相続
借金を引き継ぎたくない!相続放棄の期限・手続き・5つの注意点を徹底解説

相続が発生したとき、「被相続人に借金があるから相続したくない」と考える方は少なくありません。民法第915条により、相続人は「自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内」に相続放棄の手続きを行うことで、借金などのマイナスの財産を一切引き継がずに済みます。しかし、この手続きには期限があり、一度受理されると原則として撤回できないため、慎重な判断が必要です。
この記事では、相続放棄の基本から具体的な手続き方法、そして手続き前に必ず知っておくべき5つの注意点まで、詳しく解説します。
相続放棄とは?負の遺産を引き継がない法的手続き

相続放棄とは、相続人が被相続人の財産や債務を一切引き継がないことを、家庭裁判所に申し出る手続きのことです。民法第939条により、相続放棄をした人は「その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす」と定められています。
相続が開始すると、相続人は被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継することになりますが、これには預貯金や不動産などのプラスの財産だけでなく、借金や未払金などのマイナスの財産も含まれます。相続放棄をすることで、マイナスの財産を引き継ぐ義務から完全に解放されるのです。
相続放棄の3ヶ月期限とは?「知った時」の正しい理解

相続放棄には厳格な期限があります。民法第915条第1項では、「自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内」に、家庭裁判所に相続放棄の申述をしなければならないと定められています。この3ヶ月間を「熟慮期間」といいます。
出典:法務省「新型コロナウイルス感染症に関連して、相続放棄等の熟慮期間の延長を希望する方へ」
「知った時」とは具体的にいつ?
「自己のために相続の開始があったことを知った時」とは、以下の2つの事実を両方知った時を指します。
・被相続人が死亡した事実を知ったこと
・自分が法律上の相続人となったことを知ったこと
多くの方が誤解しているのは、「被相続人の死亡日」と「知った時」の違いです。死亡日から3ヶ月ではなく、自分が相続人になったことを知った日から3ヶ月が正しい期限の起算点となります。
例えば、疎遠だった親族が亡くなり、その死亡を1年後に知った場合、死亡を知った日から3ヶ月以内であれば相続放棄が可能です。また、先順位の相続人が全員相続放棄したことで自分が相続人になった場合は、そのことを知った日から3ヶ月がカウントされます。
3ヶ月の期間計算方法
期間の計算は、「知った日」の翌日から起算します。例えば1月10日に知った場合、1月11日が起算日となり、3ヶ月後の4月10日が期限となります。期限の末日が土日祝日の場合は、その翌日が期限となります。
3ヶ月以内に間に合わない場合の対処法
相続財産の調査に時間がかかる場合など、3ヶ月以内に判断できない事情があるときは、家庭裁判所に「相続の承認または放棄の期間伸長」の申立てをすることができます。この手続きにより、熟慮期間を延長してもらうことが可能です。期限が過ぎてから延長を求めることはできませんので、間に合わないと感じたら早めに申立てをすることが重要です。
相続放棄の具体的な手続き方法

相続放棄をするには、家庭裁判所に申述書を提出する必要があります。以下の手順で手続きを進めていきます。
手続きの流れ
1. 相続財産の調査:プラスの財産とマイナスの財産を把握
2. 相続放棄の判断:本当に相続放棄すべきか検討
3. 必要書類の準備:申述書や戸籍謄本などを集める
4. 家庭裁判所への提出:郵送または窓口で提出
5. 照会書への回答:裁判所から送られてくる質問に答える
6. 受理通知書の受領:相続放棄が受理されたことを確認
提出先と提出方法
相続放棄の申述は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に対して行います。相続人の住所地ではありませんので注意が必要です。
提出方法は、直接窓口に持参する方法と、郵送する方法の両方が可能です。遠方の場合は郵送で手続きを完了させることができます。
必要書類
相続放棄の申述に必要な主な書類は以下の通りです。
・相続放棄申述書(裁判所のウェブサイトからダウンロード可能)
・被相続人の住民票除票または戸籍附票
・被相続人の死亡の記載がある戸籍謄本
・申述人の戸籍謄本
申述人が第2順位(直系尊属)や第3順位(兄弟姉妹)の相続人である場合は、先順位の相続人が亡くなっていることを証明するため、さらに追加の戸籍謄本が必要となります。
費用
相続放棄の申述にかかる費用は以下の通りです。
・収入印紙:800円
・連絡用の郵便切手:数百円程度(裁判所により異なる)
合計で1,000円から1,500円程度の費用で手続きを完了できます。弁護士や司法書士に依頼する場合は、別途報酬が必要となります。
相続放棄をする前に知っておくべき5つの注意点

相続放棄は一度受理されると原則として撤回できないため、手続き前に以下の注意点を必ず理解しておく必要があります。
注意点1:プラスの財産も一切受け取れなくなる
相続放棄をすると、借金などのマイナスの財産だけでなく、預貯金や不動産などのプラスの財産も一切受け取ることができなくなります。「借金だけ放棄して、預貯金は相続する」という都合の良い選択はできません。
もしプラスの財産がマイナスの財産を上回っている場合は、相続放棄ではなく通常の相続(単純承認)を選択した方が得になります。また、プラスの財産の範囲内でのみマイナスの財産を引き継ぐ「限定承認」という選択肢もあります。
注意点2:原則として撤回できない
民法第919条により、相続放棄は一度受理されると原則として撤回することができません。後から多額のプラスの財産が見つかった場合でも、相続放棄を撤回して相続することはできないのです。
ただし、詐欺や強迫によって相続放棄をした場合など、一定の取消事由がある場合に限り、相続放棄を取り消すことができます。取消権は、追認をすることができる時から6ヶ月間行使しないと時効で消滅します。
注意点3:相続財産を処分すると相続放棄できなくなる
民法第921条では、相続人が相続財産を処分した場合、単純承認をしたものとみなすと定めています。つまり、相続放棄をする前に被相続人の預金を引き出したり、不動産を売却したりすると、相続放棄ができなくなってしまうのです。
ただし、財産の保存行為(家の修理など)や、短期間の賃貸契約については、この限りではありません。相続放棄を検討している場合は、安易に相続財産に手をつけないよう注意が必要です。
注意点4:次の順位の相続人に相続権が移る
相続放棄をすると、次の順位の血族相続人に相続権が移ります。例えば、子全員が相続放棄をすると、第2順位である被相続人の親(直系尊属)が相続人となります。親も全員相続放棄すると、第3順位である被相続人の兄弟姉妹が相続人となります。
つまり、自分が相続放棄をしても、他の親族に借金の支払い義務が移るだけで、借金自体がなくなるわけではありません。親族全員で借金を引き継ぎたくない場合は、相続人となりうる全員が相続放棄の手続きをする必要があります。
注意点5:代襲相続は発生しない
相続放棄をした場合、その人の子(直系卑属)に代襲相続権は発生しません。これは、相続放棄をした人は「初めから相続人とならなかったものとみなす」ためです。
例えば、父親が相続放棄をした場合、父親の子(被相続人の孫)が代わりに相続人になることはありません。一方、相続人が被相続人より先に死亡していた場合の代襲相続とは異なる点に注意が必要です。
相続放棄以外の選択肢:限定承認

相続には、単純承認、相続放棄のほかに、「限定承認」という選択肢もあります。限定承認とは、相続によって得たプラスの財産の範囲内でのみマイナスの財産を引き継ぐという方法です。
例えば、プラスの財産が500万円、マイナスの財産が1,000万円ある場合、限定承認を選択すれば、500万円の範囲内でのみ借金を返済すればよく、残りの500万円については支払う義務を負いません。
ただし、限定承認は相続人全員で共同して行う必要があり、手続きも複雑です。期限は相続放棄と同じく3ヶ月以内となります。
まとめ:相続放棄は期限内に慎重な判断を
相続放棄について、以下のポイントを押さえておきましょう。
・相続放棄は「知った時」から3ヶ月以内に家庭裁判所に申述が必要
・期限に間に合わない場合は、期限内に伸長の申立てをする
・プラスの財産も一切受け取れなくなる
・一度受理されると原則として撤回できない
・相続財産を処分すると相続放棄できなくなる
・次の順位の相続人に相続権が移る
・代襲相続は発生しない
相続放棄は、借金などのマイナスの財産から身を守る有効な手段ですが、一度手続きをすると取り消せないため、慎重な判断が求められます。相続財産の調査を十分に行い、必要であれば弁護士や司法書士などの専門家に相談することをおすすめします。
本記事は、CFP資格保有者であり、J-FLEC認定アドバイザーの金子賢司が執筆しています。当記事の執筆者「金子賢司」の情報は、CFP検索システムおよびJ-FLECアドバイザー検索システムにてご確認いただけます。北海道エリアを指定して検索いただくとスムーズです。
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