者への給付に充てる仕組みで、「世代間の支え合い」とも呼ばれています。
一方、「積立方式」とは、自分が将来受け取る年金を現役時代に積み立てておく方式を指します。民間の個人年金保険などはこの方式に近いものといえるでしょう。
日本の年金制度は、賦課方式を基本としながらも一定の積立金を保有する「修正賦課方式」(または「修正積立方式」)で運営されています。年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が運用する積立金は、2024年度末時点で約250兆円に達しており、将来世代の給付を補うために活用される仕組みとなっています。
賦課方式の特徴として、現役世代がいる限り保険料収入は発生するため、年金給付が完全にゼロになることは理論上考えにくい点が挙げられます。
出典:厚生労働省「いっしょに検証!公的年金 賦課方式と積立方式」
マクロ経済スライドとは?年金支給額が調整される仕組み

年金制度を持続可能なものにするために導入されているのが「マクロ経済スライド」という仕組みです。この制度を理解することで、年金額がどのように調整されるのかが見えてきます。
少子高齢化と経済成長率が支給額に与える影響
マクロ経済スライドとは、2004年の年金制度改正で導入された、年金給付水準を自動的に調整する仕組みのことを指します。具体的には、賃金や物価の上昇に応じて年金額を改定する際に、「スライド調整率」を差し引くことで、年金額の伸びを抑制するものです。
スライド調整率は、以下の2つの要素から計算されます。
・公的年金全体の被保険者数の減少率(少子化による現役世代の減少を反映)
・平均余命の伸びを勘案した一定率(0.3%)
2025年度の年金改定では、名目手取り賃金変動率が+2.3%であったのに対し、マクロ経済スライドによる調整(-0.4%)が適用され、年金額の改定率は+1.9%となっています。
この仕組みにより、賃金や物価が上昇しても年金額の上昇は抑えられるため、現役世代に対する年金の相対的な水準(所得代替率)は徐々に低下していくことになります。ただし、年金の名目額(金額そのもの)は物価上昇に一定程度対応できるよう設計されています。
出典:厚生労働省「いっしょに検証!公的年金 給付と負担をバランスさせる仕組み」
将来見通し:年金額は減るが、ゼロにはならない理由

財政検証の結果から、将来の年金給付水準がどの程度になるのかを確認していきましょう。給付水準の維持と、法律で定められた目標についても解説します。
給付水準の維持と負担のバランス
2024年財政検証によると、2024年度時点の所得代替率は61.2%となっています。所得代替率とは、年金を受け取り始める時点(65歳)における年金額が、現役世代の手取り収入額(ボーナス込み)と比較してどのくらいの割合かを示す指標です。
2024年度の場合、現役男子の平均手取り収入は月額37.0万円であるのに対し、モデル年金額(夫婦2人の基礎年金+夫の厚生年金)は月額22.6万円となっています。
将来の見通しについては、経済前提によって異なりますが、主なケースでは以下のようになっています。
・成長型経済移行・継続ケース:2037年度に調整終了、所得代替率57.6%
・過去30年投影ケース:2057年度に調整終了、所得代替率50.4%
いずれのケースでも、年金がゼロになるという見通しは示されていません。また、実質的な年金額(購買力)については、経済成長に伴う賃金上昇があれば、現在と同等以上の水準が維持される可能性もあります。
「現役世代の所得代替率50%以上」という目標
2004年の年金制度改正において、「所得代替率50%」が給付水準の下限として法律に定められました。これは、年金を受給し始める時点で、現役世代の平均手取り収入の50%以上を年金として受け取れる水準を維持するという目標です。
法律では、次の財政検証までに所得代替率が50%を下回ると見込まれる場合には、「給付水準調整の終了その他の措置を講ずるとともに、給付及び負担の在り方について検討を行い、所要の措置を講ずる」と規定されています。
2024年財政検証の結果、経済成長と労働参加が一定程度進むケースでは、いずれも所得代替率は50%を上回る見通しとなっており、現時点では法律に基づく措置を講じる必要はないとされています。
出典:厚生労働省「いっしょに検証!公的年金 所得代替率と年金の実質価値」
年金不安を乗り越えるために今できること

年金制度は変化しながらも維持される見通しですが、給付水準が低下する可能性があることも事実です。将来に備えるために、今から取り組める対策について考えてみましょう。
iDeCo、NISA、個人年金保険などでの自助努力
公的年金だけに頼らず、私的年金や資産形成を組み合わせた老後設計が重要になってきています。活用できる主な制度は以下のとおりです。
iDeCo(個人型確定拠出年金)
iDeCoは、自分で掛金を拠出し、運用商品を選んで資産を形成する私的年金制度です。掛金が全額所得控除となるため、所得税・住民税の節税効果が得られます。運用益も非課税で、受取時にも税制優遇を受けることが可能です。
NISA(少額投資非課税制度)
NISAは、投資から得られる利益(配当金や売却益)が非課税になる制度です。2024年から新NISA制度がスタートし、年間投資枠が拡大されています。つみたて投資枠(年間120万円)と成長投資枠(年間240万円)を併用でき、長期的な資産形成に適しています。
個人年金保険
民間の保険会社が提供する年金保険で、保険料を積み立て、将来年金として受け取る仕組みとなっています。個人年金保険料控除の対象となり、一定の節税効果が期待できます。
これらの制度を活用する際には、以下の点を考慮することが大切です。
・自身のリスク許容度に応じた商品選択を行う
・長期・分散・積立の原則を意識する
・公的年金の受給見込み額を確認したうえで、不足分を補う設計を考える
なお、ねんきん定期便や「ねんきんネット」を活用すれば、将来受け取れる年金の見込み額を確認することができます。まずは自身の年金受給見込みを把握することから始めてみてはいかがでしょうか。
まとめ:年金制度は変化しても、老後の支えであり続ける
日本の年金制度は、「破綻」ではなく「調整」によって持続可能性を確保する設計になっています。2024年の財政検証結果からも、年金がゼロになるという見通しは示されていません。
ただし、少子高齢化の進行により、給付水準は緩やかに低下していく見通しです。現役世代の収入に対する年金の相対的な水準(所得代替率)は、将来的に50%程度まで下がる可能性もあります。
重要なのは、年金制度を正しく理解したうえで、iDeCoやNISAなどを活用した自助努力も組み合わせ、バランスの取れた老後設計を考えることではないでしょうか。年金不安に惑わされず、信頼できる公的機関の情報をもとに、冷静に将来の備えを進めていくことが大切です。
本記事は、CFP資格保有者であり、J-FLEC認定アドバイザーの金子賢司が執筆しています。当記事の執筆者「金子賢司」の情報は、CFP検索システムおよびJ-FLECアドバイザー検索システムにてご確認いただけます。北海道エリアを指定して検索いただくとスムーズです。
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