自動車保険
対物賠償保険は無制限にすべき?「無制限でも補償されないケース」と金額設定の判断基準

対物賠償保険の契約者の96.5%が「無制限」を選択しており、金額設定の面では判断に迷うことは少なくなりました。しかし実務の現場では、無制限で契約しているにもかかわらず「思ったほど保険金が出なかった」という相談が後を絶ちません。本記事では、対物賠償保険の基本的な補償範囲に加え、「無制限」の意味を正しく理解するための注意点や、見落としがちな対物超過修理費用特約の要否まで解説します。
対物賠償保険の補償範囲と「間接損害」の重要性

対物賠償保険は、運転中の事故で他人の財物(モノ)に損害を与え、法律上の損害賠償責任を負った場合に保険金が支払われる保険です。自賠責保険には物損の補償がないため、任意保険でカバーする必要があります。
補償対象となる主な損害
対物賠償保険がカバーする損害は、物の修理費にとどまりません。具体的には以下のような費目が対象になります。
・相手の自動車の修理費(ただし「時価額」が上限。詳しくは後述)
・店舗や住宅の壁・フェンス等の修理費
・電柱・ガードレール・信号機など公共物の復旧費
・事故で営業できなくなった店舗等の休業損害(営業損害)
・電車を止めてしまった場合の運行不能損害
・片付け・清掃・撤去費用 等
見落としがちなのは、物の修理費だけでなく「間接損害」も賠償対象になるという点です。たとえば営業中の店舗に車が突っ込み、復旧工事中に営業ができなくなった場合、その期間の売上減少分も損害賠償の対象となり得ます。この間接損害の存在が、対物賠償の金額を想像以上に押し上げる原因になっています。
「無制限」でも支払われないケースを知っておく

損害保険料率算出機構「2024年度 自動車保険の概況」によれば、自家用普通乗用車の98.9%が対物賠償を無制限で契約しています。保険料の差もわずかなため、無制限を選ぶこと自体は合理的な判断といえるでしょう。
ただし、「無制限=いくらでも支払われる」と誤解されているケースがあります。無制限とは「支払限度額に上限がない」という意味であり、法律上の賠償責任がない部分には保険金は支払われません。
「時価額の壁」——修理費が全額出ないケース
車対車の事故で見落とされやすいのが、「時価額」と修理費の差です。対物賠償で補償されるのは、相手の車の「事故時点での時価額」が上限であり、修理費がそれを上回っても差額は法律上の賠償責任が発生しません。
たとえば、相手の車の時価額が30万円で修理費が60万円かかる場合、対物賠償保険から支払われるのは時価額30万円(×自身の過失割合)までとなります。保険金額が「無制限」であっても、この原則は変わりません。
年式の古い車ほど時価額は低くなるため、相手方が古い車に乗っているケースほど修理費との差額が争点になりやすいのが実態です。こうしたトラブルを防ぐのが、次に解説する「対物超過修理費用特約」の役割になります。
対物超過修理費用特約は付けるべきか
対物超過修理費用特約(保険会社によって「対物全損時修理差額費用補償特約」等の名称)は、相手の車の修理費が時価額を超えた場合に、その差額を補償する特約です。多くの保険会社では限度額50万円で設定されています。
この特約がない場合、差額分は相手方の自己負担となるため示談交渉が難航することがあります。金額的には月額数十円~百円程度の上乗せで済むケースが多いため、円滑な事故解決のためにもセットしておくことが望ましい特約です。
過失割合による自己負担の発生
もうひとつ理解しておきたいのが、過失割合によって自己負担が発生する構造です。たとえば自身の過失割合が80%、相手が20%の事故では、相手方の損害の80%分のみが対物賠償の支払い対象になります。残りの20%は相手方の自己負担です。
逆に、自身の車の損害についても相手方の過失割合分(20%)しか相手から賠償を受けられません。「無制限で入っているから安心」ではなく、過失割合に応じた負担構造を知っておくことが、事故時の冷静な判断につながります。
高額賠償の実例——対物事故で約32億8,900万円の判決

2008年8月、首都高速道路・熊野町ジャンクションでタンクローリーが横転・炎上する事故が発生しました。積載していたガソリンと軽油が約5時間半にわたって燃え続け、橋梁が損傷、路面は最大約70cm陥没し、全面復旧までに約2カ月半を要しています。
東京地方裁判所は2016年7月14日、この事故について約32億8,900万円の支払いを運送会社と運転手に命じました。賠償額の内訳は、高架部分の架け替え工事費約17億円に加え、通行止めに伴う通行料金の逸失利益などの間接損害が含まれています。
この事例が示すのは、「物を壊した修理費」だけでなく、社会インフラの機能停止や営業損害が加わると、賠償額は桁違いに膨れ上がるということです。当該運送会社は賠償金を支払えず破産手続きに至っており、十分な保険金額を設定することの重要性が改めて浮き彫りになった事案でした。
出典:裁判所|裁判例検索(公式)(東京地方裁判所 平成28年7月14日判決で検索可能)
保険金額の設定で押さえておきたい3つの判断基準

対物賠償保険の金額設定を検討する際、以下の3つの視点が判断材料になります。
①保険料の差は想像以上に小さい
対物賠償保険の保険金額を「2,000万円」から「無制限」に引き上げた場合の保険料差は、年間で数十円~数百円程度にとどまるケースが多くあります。コストに対するリスク低減効果を考えれば、無制限を選ばない積極的な理由は見当たりません。
②示談交渉サービスが受けられなくなるリスク
見落とされがちなポイントとして、損害賠償額が保険金額を明らかに超える場合、保険会社の示談交渉サービスが利用できなくなることがあります。保険金額に上限がある契約では、上限を超える部分について保険会社が交渉する権限を持たないためです。無制限に設定しておくことで、このリスクを回避できます。
③家計防衛の優先順位を意識する
自動車保険全体の見直しにおいて、対人賠償と対物賠償を無制限にすることは最優先事項です。保険料を抑えたい場合でも、この2つを削るのは避けるべきでしょう。見直すなら車両保険の免責金額(自己負担額)の設定や、特約の取捨選択で調整するのが家計への影響を抑えながらリスクに備える方法です。
まとめ
対物賠償保険は、物の修理費だけでなく休業損害・逸失利益などの間接損害までカバーする保険です。金額設定は「無制限」が基本ですが、無制限でも時価額を超える修理費は補償されない点、過失割合に応じた自己負担が発生する点は正しく理解しておく必要があります。
対物超過修理費用特約を付帯して時価額との差額リスクに備えること、そして保険料を抑える際には対人・対物の金額設定ではなく車両保険や特約で調整すること——こうした判断の積み重ねが、万一の際に家計を守る備えにつながります。
参考情報
・損害保険料率算出機構「2024年度 自動車保険の概況」——対物賠償保険金額の契約構成比等
損害保険料率算出機構|自動車保険の概況
・東京地方裁判所 平成28年7月14日判決(首都高速熊野町ジャンクション火災事故 損害賠償請求事件)
裁判所|裁判例検索(公式)
本記事は、CFP資格保有者であり、J-FLEC認定アドバイザーの金子賢司が執筆しています。当記事の執筆者「金子賢司」の情報は、CFP検索システムおよびJ-FLECアドバイザー検索システムにてご確認いただけます。北海道エリアを指定して検索いただくとスムーズです。



