自動車保険
人身傷害保険の『過失相殺なし』とは?仕組みと補償メリットを徹底解説

もし、信号待ちで停車中に追突され、過失割合が「相手9:自分1」とされたら…。治療費や休業損害の補償は1割自己負担になってしまうのでしょうか?
実は、人身傷害保険には「過失相殺なし」と説明される仕組みがあり、こうした不安を解消してくれる重要な役割を果たします。この記事では、制度の仕組みや具体的なメリットを詳しく解説します。
人身傷害保険における「過失相殺なし」とは?

交通事故の損害賠償は通常、過失割合に基づいて支払額が調整されます。たとえば、被害者にも2割の過失があれば、賠償金も2割減額されるのが一般的です。これを過失相殺といいます。
一方で、人身傷害保険を利用すると、まずは過失割合にかかわらず実際に発生した損害額に基づいて先行して保険金が支払われるため、被害者の自己負担を避けやすい仕組みになっています。
その後、相手方の賠償金額などとの調整を経て、最終的に「訴訟基準差額説」と呼ばれる法的な考え方に基づいて過失分が整理されるため、結果的に過失がなかった場合と同水準の補償を受けられるケースが多いのです。
このため、一般的に「過失相殺なし」と説明されますが、正確には「過失を気にせず補償を受けやすい仕組み」と理解しておくと良いでしょう。
過失相殺なしの補償が役立つ具体例

・追突事故で被害者側にもわずかな過失が認定された場合でも、自己負担をせずに治療費や休業損害を受け取れる
・自転車や歩行者との事故で、過失割合が複雑になり支払いが遅れるケースでも、自分の人身傷害保険から迅速に補償される
・子どもや高齢者が事故に巻き込まれた場合、過失の有無にかかわらず生活再建のための費用を確保できる
シミュレーション:過失相殺の有無で補償はどう変わる?

ここで、具体的な数値例を見てみましょう。
ケース1:人身傷害保険なし(通常の過失相殺あり)
・事故による治療費:300万円
・過失割合:相手8割、自分2割
・補償額:300万円 × 80% = 240万円
→ 自分の過失分(60万円)は自己負担
ケース2:人身傷害保険あり(過失相殺なしと同等の補償)
・事故による治療費:300万円
・過失割合:相手8割、自分2割
・補償額:300万円(実損額全額)
→ 自己負担ゼロで補償を受けられる
このように、同じ事故でも「人身傷害保険の仕組み」によって、自己負担額が数十万円単位で変わることがあります。特に治療が長引くようなケースでは、その差が生活への大きな影響につながります。
家事従事者の休業損害も対象

人身傷害保険では、会社員や自営業者だけでなく専業主婦(主夫)などの家事従事者についても休業損害が補償されます。これは、家事労働も経済的な価値を持つと法的に認められているためです。
ただし、補償額は訴訟基準や保険会社の算定基準に基づくため、実際の収入がある就労者に比べて金額は一定水準に定められる点には注意が必要です。
家族全員をカバーした場合の安心度

人身傷害保険は契約者本人だけでなく、家族や同乗者も補償対象になるのが大きな特徴です。例えば次のようなケースを考えてみましょう。
ケース:子どもが同乗中に事故に遭った場合
・治療費:200万円
・過失割合:相手7割、同乗していた家族3割
・通常の過失相殺あり:200万円 × 70% = 140万円 → 差額60万円は家計負担
・人身傷害保険あり:200万円全額補償 → 自己負担ゼロ
ケース:高齢の親が歩行中に事故に遭った場合
・治療費+介護費用:500万円
・過失割合:相手6割、歩行者側4割
・通常の過失相殺あり:500万円 × 60% = 300万円 → 差額200万円は自己負担
・人身傷害保険あり:500万円全額補償 → 経済的な不安を軽減
このように「家族全員を対象にできる」という点は、特にお子さまや高齢の親御さんがいる世帯にとって大きな安心材料となります。
過失相殺なし(同等補償)のメリット

人身傷害保険の「過失相殺なし」と説明される仕組みには、以下のようなメリットがあります。
・過失割合にかかわらず実損害が補償されるため、被害者の生活保障が安定する
・相手方との示談交渉を待たずに保険金を受け取れるため、治療や生活費にすぐ充てられる
・家族や同乗者も対象になるため、家計全体のリスク管理になる
注意すべきポイント

人身傷害保険の補償内容は契約条件や保険会社ごとに異なります。特に「過失相殺なし」といっても、実際は人身傷害保険からの先行支払いと法的基準による調整によって実現されている仕組みです。
また、家事従事者の休業損害は基本補償に含まれますが、算定基準により金額が一定の水準に抑えられる場合があります。補償範囲や金額については必ず保険証券で確認しましょう。
まとめ:過失割合を気にせず安心できる仕組み
人身傷害保険の「過失相殺なし」は、事故に巻き込まれた際に過失割合を気にせず補償を受けられるよう設計された制度です。シミュレーションからもわかるように、補償の有無で数十万円から数百万円の差が出ることもあります。特に家族全員をカバーできる点は、暮らしの安心に直結します。
まずはご自身の保険証券を取り出し、「人身傷害保険」の補償内容に過失割合を考慮しない仕組みが適用されているかを確認してみましょう。
よくある質問(Q&A)

Q1. 「過失相殺なし」があれば、どんな事故でも全額補償されるのですか?
A. 実際の損害額を基準に補償されますが、契約条件や法的基準による調整を経て最終的な補償額が決まります。完全に「過失がなかった」と同じではない点に注意が必要です。
Q2. 搭乗者傷害保険と人身傷害保険の違いは?
A. 搭乗者傷害保険は「定額払い」(ケガや死亡時に一定額が支払われる)のに対し、人身傷害保険は「実損填補」(実際にかかった費用を補償)です。
Q3. 自転車事故や歩行中の事故でも「過失相殺なし」は適用されますか?
A. 契約内容によりますが、車に乗っていないときの事故も補償対象となる契約があります。補償範囲は必ず証券で確認しましょう。
参考情報(公的・信頼できる情報源)
日本損害保険協会|自動車保険の基礎知識
金融庁|保険を契約している方へ(任意保険選びの手引きとして)
本記事は、CFP資格保有者であり、J-FLEC認定アドバイザーの金子賢司が執筆しています。当記事の執筆者「金子賢司」の情報は、CFP検索システムおよびJ-FLECアドバイザー検索システムにてご確認いただけます。北海道エリアを指定して検索いただくとスムーズです。