公的年金制度
共働き夫婦の年金戦略:夫婦で賢く老齢年金を最大化する方法

共働き世帯の増加に伴い、夫婦それぞれが老齢年金を受け取れるケースが増えています。
世帯全体で見ると「2馬力」となる共働き夫婦の年金は、片働き世帯と比較して有利になる傾向がありますが、受給開始時期の選択や各種加算制度の活用次第で、老後の収入は大きく変わるでしょう。本記事では、共働き夫婦が知っておくべき年金戦略について、税制優遇や加算制度を踏まえながら詳しく解説していきます。
共働き夫婦の年金は「2馬力」で強い

共働き夫婦は、夫婦それぞれが厚生年金に加入している期間が長いため、老後に受け取れる年金額は片働き世帯よりも多くなります。厚生労働省が公表している令和7年度の年金額によると、夫婦ともに厚生年金中心で働いてきた共働き世帯の年金は、月額約30万5,574円と試算されています。一方、夫が厚生年金中心で妻が第3号被保険者(専業主婦)だった片働き世帯の場合は、月額約25万267円となっており、月額で約5万5,000円の差が生じます。
この差が生まれる理由は、老齢厚生年金の報酬比例部分にあります。老齢厚生年金は、加入期間中の報酬に応じて計算されるため、夫婦それぞれが長期間厚生年金に加入している共働き世帯は、2人分の報酬比例部分を受け取ることができるのです。
共働き夫婦の年金受給額シミュレーション:一般的なモデルケース

共働き夫婦がどの程度の年金を受け取れるのか、具体的なモデルケースで確認してみましょう。
夫婦それぞれが老齢基礎年金と老齢厚生年金を受け取る
令和7年度の年金額を基に、共働き夫婦のモデルケースを見ていきます。厚生労働省の資料では、厚生年金中心(20年以上)で働いてきた男性の平均的な年金額は月額約17万3,457円、女性の場合は月額約13万2,117円と公表されています。
この金額は、老齢基礎年金と老齢厚生年金を合算したものです。男性の場合は平均厚生年金期間39.8年、平均収入(賞与含む月額換算)50.9万円を基に、女性の場合は平均厚生年金期間33.4年、平均収入35.6万円を基に算出されています。
世帯全体で見ると、共働き夫婦は月額約30万5,574円を受け取ることになります。これは年間で約366万円に相当し、老後生活の基盤として十分な金額といえるでしょう。ただし、実際の年金額は個人の加入期間や報酬によって異なるため、ねんきん定期便や年金事務所で確認することをおすすめします。
出典:厚生労働省「令和7年度の年金額改定について」(PDF)
夫婦で考える年金受給開始時期の戦略

年金は原則65歳から受給開始となりますが、60歳から64歳の間に繰り上げて受給することも、66歳から75歳までの間に繰り下げて受給することも可能です。共働き夫婦の場合、夫婦それぞれの状況に応じて受給開始時期を選択できるため、戦略的な判断が重要になります。
繰り下げ受給と繰り上げ受給のメリット・デメリット
繰り下げ受給のメリットとして、年金額が増額される点が挙げられます。66歳以降75歳までの間で受給開始を遅らせると、1ヶ月あたり0.7%ずつ年金額が増額されます。70歳まで5年間繰り下げた場合は42%増額、75歳まで10年間繰り下げた場合は最大84%増額となります。この増額は生涯続くため、長生きするほど有利になる仕組みです。
一方、繰り下げ受給のデメリットとしては、受給開始を遅らせている間は年金収入がないこと、また加給年金は繰り下げ待機期間中に支給されず、増額の対象にもならない点があります。さらに、増額された年金額によって社会保険料や税金が増加する可能性もあるため、総合的に判断する必要があるでしょう。
繰り上げ受給は、60歳から64歳の間に年金受給を開始する方法です。昭和37年4月2日以降生まれの方は、1ヶ月あたり0.4%減額され、60歳から受給開始する場合は最大24%減額となります。この減額率は生涯変わらないため、慎重な判断が求められます。繰り上げ受給は、老齢基礎年金と老齢厚生年金を同時に請求する必要があり、一度請求すると取り消すことができません。
世帯全体で見た年金受給の最適化
共働き夫婦が受給開始時期を検討する際は、世帯全体の収入と支出のバランスを考慮することが重要です。例えば、夫婦のどちらか一方が65歳以降も働く予定がある場合、働く側は繰り下げ受給を選択し、もう一方は65歳から受給を開始するという組み合わせが考えられます。
また、夫婦で年齢差がある場合には、年上の配偶者が先に受給を開始し、年下の配偶者は繰り下げ受給で年金額を増やすという戦略も有効です。ただし、遺族年金への影響も考慮する必要があります。繰り下げ受給で増額された老齢厚生年金を受給していた方が亡くなった場合でも、その増額分は遺族厚生年金には引き継がれません。
世帯全体の最適化を図るためには、65歳以降の就労予定、保有資産の状況、健康状態、そして夫婦それぞれの年金見込み額を踏まえた総合的な判断が求められるでしょう。
出典:厚生労働省「年金制度の仕組みと考え方 第11 老齢年金の繰下げ受給と繰上げ受給」
共働き夫婦が活用すべき加給年金・振替加算の知識

共働き夫婦であっても、夫婦間の年齢差や厚生年金の加入期間によっては、加給年金や振替加算の対象となる場合があります。これらの制度を正しく理解しておくことで、受給漏れを防ぐことができます。
加給年金の支給条件と注意点
加給年金は、厚生年金に20年以上加入している方が65歳になった時点で、生計を維持している65歳未満の配偶者または18歳到達年度末までの子がいる場合に、老齢厚生年金に加算される年金です。いわば「年金の家族手当」のような役割を果たしています。
令和7年度の加給年金額は、配偶者の場合、基本額239,300円に特別加算額176,600円を加えた年額415,900円となります。子の場合は、1人目・2人目がそれぞれ年額239,300円、3人目以降は年額79,800円が加算されます。
ただし、共働き夫婦の場合は注意が必要です。加給年金の対象となる配偶者が、自身も厚生年金に20年以上加入しており、老齢厚生年金や障害年金を受給できる権利を持っている場合は、加給年金は支給停止となります。つまり、夫婦ともに長期間厚生年金に加入している共働き夫婦は、加給年金の恩恵を受けられないケースが多いのです。
また、老齢厚生年金を繰り下げ受給する場合、繰り下げ待機期間中は加給年金が支給されず、繰り下げによる増額の対象にもなりません。加給年金を受給しながら年金を繰り下げたい場合は、老齢基礎年金のみを繰り下げるという選択肢もあります。
振替加算の仕組みと対象者
振替加算は、加給年金の対象となっていた配偶者が65歳に到達し、自身の老齢基礎年金を受給し始めるときに、その老齢基礎年金に加算される年金です。配偶者が65歳になると加給年金の支給は終了しますが、一定の条件を満たす場合は振替加算として引き継がれます。
振替加算の対象となるのは、大正15年4月2日から昭和41年4月1日までの間に生まれた方です。昭和41年4月2日以降に生まれた方は、国民年金への加入が義務化された後に成人となるため、振替加算の対象外となり、加算額は0円となります。
振替加算の金額は、対象者の生年月日によって決まります。生年月日が大正15年4月2日に近いほど金額が高く、昭和41年4月1日に近づくほど金額は少なくなる仕組みです。昭和36年4月2日から昭和41年4月1日生まれの方の場合、振替加算額は年額16,033円程度とわずかな金額になります。
共働き夫婦で、配偶者自身の厚生年金加入期間が20年以上ある場合は、振替加算の対象外となることにも注意が必要です。
共働き夫婦が今からできる年金上乗せ対策
公的年金だけでは老後資金が不足する可能性がある場合、私的年金制度を活用して年金を上乗せすることが重要です。共働き夫婦の場合、夫婦それぞれが税制優遇を受けながら資産形成できるため、効率的に老後資金を準備できます。
iDeCoと新NISAは夫婦それぞれで活用すべき理由
iDeCo(個人型確定拠出年金)は、掛金が全額所得控除となるため、所得税・住民税の節税効果が期待できる制度です。2024年12月の制度改正により、企業年金に加入している会社員や公務員のiDeCo掛金上限額が月額12,000円から月額20,000円に引き上げられました。
現行のiDeCo掛金上限額は以下の通りです。
・自営業者・フリーランス:月額68,000円(国民年金基金との合算)
・会社員(企業年金なし):月額23,000円
・会社員(企業型DCのみ加入):月額20,000円
・会社員(DB等加入)・公務員:月額20,000円(2024年12月改正後)
・専業主婦(主夫):月額23,000円
共働き夫婦が夫婦それぞれでiDeCoに加入すれば、世帯全体で掛金を積み増すことができ、節税効果も2倍になります。例えば、夫婦ともに企業年金のない会社員の場合、夫婦合計で月額46,000円(年間55万2,000円)をiDeCoで積み立てることができるのです。
出典:政府広報オンライン「iDeCoがより活用しやすく! 2024年12月法改正のポイントをわかりやすく解説」
新NISAは、2024年1月から始まった制度で、投資で得た利益が非課税となります。年間投資枠は、つみたて投資枠120万円と成長投資枠240万円を合わせて最大360万円、生涯非課税保有限度額は1,800万円(うち成長投資枠は1,200万円まで)と設定されています。非課税保有期間は無期限となり、長期的な資産形成に適した制度といえるでしょう。
新NISAも夫婦それぞれが口座を開設できるため、世帯全体で年間720万円、生涯で3,600万円までの非課税投資枠を活用することが可能です。iDeCoとは異なり、売却していつでも資金を引き出せる点も新NISAの特徴といえます。
出典:金融庁「NISAを知る」
企業型確定拠出年金(DC)の活用
勤務先に企業型確定拠出年金(企業型DC)制度がある場合は、積極的に活用することをおすすめします。企業型DCは、企業が掛金を拠出し、従業員が運用商品を選択して資産形成を行う制度です。運用益は非課税であり、受取時にも退職所得控除や公的年金等控除の適用を受けられます。
マッチング拠出が導入されている企業では、従業員も掛金を上乗せすることができ、この従業員掛金は全額所得控除の対象となります。共働き夫婦で夫婦ともに企業型DCに加入できる環境にある場合は、マッチング拠出を最大限活用することで、効率的に老後資金を積み立てることが可能です。
なお、企業型DCに加入している方がiDeCoに加入する場合は、掛金の合計額に上限があるため、勤務先の制度内容を確認したうえで検討するとよいでしょう。2024年12月の改正により、企業型DCの事業主掛金とiDeCoの掛金の合計が月額55,000円を超えることはできないルールとなっています。
公的年金と私的年金を組み合わせる真の目的は、単に受給額を増やすことではなく、夫婦二人の「資産寿命」を1年でも長く延ばし、最後まで自分たちらしい生活を維持することにあります。
まとめ:共働き夫婦で築く安心と豊かな老後
共働き夫婦は、夫婦それぞれが厚生年金に加入することで、老後に受け取れる年金額が片働き世帯よりも多くなるという強みがあります。令和7年度の試算では、共働き世帯の年金は月額約30万5,000円となり、片働き世帯と比較して月額約5万5,000円多く受給できる計算です。
年金を最大化するためには、繰り下げ受給や繰り上げ受給の選択、加給年金・振替加算の活用など、さまざまな選択肢を検討する必要があります。特に共働き夫婦の場合、夫婦それぞれの状況に応じて受給開始時期を決めることで、世帯全体の収入を最適化できるでしょう。
また、公的年金だけでなく、iDeCoや新NISA、企業型DCといった私的年金・資産形成制度を夫婦それぞれで活用することも重要です。これらの制度は税制優遇措置が設けられており、効率的に老後資金を準備できます。
老後の生活設計は、夫婦で話し合いながら早めに準備を始めることがポイントとなります。ねんきん定期便で自身の年金見込み額を確認し、必要に応じて年金事務所やファイナンシャルプランナーに相談しながら、安心と豊かな老後を実現していきましょう。
本記事は、CFP資格保有者であり、J-FLEC認定アドバイザーの金子賢司が執筆しています。当記事の執筆者「金子賢司」の情報は、CFP検索システムおよびJ-FLECアドバイザー検索システムにてご確認いただけます。北海道エリアを指定して検索いただくとスムーズです。
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