家計管理
インフレ時代の賢い節約術|食費・光熱費・医療費・教育費の負担を軽減する方法

物価上昇が続く中、家計の見直しが急務となっています。総務省の発表によると、2024年の消費者物価指数は前年比2.5%上昇し、3年連続で2%超の上昇率を記録しました。これは約30年ぶりの高水準です。同時に、家計調査では二人以上の世帯の消費支出が実質1.1%減少しており、多くの家庭が物価高に対して支出を抑制している状況が見て取れます。
インフレ環境下では、収入が横ばいでも実質的な購買力は低下します。そのため、食費、光熱費、医療費、教育費といった生活に欠かせない支出項目について、公的制度を活用しながら賢く節約する知識が重要です。本記事では、各費目における具体的な節約方法と、利用できる公的支援制度について解説していきます。
インフレが家計に与える影響

2024年12月の消費者物価指数では、生鮮食品を除く総合指数が前年同月比3.0%上昇となりました。特に光熱・水道が11.4%と大幅に上昇し、生鮮食品も17.3%の上昇を記録しています。
家計への影響として、名目での消費支出は増加しているものの、実質的には減少しているという状況が続いています。2024年の二人以上の世帯における月平均消費支出は30万243円で、名目では前年比2.1%増加しましたが、物価上昇を考慮した実質では1.1%の減少となっています。
この状況下で家計を守るには、各費目における無駄を省き、公的制度を最大限活用することが不可欠です。
出典:総務省統計局「消費者物価指数」
出典:総務省統計局「家計調査報告」
食費の節約術

食費は家計支出の中でも大きな割合を占める項目です。総務省の家計調査によると、二人以上の世帯における食費は月平均8万9,936円で、消費支出全体の約30%を占めています。
食品ロスの削減が節約の鍵
日本では年間約2,000万トンの食品廃棄が発生しており、食料自給率の計算においても、廃棄される食品が多いほど自給率が低下する構造になっています。家庭での食品ロスを減らすことは、節約と環境保護の両面で効果的な対策となります。
具体的な方法として、以下のような取り組みが有効となります。
・必要な分だけ購入し、在庫を把握する
・賞味期限と消費期限の違いを理解し、適切に判断する
・冷蔵庫内を整理し、奥に眠っている食材を使い切る
・余った食材を別の料理に活用する工夫をする
国産品と輸入品のバランス
農林水産省によると、2023年度の食料自給率はカロリーベースで38%と、主要先進国の中で最低水準です。輸入に頼る品目は為替変動や国際情勢の影響を受けやすく、価格が不安定になりがちです。
一方で、米や野菜など国産比率の高い品目は比較的価格が安定しています。米の自給率は98%、野菜は76%と高い水準を維持しており、これらの品目を中心とした献立づくりが、価格変動リスクを抑える有効な方法といえます。
出典:農林水産省「日本の食料自給率」
光熱費の節約術

電気代やガス代などの光熱費も、インフレの影響を大きく受けています。資源エネルギー庁のデータによると、家庭での電力消費量はエアコン、冷蔵庫、照明で5割以上を占めており、これらの省エネが節約の大きなポイントとなります。
効果的な省エネ対策
経済産業省資源エネルギー庁が推奨する省エネ対策には、以下のようなものがあります。
・エアコンのフィルター掃除をこまめに行う
・冷蔵庫の設定温度を適切にし、詰め込みすぎない
・LED照明への切り替えを進める
・使用していない家電製品のプラグを抜く
・窓ガラスを複層ガラスにして断熱性を高める
電力使用のピークタイムを意識
家庭での電力需要は、夏も冬も夕方から夜(17:00-20:00頃)にピークを迎えます。この時間帯は電力需給が特に厳しくなる傾向があるため、電気の使用を分散させることが重要です。
具体的には、洗濯や掃除機の使用を午前中や昼間にシフトする、電気製品の同時使用を避けるといった工夫が効果的となります。近年では、ピークタイム以外の電気使用量に応じてポイントが付与される節電プログラムを提供する電力会社も増えています。
省エネ家電への買い替え効果
古い家電製品を省エネ性能の高い製品に買い替えることで、長期的には光熱費の削減につながります。資源エネルギー庁の省エネポータルサイトでは、具体的な省エネ効果と削減金額が試算できるツールが提供されており、買い替えの判断材料として活用できます。
出典:経済産業省資源エネルギー庁「省エネルギー政策について」
医療費の負担軽減策

医療費は予測が難しい支出項目ですが、公的制度を知ることで負担を大きく軽減できる可能性があります。
高額療養費制度の活用
高額療養費制度は、1か月間に医療機関や薬局の窓口で支払った額が一定額を超えた場合、その超えた金額が払い戻される制度です。自己負担の上限額は年齢や所得に応じて設定されており、70歳未満で年収約370万円から約770万円の場合、月額の自己負担上限額は8万7,430円となります。
事前に「限度額適用認定証」の交付を受けておけば、医療機関の窓口での支払額そのものを最初から自己負担の上限額までに抑えることができます。この認定証は、加入している健康保険組合や市町村の国保窓口で申請が可能です。
医療費控除の活用
年間の医療費が10万円(総所得金額等が200万円未満の場合は総所得金額等の5%)を超えた場合、確定申告により所得税と住民税の還付を受けることができます。対象となるのは自分や生計を一にする家族のために支払った医療費です。
医療費控除の対象には、通院のための交通費や、一定の条件を満たす医薬品の購入費なども含まれます。領収書を保管し、年間の医療費を集計することが重要となります。
自立支援医療制度
心身の障害を除去・軽減するための医療について、医療費の自己負担額を軽減する公費負担医療制度があります。精神疾患の通院医療、身体障害者の更生医療、障害児の育成医療などが対象で、所得に応じた自己負担上限額が設定されています。
出典:厚生労働省「高額療養費制度について」
出典:厚生労働省「自立支援医療制度の概要」
教育費の負担軽減策

教育費は家計にとって大きな負担となる項目ですが、近年、公的支援制度が充実してきています。
高等学校等就学支援金制度の拡充
文部科学省は2025年度から、高校等の就学支援金について基準額の収入要件を事実上撤廃しました。これにより、国公私立や世帯の年収に関係なく、基準額の支援を受けられるようになっています。
2026年度からは私立高校を対象に加算されている就学支援金が所得制限なしで支給され、金額も年間45万7,000円に引き上げられる予定となっています。この制度により、私立高校への進学も経済的なハードルが下がることが期待されます。
高等教育の修学支援新制度
大学、短期大学、高等専門学校、専門学校への進学については、2020年4月から開始された高等教育の修学支援新制度があります。この制度では、授業料・入学金の減免と給付型奨学金の2つの支援を受けることができます。
2025年度からは多子世帯(扶養する子供が3人以上いる世帯)については、所得制限なしで大学等の授業料・入学金が無償化されました。これにより、子育て世帯の教育費負担が大幅に軽減されることになります。
高校生等奨学給付金制度
授業料以外の教育費(教科書費、教材費、学用品費、通学用品費など)を支援する制度として、高校生等奨学給付金制度があります。生活保護世帯や住民税の所得割が非課税の世帯(年収約270万円未満)を対象に、返済不要の給付金が支給されます。
これらの制度は、各都道府県の教育委員会や学校を通じて申請が可能です。制度の詳細は自治体により異なる場合があるため、お住まいの地域の情報を確認することが重要となります。
出典:文部科学省「高等学校等就学支援金制度」
出典:文部科学省「高等教育の修学支援新制度」
インフレ時代を乗り切る家計管理のポイント

固定費の見直しを優先
節約を考える際、まず見直すべきは毎月必ず発生する固定費です。通信費、保険料、サブスクリプションサービスなど、一度見直せば継続的な効果が得られる項目から着手することが効率的といえます。
公的制度の情報を定期的に確認
教育費や医療費に関する公的支援制度は、年度ごとに拡充や変更が行われています。文部科学省や厚生労働省のウェブサイトで最新情報を確認し、利用できる制度を見逃さないことが重要です。
家計簿アプリの活用
支出の傾向を把握するには、家計簿をつけることが基本となります。近年はスマートフォンのアプリで簡単に記録できるツールが増えており、レシートを撮影するだけで自動的に家計簿に記録される機能も普及しています。
データの蓄積により、どの費目が家計を圧迫しているかが可視化され、具体的な節約目標を立てやすくなります。
緊急時の備えも忘れずに
節約を進める一方で、急な出費に備えた貯蓄も必要となります。一般的には、生活費の3か月から6か月分程度の緊急予備資金を確保しておくことが推奨されています。
高額療養費制度があっても、医療機関での支払いは一時的に自己負担が発生します。制度を活用するための余裕資金として、ある程度の現金を手元に置いておくことが安心につながります。
まとめ
インフレ時代の家計管理では、各費目における無駄を省くとともに、公的制度を最大限活用することが重要です。食費では食品ロスの削減と国産品の活用、光熱費では省エネ対策とピークタイム回避、医療費では高額療養費制度の理解、教育費では就学支援金制度の活用が、それぞれ効果的な対策となります。
総務省のデータが示すように、物価上昇は今後も一定程度続くことが予想されます。そのため、一時的な節約ではなく、生活習慣として定着させることが大切です。
公的制度は申請しなければ利用できないものが多く、知らないことで損をしているケースも少なくありません。文部科学省、厚生労働省、経済産業省などの公式サイトで最新情報を確認し、利用できる制度は積極的に活用していきましょう。
無理のない範囲で継続できる節約を心がけ、インフレ環境下でも安定した家計を維持することが、これからの時代に求められる家計管理の姿勢といえるでしょう。
本記事は、CFP資格保有者であり、J-FLEC認定アドバイザーの金子賢司が執筆しています。当記事の執筆者「金子賢司」の情報は、CFP検索システムおよびJ-FLECアドバイザー検索システムにてご確認いただけます。北海道エリアを指定して検索いただくとスムーズです。
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