相続
不動産の相続手続き完全ガイド!評価方法・名義変更・売却時の税金をわかりやすく解説

相続財産の中でも不動産は評価方法が複雑で、名義変更や売却にあたって複数の手続きと税金の知識が求められます。国税庁によると、土地の相続税評価は「路線価方式」と「倍率方式」の2つがあり、建物は固定資産税評価額がそのまま相続税評価額となります。また、相続した不動産を売却する場合には「取得費加算の特例」や「空き家の3,000万円特別控除」といった税制優遇措置も活用可能です。この記事では、不動産の相続手続き全体の流れを、評価・名義変更・売却の3つのステップに分けて解説していきます。
不動産の相続税評価額はどう決まる?土地と建物で異なる評価方法

相続税の申告では、不動産を時価ではなく国税庁が定めた基準に基づいて評価する仕組みになっています。
土地と建物では計算の仕組みがまったく異なるため、それぞれの評価方法を正しく理解しておくことが重要です。評価額の大小は相続税額に直結するだけでなく、遺産分割協議の際の判断材料にもなるため、早めに確認しておくと手続きがスムーズに進むでしょう。
土地の評価方法①:路線価方式
路線価方式は、路線価が定められている地域の土地を評価する方法で、主に市街地の土地に適用されます。路線価とは、道路(路線)に面する標準的な宅地1平方メートルあたりの価額を千円単位で表したものを指します。
計算の基本式は以下のとおりです。
・路線価 × 奥行価格補正率 × 面積(地積) = 評価額
たとえば、正面路線価が300千円(30万円)、奥行価格補正率が1.00、面積が180平方メートルの場合、300千円 × 1.00 × 180平方メートル = 5,400万円が評価額となります。
なお、土地の形状が整形でない場合や角地の場合などは、不整形地補正率や側方路線影響加算率といった補正が必要になることがあります。正確な評価には専門的な知識が求められるため、税理士への相談を検討するのもひとつの方法でしょう。
路線価は国税庁のホームページ「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」で毎年7月に公表されており、誰でも無料で確認できます。相続税の計算には、被相続人が亡くなった年の路線価を使用する点に留意してください。
土地の評価方法②:倍率方式
倍率方式は、路線価が定められていない地域(主に郊外や農村部)の土地に適用される評価方法になります。計算式は路線価方式よりもシンプルで、以下のとおりです。
・固定資産税評価額 × 評価倍率 = 評価額
固定資産税評価額は、毎年届く「固定資産税納税通知書」の課税明細書で確認できるほか、市区町村の窓口で「固定資産評価証明書」を取得する方法もあります。評価倍率は、路線価と同じく国税庁のホームページに掲載されています。
建物の評価方法:固定資産税評価額がそのまま使われる
建物の相続税評価額は、固定資産税評価額に1.0を乗じて算出する仕組みです。つまり、固定資産税評価額がそのまま相続税評価額となります。
固定資産税評価額は、建物の構造・築年数・面積などに基づいて各市区町村が3年ごとに見直しを行っており、一般的に建築費用の50~70%程度の水準に設定される傾向にあるとされています。実際の市場価格(時価)とは異なるケースが多い点を覚えておくとよいでしょう。
マンションの評価方法
マンション(区分所有建物)は、「敷地利用権(土地部分)」と「区分所有権(建物部分)」を別々に計算し、合算して評価額を算出します。
・敷地利用権:マンション敷地全体の路線価評価額 × 敷地権の割合
・区分所有権:固定資産税評価額 × 1.0
なお、令和6年(2024年)1月1日以降に相続・遺贈・贈与で取得した分譲マンションについては「区分所有補正率」を乗じて計算する場合があるため、従来の方法では過小評価となる可能性に注意が必要です。タワーマンションなど市場価格と評価額の乖離が大きかった物件は、この改正によって評価額が引き上げられることがあり得るでしょう。
不動産の名義変更(相続登記)の流れと必要書類

相続登記とは、被相続人の名義になっている不動産を相続人の名義に変更する手続きのことです。
令和6年(2024年)4月1日から相続登記は法律上の義務となっており、不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内に申請しなければなりません。ここでは、名義変更の基本的な流れを確認しましょう。
相続登記の手続き5ステップ
法務局が公開している「相続登記申請手続のご案内」によると、相続登記の流れは以下の5つのステップに分けられます。
・ステップ1:戸籍の証明書の取得
被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本(除籍謄本・改製原戸籍含む)と、相続人全員の現在の戸籍謄本を集めます。法定相続人を確定させるために欠かせない書類です。
・ステップ2:遺産分割協議
遺言書がない場合、相続人全員で誰がどの不動産を取得するかを話し合います。合意した内容は遺産分割協議書にまとめ、相続人全員が署名・実印を押印しなければなりません。
・ステップ3:登記申請書の作成
法務局の様式を使って登記申請書を作成します。不動産の表示、課税価格、登録免許税の額などを正確に記載してください。
・ステップ4:法務局への申請
不動産の所在地を管轄する法務局に、登記申請書と添付書類一式を提出します。窓口持参、郵送、オンライン申請の3つの方法から選択できます。
・ステップ5:登記完了
申請から通常1~2週間程度で登記が完了し、「登記完了証」と「登記識別情報通知」が交付される流れです。
出典:法務局「相続登記・遺贈の登記の申請をされる相続人の方へ(登記手続ハンドブック)」
相続登記の必要書類一覧
遺産分割協議による相続登記の場合に必要となる主な書類は以下のとおりとなっています。
・被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本等
・被相続人の住民票の除票(または戸籍附票)
・相続人全員の現在の戸籍謄本
・不動産を取得する相続人の住民票
・遺産分割協議書(相続人全員の署名・実印押印)
・相続人全員の印鑑証明書
・固定資産評価証明書(最新年度のもの)
・相続関係説明図
・登記申請書
なお、「法定相続情報一覧図」を取得しておくと、戸籍謄本一式の提出を省略できるため、複数の法務局や金融機関で手続きを行う場合に活用するとよいでしょう。
登録免許税の計算方法
相続登記には登録免許税がかかります。税額は、不動産の固定資産税評価額 × 0.4% で計算します。
たとえば、固定資産税評価額が2,000万円の不動産であれば、登録免許税は8万円です。この税額は、収入印紙を購入して登記申請書に貼付する方法で納付するのが一般的になっています。
自分で手続きを行う場合はこの登録免許税と書類取得費(合計数千円程度)が主な費用です。司法書士に依頼する場合は別途報酬が加わる点にも留意しておきましょう。
相続した不動産を売却するときの税金と特例

相続した不動産を使う予定がない場合や、遺産分割のために現金化したい場合には売却を検討することになるでしょう。
売却によって利益(譲渡所得)が出ると所得税・住民税が課税されますが、相続特有の税制優遇措置を活用することで税負担を軽減できるケースもあります。
譲渡所得の基本的な計算方法
不動産を売却した際の譲渡所得は、以下の算式で計算する仕組みです。
・譲渡所得 = 売却価格 −(取得費 + 譲渡費用)− 特別控除額
「取得費」とは、被相続人がその不動産を購入したときの代金や建築費、仲介手数料などの合計額を指します(建物は減価償却費を差し引きます)。購入時の金額が分からない場合は、売却価格の5%を概算取得費として計算することも認められています。
また、相続した不動産の所有期間は、被相続人が取得した時期がそのまま引き継がれるため、多くの場合は5年超の「長期譲渡所得」に該当し、税率は所得税・住民税合わせて20.315%が適用されることになります。
特例①:取得費加算の特例(相続税の一部を取得費に加算)
相続税を納付した人が、相続開始の翌日から3年10か月以内に相続財産を売却した場合、納付した相続税の一部を取得費に加算できる制度です。取得費が増えることで譲渡所得が減少し、結果として譲渡所得税の負担が軽くなります。
適用を受けるための要件は以下の3つです。
・相続または遺贈により財産を取得した人であること
・その財産を取得した人に相続税が課税されていること
・相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡していること
この特例は確定申告により適用を受ける必要があるため、売却の時期と申告期限を意識した計画的な進行が求められます。
出典:国税庁「No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」
特例②:空き家の3,000万円特別控除
相続によって取得した被相続人の居住用家屋(空き家)やその敷地を売却した場合に、譲渡所得から最高3,000万円まで控除できる特例も用意されています。正式には「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例」という名称です。
主な適用要件は以下のとおりとなっています。
・昭和56年(1981年)5月31日以前に建築された旧耐震基準の建物であること
・相続開始の直前に被相続人が一人で居住していたこと(老人ホーム入所の場合でも一定要件を満たせば適用可能)
・相続から売却まで事業・貸付け・居住に使用されていないこと
・相続開始日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに譲渡すること
・売却代金が1億円以下であること
・令和9年(2027年)12月31日までの譲渡であること
令和6年(2024年)1月1日以降の譲渡では、相続人が3人以上の場合は控除上限が2,000万円に引き下げられています。また、同年以降は売却後に買主側で建物の解体や耐震リフォームを行った場合でも、一定条件を満たせば特例の対象となるよう要件が緩和されました。
なお、この特例と前述の「取得費加算の特例」は併用できないため、どちらが有利になるか事前にシミュレーションしておくことをおすすめします。
出典:国税庁「No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」
不動産を相続する際に知っておきたい注意点

不動産の相続は金融資産と異なり、「分けにくい」「維持費がかかる」といった特有の課題があります。
手続きを進めるうえで見落としやすいポイントを整理しておきましょう。
不動産の分割方法は4種類ある
不動産を複数の相続人で分ける方法には、以下の4種類があります。
・現物分割:土地を物理的に分筆して各相続人が取得する方法。ただし、面積が小さい場合や建物がある場合には現実的でないこともあります。
・換価分割:不動産を売却して売却代金を相続人間で分配する方法。公平に分けやすい一方、売却までに時間がかかる場合があります。
・代償分割:相続人の一人が不動産を取得し、他の相続人に対してその価値に応じた金銭(代償金)を支払う方法です。不動産を残したい場合に有効ですが、取得する相続人に資金力が必要になります。
・共有分割:相続人全員で共有名義にする方法。手続きは簡単ですが、将来の売却や管理で全員の同意が必要となり、トラブルの原因になりやすいため、できるだけ避けた方がよいとされています。
放置するとリスクがある:固定資産税と管理責任
相続した不動産を使わずに放置していても、固定資産税は毎年課税されます。さらに、建物が倒壊の恐れがある状態や衛生上の問題がある状態で放置された場合、市区町村から「特定空家等」に指定され、固定資産税の住宅用地の軽減措置が適用されなくなる可能性も否定できません。
加えて、相続登記を済ませないまま放置すると、次の世代で相続人がさらに増え、遺産分割協議がより複雑になるおそれがあります。不要な不動産であっても、早めに方針を決めて手続きを進めることが重要でしょう。
相続土地国庫帰属制度の活用
令和5年(2023年)4月27日からスタートした「相続土地国庫帰属制度」を利用すれば、相続した不要な土地を国に引き渡すという選択肢もあります。ただし、建物が建っている土地や担保権が設定されている土地など、引き渡しの対象外となるケースもあるため、事前に法務局へ相談してみるとよいでしょう。
まとめ:不動産の相続は「評価→名義変更→方針決定」の順で進める
不動産の相続手続きで押さえておきたいポイントを整理します。
・土地の相続税評価額は、市街地なら路線価方式、郊外なら倍率方式で計算する
・建物の評価額は固定資産税評価額と同額
・相続登記は令和6年4月から義務化され、3年以内に申請が必要
・相続した不動産を売却する場合は「取得費加算の特例」と「空き家の3,000万円特別控除」を確認する
・2つの特例は併用できないため、どちらが有利か事前のシミュレーションが欠かせない
・不動産の放置は固定資産税や管理責任のリスクがある
不動産の評価方法や税制特例は専門的な判断が求められる場面も多いため、迷った場合は税理士や司法書士といった専門家に相談することをおすすめします。早めに方針を定め、計画的に手続きを進めていきましょう。
本記事は、CFP資格保有者であり、J-FLEC認定アドバイザーの金子賢司が執筆しています。当記事の執筆者「金子賢司」の情報は、CFP検索システムおよびJ-FLECアドバイザー検索システムにてご確認いただけます。北海道エリアを指定して検索いただくとスムーズです。
金子賢司へのライティング・監修依頼はこちらから。ポートフォリオもご確認ください。



