公的年金制度
同居の親は世帯分離すべき?扶養のままがいい?定年後継続雇用者が知るべき判断基準

定年後も継続雇用で働きながら、年金受給額が少ない親と同居しているケースは少なくありません。「世帯分離をしたほうが得になる」という話を耳にすることもありますが、必ずしも全員にメリットがあるとは限らないのが実情です。世帯分離と扶養のどちらを選ぶべきかは、親の年金額、子どもの収入、介護の有無など複数の要素を総合的に検討する必要があります。
本記事では、年金受給額100万円以下の親と同居している場合を想定し、世帯分離と扶養それぞれのメリット・デメリットを具体的に解説していきます。
世帯分離と税法上の扶養は別の制度

最初に押さえておきたいのは、「世帯分離」と「税法上の扶養」は異なる制度であるという点です。この2つを混同してしまうと、判断を誤る原因になりかねません。
世帯分離とは
世帯分離とは、同じ住所に住みながら、住民票上の世帯を分けることを指します。同居していても親と子で世帯を分ければ、それぞれが世帯主となり、別々の世帯として扱われることになります。
世帯分離の手続きは、住民票のある市区町村の窓口で「世帯変更届(世帯分離届)」を提出することで行えます。本人確認書類や印鑑などが必要となるため、事前に市区町村へ確認しておくとスムーズでしょう。
税法上の扶養とは
税法上の扶養は、納税者と生計を一にする親族で、一定の所得要件を満たす人を扶養親族として申告することで、所得控除を受けられる制度です。扶養控除の要件として「同居」は必須ではなく、生計を一にしていれば別居の親であっても対象となる場合があります。
所得税法基本通達2-47では、親族が同一の家屋に起居している場合には、明らかに互いに独立した生活を営んでいると認められる場合を除き、「生計を一にする」ものとして取り扱うとされています。つまり、世帯分離をしても、実際に同居して親の生活を支援している実態があれば、扶養控除を受けられる可能性があるのです。
年金100万円以下の親は扶養親族の要件を満たす

親を扶養親族にするためには、親の年間合計所得金額が48万円以下である必要があります(令和2年分以降)。では、年金収入100万円の場合、合計所得金額はいくらになるのでしょうか。
公的年金等控除額による計算
65歳以上の方が受け取る公的年金には、公的年金等控除が適用されます。65歳以上で年金収入が330万円未満の場合、公的年金等控除額は110万円となっています。
したがって、年金収入100万円の場合の所得金額は次のように計算できます。
・年金収入100万円 − 公的年金等控除110万円 = 0円(所得金額)
所得金額が0円であれば、扶養親族の所得要件(48万円以下)を十分に満たしています。年金収入100万円以下の親は、扶養控除の対象となる可能性が高いといえるでしょう。
扶養控除を維持するメリット

親を扶養に入れたまま維持することには、いくつかの経済的メリットがあります。
老人扶養控除による所得税・住民税の軽減
70歳以上の親を扶養している場合、「老人扶養控除」が適用されます。控除額は同居か別居かによって異なり、次のとおりです。
・同居老親等:58万円(所得税)
・同居老親等以外:48万円(所得税)
同居している場合は58万円の控除を受けられるため、節税効果は大きくなります。たとえば、所得税率が10%の場合は5万8,000円、20%の場合は11万6,000円の所得税が軽減される計算です。住民税についても同様に控除が適用されるため、合計するとかなりの節税になるケースもあるでしょう。
出典:国税庁「No.1182 高齢者を扶養している人が受けられる配偶者控除や扶養控除」
健康保険の被扶養者になれる場合がある
75歳未満の親であれば、子どもの勤務先の健康保険(社会保険)の被扶養者になれる可能性があります。被扶養者となれば、親自身が国民健康保険料を負担する必要がなくなり、家計全体の支出を抑えられます。
ただし、健康保険の被扶養者要件は、同居・別居によって異なります。協会けんぽの場合、同居している親であれば年収130万円未満(60歳以上または障害者は180万円未満)かつ被保険者の年収の半分未満であれば被扶養者となれます。年金収入100万円の親であれば、この要件を満たす可能性が高いでしょう。
なお、75歳以上の親は後期高齢者医療制度に加入するため、健康保険の被扶養者にはなれません。この点は注意が必要です。
勤務先の扶養手当・家族手当
会社によっては、親を扶養している従業員に対して扶養手当や家族手当を支給しているところがあります。世帯分離によって扶養から外れると判断されると、これらの手当が支給されなくなる可能性もあるため、勤務先の就業規則や人事担当者に確認しておくことをおすすめします。
世帯分離のメリット

一方で、世帯分離にもメリットがあります。特に、親が介護サービスを利用している場合や、将来的に介護が必要になる可能性がある場合には検討の余地があるでしょう。
介護保険の自己負担額が軽減される可能性
介護保険サービスの自己負担額や高額介護サービス費の負担上限額は、「世帯」の所得によって決定されます。現役世代の子どもと同一世帯の場合、世帯全体の所得が高くなるため、親の介護費用負担が増える傾向にあります。
世帯分離をして親が単独世帯となれば、親の所得のみで判定されるため、介護費用の負担が軽減される可能性があるのです。
高額介護サービス費の自己負担上限額は世帯の所得状況によって異なり、住民税非課税世帯であれば月額24,600円、課税世帯であれば月額44,400円以上となる場合があります。
住民税非課税世帯としての優遇措置
年金収入100万円の親が単独世帯となった場合、その世帯は住民税非課税世帯に該当する可能性があります。住民税非課税世帯には、次のような優遇措置があります。
・介護保険料の軽減
・後期高齢者医療保険料の均等割軽減(7割・5割・2割軽減)
・高額療養費の自己負担限度額の軽減
・介護施設入所時の食費・居住費の軽減(補足給付)
ただし、住民税非課税世帯であっても、住民税が課税されている親族に扶養されている場合は、各種給付金の対象外となる場合がある点には注意が必要です。世帯分離をしても扶養控除を維持する場合、給付金の対象から外れる可能性があるため、どちらを優先するか慎重に検討する必要があります。
出典:内閣府「住民税非課税世帯等に対する臨時特別給付金に関するよくあるご質問」
後期高齢者医療保険料の軽減判定
75歳以上の親が後期高齢者医療制度に加入している場合、保険料の均等割額は世帯の所得状況によって7割・5割・2割の軽減を受けられる場合があります。
この軽減判定には、被保険者だけでなく世帯主の所得も含まれます。そのため、現役世代の子どもが世帯主の場合、子どもの所得が高いと軽減が適用されないことがあります。世帯分離をすれば、親の所得のみで判定されるため、軽減を受けやすくなる可能性があるのです。
世帯分離のデメリット

世帯分離にはデメリットもあります。メリットとデメリットを比較したうえで判断することが重要です。
扶養控除が適用されなくなるリスク
世帯分離をしても扶養控除を維持できる可能性はありますが、「生計を一にしている」ことを証明できなければ、扶養控除が適用されなくなる場合もあり得ます。扶養控除を申告した後に否認されると、追加で所得税を支払う必要が生じるため、事前に税務署へ相談しておくことをおすすめします。
健康保険の被扶養者から外れる可能性
健康保険の被扶養者認定では、世帯分離をすると「別居扱い」となるのが原則です。別居の場合、仕送りの事実を証明する必要があるなど、同居時より要件が厳しくなります。加入している健康保険組合によって取り扱いが異なるため、世帯分離を検討する際は事前に確認しておくとよいでしょう。
被扶養者から外れると、75歳未満の親は国民健康保険に加入することになり、新たに保険料負担が発生します。
国民健康保険料が増加する場合がある
国民健康保険料には「平等割」という世帯ごとにかかる定額部分があります。世帯分離をすると世帯数が増えるため、この平等割の分だけ保険料総額が増える可能性があります。ただし、平等割がない自治体もあるため、お住まいの市区町村で確認することが大切です。
各種手続きが煩雑になる
世帯分離後は、親と子で住民票が別々になります。親の代わりに行政手続きを行う場合には委任状が必要となるなど、手続きが煩雑になる点もデメリットといえるでしょう。
高額療養費の世帯合算ができなくなる
世帯分離をすると、親と子の医療費を合算して高額療養費の払い戻しを受けることができなくなります。双方に医療費がかかっている場合は、この点もデメリットとなり得ます。
年金100万円以下の親と同居する場合の判断ポイント

世帯分離と扶養のどちらを選ぶべきかは、個々の状況によって異なります。以下のポイントを参考に検討してみてください。
扶養を維持したほうがよいケース
・親が70歳以上で、同居老親等の扶養控除(58万円)による節税効果が大きい場合
・親が75歳未満で、健康保険の被扶養者になることで保険料負担を抑えられる場合
・勤務先から扶養手当・家族手当が支給されている場合
・親が現時点で介護サービスを利用していない、または利用量が少ない場合
世帯分離を検討したほうがよいケース
・親が要介護認定を受けており、介護サービスの利用量が多い場合
・親が介護施設への入所を検討している場合(食費・居住費の軽減を受けられる可能性)
・親が75歳以上で後期高齢者医療制度に加入しており、保険料軽減の効果が見込める場合
・子どもの所得が高く、世帯全体の所得で判定されると親の負担が大きくなる場合
世帯分離しても扶養控除を受けられるか確認を

繰り返しになりますが、世帯分離と扶養控除は別の制度です。世帯分離をしても、実際に同居して親の生活費を負担しているのであれば、扶養控除を受けられる可能性があります。
ただし、この判断はケースバイケースであり、後から否認されるリスクもゼロではありません。世帯分離を行う前に、管轄の税務署や市区町村の窓口に相談し、扶養控除の適用可否について確認しておくことをおすすめします。
まとめ
定年後継続雇用で働きながら、年金収入100万円以下の親と同居している場合、世帯分離と扶養のどちらが有利かは一概に言えません。扶養控除による節税メリットと、世帯分離による介護費用・保険料の軽減メリットを比較し、家庭の状況に応じて判断することが大切です。
特に親が介護サービスを利用している場合や、今後介護が必要になる可能性がある場合は、ケアマネジャーやファイナンシャルプランナー、税理士などの専門家に相談しながら検討することをおすすめします。
また、世帯分離の手続きや扶養控除の適用可否については、市区町村の窓口や税務署で事前に確認しておくと安心でしょう。
本記事は、CFP資格保有者であり、J-FLEC認定アドバイザーの金子賢司が執筆しています。当記事の執筆者「金子賢司」の情報は、CFP検索システムおよびJ-FLECアドバイザー検索システムにてご確認いただけます。北海道エリアを指定して検索いただくとスムーズです。
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