相続
【自筆証書遺言】費用ゼロで作成可能!書き方の5つのルールと法務局保管制度の活用術

遺言書を残しておきたいと考えても、「公証役場に行くのは大変そう」「費用がかかるのでは」と躊躇してしまう方は少なくありません。そんな方におすすめなのが自筆証書遺言です。民法第968条に定められた自筆証書遺言は、紙とペン、印鑑があれば費用をかけずに作成でき、さらに法務局の保管制度を利用することで紛失や改ざんのリスクも防げるようになりました。
この記事では、自筆証書遺言の書き方の5つのルールから、2020年7月にスタートした法務局の保管制度まで、わかりやすく解説します。
自筆証書遺言とは?最も身近な遺言書の形式

自筆証書遺言は、遺言者本人が手書きで作成する遺言書であり、民法第968条によって定められています。
民法第968条第1項には、「自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない」と定められています。つまり、遺言者本人が手書きで遺言書を作成し、日付と氏名を書いて押印すれば、法的に有効な遺言書となるのです。
自筆証書遺言の最大の特徴は、公証人や証人の立ち会いが不要であり、一人で自由に作成できることにあります。費用もかからず、内容を秘密にしておけるため、気軽に作成できる遺言書として広く利用されています。
自筆証書遺言の作成ルール(5つの必須要件)

自筆証書遺言は手軽に作成できる反面、法律で定められた要件を満たさなければ無効となってしまいます。ここでは、民法第968条に基づく5つの必須要件を詳しく見ていきましょう。
ルール1:全文を自分で手書き
遺言書の本文は、すべて遺言者本人が手書き(自書)しなければなりません。パソコンやワープロで作成したり、他人に代筆してもらったりすることはできません。これは、遺言者本人の真意を確認するための重要な要件です。
ただし、2019年施行の民法改正により、財産目録に限ってはパソコンで作成することが可能となりました。例えば、不動産の登記事項証明書や預金通帳のコピーを財産目録として添付する場合、それらについては自筆でなくても構いません。ただし、財産目録の各ページには署名と押印が必要となります。
ルール2:日付を明記
遺言書には、作成した日付を特定できる形で記載しなければなりません。「令和7年1月31日」のように年月日を明確に記載する必要があります。
「令和7年1月吉日」のように日付が特定できない書き方は無効とされます。これは、遺言能力の判断基準や、複数の遺言がある場合の先後関係を明確にするために重要な要件です。
ルール3:署名
遺言者本人の氏名をフルネームで署名する必要があります。本名(戸籍名)での署名が原則ですが、通称名やペンネームであっても、遺言者が誰であるかを特定できれば有効とされる場合もあります。ただし、トラブルを避けるためにも、戸籍上の本名で署名することをおすすめします。
ルール4:押印
遺言書には押印が必要です。実印が望ましいですが、認印でも法的には有効とされています。ただし、実印を使用することで、遺言の真正性がより確実に証明されるため、可能な限り実印を使用することが推奨されます。
なお、判例では拇印(指印)も有効とされていますが、後日のトラブルを避けるため、印鑑を使用するほうが安全です。
ルール5:加筆・訂正の方法
遺言書の内容を訂正する場合、民法第968条第3項に定められた厳格なルールに従う必要があります。具体的には、以下の手順で訂正します。
・訂正箇所を指示し、訂正した旨を付記する
・付記した箇所に署名する
・訂正箇所に押印する
このルールは非常に複雑であり、誤った方法で訂正すると、その部分が無効となるか、遺言書全体が無効になる可能性もあります。訂正箇所が多い場合は、新しく書き直すことをおすすめします。
自筆証書遺言の3つのメリット

自筆証書遺言には、以下のようなメリットがあります。
メリット1:費用がかからない
紙とペン、印鑑があれば作成できるため、基本的に費用はゼロ円です。公正証書遺言の場合、公証人手数料として数万円から十数万円かかることがありますが、自筆証書遺言ではそのような費用が不要です。後述する法務局の保管制度を利用しても、手数料は3,900円のみで済みます。
メリット2:手軽に作成できる
公証役場に行く必要がなく、証人を立てる必要もありません。自宅で一人で、いつでも自由に作成できます。思い立ったときに気軽に作成できる点が大きな魅力です。
メリット3:秘密を保てる
公正証書遺言では公証人や証人に内容を知られてしまいますが、自筆証書遺言は誰にも知られずに作成できます。遺言の内容を秘密にしたい場合に適しています。
自筆証書遺言の3つのデメリット

一方で、自筆証書遺言には以下のようなデメリットもあります。
デメリット1:形式不備で無効になるリスク
前述の5つのルールを一つでも満たしていないと、遺言書全体が無効になってしまう可能性があります。特に日付の記載ミスや、訂正方法の誤りが原因で無効となるケースが多く見られます。
デメリット2:紛失・偽造・改ざんのリスク
自宅で保管する場合、紛失したり、相続人によって隠されたり、改ざんされたりするリスクがあります。また、遺言書の存在自体が相続人に発見されない可能性もあります。
デメリット3:死後に検認手続きが必要
自筆証書遺言は、遺言者の死後、家庭裁判所での「検認」という手続きが必要となります。検認手続きには1〜2ヶ月程度の時間がかかり、相続人の負担となることがあります。また、検認を受けなければ、預金の解約や不動産の名義変更などの相続手続きを進めることができません。
出典:裁判所「遺言書の検認」
法務局の自筆証書遺言書保管制度でデメリットを解消

自筆証書遺言のデメリットを解消するため、2020年7月10日から、法務局で自筆証書遺言を保管する制度がスタートしました。この制度を利用することで、紛失や改ざんのリスクを防ぎ、検認手続きも不要となります。
保管制度の5つのメリット
1. 紛失・改ざん防止
法務局が遺言書の原本と画像データを厳重に保管します。原本は遺言者の死亡後50年間、画像データは150年間保管されるため、紛失や改ざんの心配がありません。
2. 検認手続き不要
法務局で保管された遺言書は、家庭裁判所での検認手続きが不要となります。これにより、遺言者の死後、相続人はスムーズに相続手続きを進めることができます。
3. 相続人への通知サービス
遺言者が希望する場合、遺言者の死亡後、法務局から指定した相続人等(最大3名まで)に対して、遺言書が保管されている旨の通知が届きます。これにより、遺言書の存在が相続人に確実に伝わります。
4. 法務局で形式チェック
遺言書を預ける際、法務局の職員(遺言書保管官)が、民法の定める自筆証書遺言の形式に適合しているかどうかを外形的にチェックします。これにより、形式不備による無効のリスクを減らすことができます。
ただし、遺言書の内容については法務局が相談に応じることはできません。また、保管制度を利用したからといって、遺言書の有効性が保証されるわけではない点にご留意ください。
5. 全国どこからでも利用可能
遺言書の画像データが保管されているため、全国どこの法務局でも閲覧や証明書の交付が受けられます。遠方に住む相続人にとっても便利です。
保管制度の利用方法
法務局の保管制度を利用する手順は以下のとおりです。
ステップ1:遺言書を作成する
前述の5つのルールに従って自筆証書遺言を作成します。ただし、保管制度を利用する場合は、法務省令で定められた様式に従う必要があります。
・用紙はA4サイズ
・上側5mm、下側10mm、左側20mm、右側5mmの余白を確保
・各ページに通し番号でページ番号を記載
・裏面には何も記載しない
・封筒に入れない(無封のまま提出)
ステップ2:保管する法務局を選ぶ
以下のいずれかを管轄する法務局(遺言書保管所)を選びます。
・遺言者の住所地
・遺言者の本籍地
・遺言者が所有する不動産の所在地
ステップ3:予約をする
法務局の保管制度では、すべての手続きに予約が必須となっています。法務省の専用ホームページまたは電話で予約を取ります。
ステップ4:必要書類を準備する
以下の書類を準備します。
・遺言書(ホッチキス止めしない、封筒不要)
・保管申請書(法務省ホームページからダウンロード可能)
・本籍地の記載がある住民票
・本人確認書類(マイナンバーカード、運転免許証など)
・手数料3,900円分の収入印紙
ステップ5:法務局に出向く
遺言者本人が法務局に出向き、保管申請を行います。代理人による申請や郵送による申請はできません。法務局の職員が形式をチェックした後、遺言書を預かります。
手続きが完了すると、遺言者の氏名、生年月日、遺言書保管所の名称、保管番号が記載された「保管証」が交付されます。この保管証は大切に保管しておきましょう。
保管制度の費用
法務局の保管制度にかかる費用は以下のとおりです。
・保管申請手数料:3,900円(1件につき)
・遺言書の閲覧(モニター):1,400円
・遺言書の閲覧(原本):1,700円
・遺言書情報証明書の交付:1,400円
・遺言書保管事実証明書の交付:800円
保管申請時に一度手数料を支払えば、その後は定期的な保管料を支払う必要はありません。信託銀行などで遺言書を保管する場合、年間数万円の保管料がかかることもあるため、法務局の保管制度は非常に経済的といえます。
出典:法務省「手数料」
保管制度利用時の注意点
保管制度を利用する際には、以下の点に注意が必要です。
1. 遺言書の内容についてはアドバイスを受けられない
法務局の職員は、遺言書の形式が法律に適合しているかをチェックしますが、遺言書の内容については一切アドバイスしません。例えば、「この内容だと遺留分侵害で争いになる可能性がある」といった指摘は受けられません。内容について不安がある場合は、事前に弁護士や司法書士などの専門家に相談することをおすすめします。
2. 遺言者本人が出向く必要がある
保管申請は遺言者本人が法務局に出向く必要があります。病気や怪我で動けない場合は、保管制度を利用することができません。そのような場合は、公正証書遺言の作成を検討するとよいでしょう(公正証書遺言は、公証人に出張してもらうことも可能です)。
3. 一度保管すると返却されない
法務局に保管された遺言書は、保管の申請を撤回しない限り返却されません。遺言書の内容を変更したい場合は、撤回手続きを行い、新しい遺言書を作成する必要があります。
まとめ:ルールを守れば有効で強力な遺言書
自筆証書遺言は、5つのルールを守って作成すれば、費用をかけずに法的に有効な遺言書を残すことができます。ポイントをまとめると以下のとおりです。
・全文を手書き(財産目録を除く)
・日付を明確に記載(令和7年1月31日のように)
・氏名を署名(フルネーム)
・押印(実印が望ましい)
・訂正は厳格なルールに従う(できれば書き直す)
さらに、法務局の保管制度を利用すれば、紛失や改ざんのリスクを防ぎ、検認手続きも不要となります。手数料は3,900円のみで、その後の保管料はかかりません。
本記事は、CFP資格保有者であり、J-FLEC認定アドバイザーの金子賢司が執筆しています。当記事の執筆者「金子賢司」の情報は、CFP検索システムおよびJ-FLECアドバイザー検索システムにてご確認いただけます。北海道エリアを指定して検索いただくとスムーズです。
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