公的年金制度
【年代別】20代・30代・40代・50代の「老後資金貯蓄目標額」とロードマップ

老後資金の準備において、「いつから始めるか」「いくら貯めるか」という2つの問いは避けて通れません。2019年に金融庁の報告書で話題となった「老後2,000万円問題」以降、多くの人が老後の資金計画に関心を持つようになりました。
しかし、必要な老後資金は個人の収入やライフスタイルによって大きく異なり、一律の目標額を設定することは現実的ではありません。本記事では、20代から50代までの各年代が意識すべき老後資金の貯蓄目標と、その達成に向けた具体的なロードマップを紹介します。早期からの準備がいかに有利かを数字で確認しながら、自身に合った資産形成戦略を考えていきましょう。
はじめに:今から始める!年代別老後資金準備の最適戦略

老後に必要な資金は、世帯構成や生活水準、持ち家の有無などによって異なります。総務省「家計調査報告(2024年)」によると、65歳以上の夫婦のみ無職世帯の月間消費支出は約25.7万円で、可処分所得約22.2万円との差額は月約3.4万円の不足となっています。
出典:総務省統計局「家計調査報告 家計収支編 2024年(令和6年)平均結果の概要」
この不足額が30年間続くと仮定すると、約1,200万円程度の取り崩しが必要という計算になります。ただし、これはあくまで平均値であり、ゆとりある生活を希望する場合や、介護・医療費の増加を見込む場合は、さらに多くの資金が必要となる可能性があります。
重要なのは、早い段階から計画的に資産形成を進めることです。年代によって収入状況や家計の優先課題は異なりますが、それぞれの状況に応じた最適な戦略を立てることで、無理なく老後資金を準備できます。
老後資金準備の鉄則:「早ければ早いほど有利」な理由

資産形成において「時間」は最も強力な味方です。同じ金額を積み立てても、運用期間が長いほど最終的な資産額は大きくなります。この効果を理解することが、早期からの資産形成を始める第一歩となります。
複利効果の絶大なる力
複利とは、元本に加えて運用で得た利益にも利息がつく仕組みです。金融庁の報告書でも示されているように、月5,000円、年6万円の少額拠出でも、30年間運用を続け年2%の利回りを想定すると、総拠出額180万円に対して約246万円(約66万円の運用益)になるとされています。
出典:金融庁「金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書『高齢社会における資産形成・管理』」
以下は、毎月3万円を積み立てた場合の運用期間による資産額の違いを示した例です(年利3%で計算)。
・10年間運用:積立総額360万円 → 約420万円
・20年間運用:積立総額720万円 → 約985万円
・30年間運用:積立総額1,080万円 → 約1,748万円
・40年間運用:積立総額1,440万円 → 約2,779万円
40年間運用した場合、積立総額の約1.9倍もの資産を形成できる計算となります。この差こそが、20代から資産形成を始めることの優位性を示しています。
【年代別】老後資金貯蓄目標額と推奨される行動

金融広報中央委員会「家計の金融行動に関する世論調査(2024年)」のデータを参考に、各年代の現状と目標設定の考え方を見ていきます。年代ごとの特性を踏まえながら、現実的かつ効果的な資産形成の方針を検討しましょう。
出典:金融経済教育推進機構「家計の金融行動に関する世論調査 2024年」
20代:少額からでも積立を始める黄金期
【現状】
20代は社会人としてのキャリアが始まったばかりで、収入も相対的に低い時期です。金融広報中央委員会の調査(2024年)によると、20代単身世帯の金融資産中央値は15万円と報告されています。
【目標の考え方】
この時期の最大の武器は「時間」です。40年以上の運用期間があるため、少額でも複利の恩恵を最大限に受けられます。まずは毎月の収入の10~15%程度を貯蓄・投資に回す習慣を身につけることが重要となります。
【推奨される行動】
・給与振込口座とは別に、貯蓄専用口座を開設する
・まずは生活費3カ月分の緊急資金を確保する
・新NISAのつみたて投資枠を活用し、月1万円からでも積立投資を開始する
・社会人1年目からiDeCoの加入を検討する
20代のうちに「貯蓄と投資の習慣化」ができれば、30代以降の資産形成は格段に楽になります。金額よりも「始めること」を優先する姿勢が求められます。
30代:貯蓄ペースを加速させる転換期
【現状】
30代は収入が増加する一方、結婚、住宅購入、子どもの誕生など人生の大きなイベントが集中する時期でもあります。同調査によると、30代単身世帯の金融資産中央値は90万円、2人以上世帯では180万円となっています。
【目標の考え方】
ライフイベントに備えた資金と老後資金を明確に分けて管理することが必要です。住宅ローンや教育費の見通しを立てつつ、老後資金の積立も並行して進めることが求められます。30代のうちに500万円~1,000万円の金融資産形成を意識するとよいでしょう。
【推奨される行動】
・ライフプランを作成し、今後の支出を可視化する
・住宅ローンを組む場合は、返済負担率を手取り収入の25%以内に抑える
・新NISAの年間投資枠(最大360万円)の有効活用を検討する
・iDeCoの掛金を可能な範囲で増額する
・保険の見直しを行い、過剰な保障を削減して投資資金を確保する
30代は「守り」と「攻め」のバランスが重要な時期です。目先の支出に追われず、長期的な視点で資産配分を考えましょう。
40代:老後が見え始めるラストスパート期
【現状】
40代は一般的に収入がピークに近づく時期ですが、教育費負担も最も重くなる年代です。同調査によると、40代2人以上世帯の金融資産中央値は250万円となっています。
【目標の考え方】
老後まで20年程度という時間軸を意識し、退職時点での目標資産額から逆算した積立計画を立てる必要があります。教育費のピークを乗り越えた後、急速に貯蓄ペースを上げることを見据えた計画が効果的でしょう。40代で1,000万円~1,500万円の金融資産を目指すことを一つの目安として考えられます。
【推奨される行動】
・老後の生活費をシミュレーションし、具体的な目標額を設定する
・子どもの教育費の終了時期を見据え、その後の積立増額計画を立てる
・住宅ローンの繰上返済と投資のバランスを検討する
・新NISAとiDeCoを最大限活用し、非課税枠をフル活用する
・年金見込額を「ねんきん定期便」で確認し、不足額を把握する
40代は「見える化」がカギとなります。漠然とした不安を具体的な数字に落とし込むことで、適切な行動につなげられます。
50代:退職金を見据えた最終調整期
【現状】
50代は子どもの独立により家計に余裕が生まれる一方、老後がより現実的な課題として迫ってくる時期です。同調査によると、50代2人以上世帯の金融資産中央値は350万円となっています。
【目標の考え方】
退職金の見込額を含めた総合的な資金計画を立てることが不可欠となります。金融庁の報告書によると、退職給付額は1997年の大学・大学院卒平均3,203万円から、2017年には平均1,997万円へと減少傾向にあります。退職金に過度に依存しない計画が必要でしょう。50代で2,000万円~3,000万円の金融資産を目標とすることが現実的な水準と考えられます。
【推奨される行動】
・退職金の見込額と受取時期を人事部門に確認する
・年金受給開始年齢(65歳)までの生活費を試算する
・60歳以降の働き方(再雇用、再就職、独立など)を検討する
・資産配分をリスク抑制型にシフトすることを検討する
・iDeCoの受取方法(一時金・年金・併用)について試算する
・医療費・介護費用の備えとして予備資金を確保する
50代は「出口戦略」を意識する時期です。資産を「貯める」段階から「守りながら使う」段階への移行準備を進めましょう。
各年代が活用すべき非課税制度(iDeCo、新NISA)

老後資金の準備には、税制優遇のある制度を最大限活用することが効率的です。2024年から大幅に拡充された新NISAと、私的年金制度であるiDeCoの特徴を理解し、年代に応じた活用法を検討しましょう。
新NISA(2024年~)の活用
新NISAは2024年1月から開始された少額投資非課税制度であり、運用益が非課税となる点が最大のメリットです。
【新NISAの主な特徴】
・年間投資枠:つみたて投資枠120万円+成長投資枠240万円=合計360万円
・非課税保有限度額:生涯で1,800万円(うち成長投資枠は1,200万円まで)
・非課税保有期間:無期限
・対象年齢:18歳以上
【年代別活用のポイント】
・20代・30代:つみたて投資枠を中心に、長期・分散投資を継続する。時間を味方につけ、積極的に株式型の投資信託を活用する選択も検討できる
・40代:つみたて投資枠と成長投資枠を併用し、資産形成を加速させる
・50代:リスク許容度に応じて資産配分を見直しながら、非課税メリットを活用する
iDeCo(個人型確定拠出年金)の活用
iDeCoは、掛金が全額所得控除となり、運用益も非課税、受取時にも税制優遇があるという「3つの税制メリット」を持つ制度です。
出典:政府広報オンライン「iDeCoがより活用しやすく!2024年12月法改正のポイントをわかりやすく解説」
【iDeCoの掛金上限(2024年12月制度改正後)】
・自営業者・フリーランス:月額6万8,000円(国民年金基金等との合算)
・会社員(企業年金なし):月額2万3,000円
・会社員(企業型DCのみ加入):月額2万円
・会社員(DB等の他制度加入):月額2万円(改正により1万2,000円から引き上げ)
・公務員:月額2万円(改正により1万2,000円から引き上げ)
・専業主婦(夫):月額2万3,000円
【年代別活用のポイント】
・20代・30代:所得控除による節税効果が長期間得られるため、可能な範囲で早期から加入を検討する
・40代:老後までの運用期間が20年程度あるため、積極的な運用も選択肢となる
・50代:受取時の課税に注意しながら、退職金との受取タイミングを調整する
なお、2025年度の税制改正では、iDeCoの加入可能年齢が70歳未満への引き上げや、拠出限度額のさらなる拡充が予定されています(2027年1月施行予定)。制度の動向にも注目しておきましょう。
年代別ロードマップ達成のための家計管理術

目標額を設定しても、実際に資金を捻出できなければ意味がありません。各年代で実践できる家計管理のポイントを押さえておきましょう。
支出の「見える化」を徹底する
家計簿アプリやクレジットカードの明細を活用し、何にいくら使っているかを把握することが第一歩です。特に固定費(住居費、保険料、通信費、サブスクリプションサービスなど)の見直しは、一度行えば継続的な効果が得られます。
先取り貯蓄を習慣化する
収入が入ったら、まず貯蓄・投資分を別口座に移す「先取り貯蓄」が効果的です。給与振込口座から自動で積立口座に振り替える設定をしておけば、意識せずに貯蓄が進みます。
ライフプランに応じた優先順位をつける
すべての目標を同時に達成しようとすると、どれも中途半端になりがちです。年代ごとに優先すべき項目を明確にしましょう。
・20代:緊急資金の確保 → 投資習慣の確立
・30代:住宅資金・教育資金の準備 → 老後資金の継続積立
・40代:教育費の確保 → 老後資金の積立加速
・50代:老後資金の最終調整 → 医療・介護費用の備え
定期的な見直しを行う
年に1回程度は、資産状況と目標達成の進捗を確認しましょう。ライフステージの変化(転職、結婚、出産、子どもの独立など)があった際は、計画の見直しが必要となります。
まとめ:自身の年代に合った戦略で老後資金の不安を解消
老後資金の準備は、一朝一夕で達成できるものではありません。しかし、各年代の特性を理解し、適切な目標設定と行動計画を立てることで、着実にゴールに近づくことができます。
【各年代のポイントまとめ】
・20代:金額より「習慣化」を重視し、時間を最大の武器にする
・30代:ライフイベントと老後資金のバランスを取りながら、貯蓄ペースを上げる
・40代:具体的な目標額を設定し、教育費終了後の増額を見据える
・50代:退職金を含めた総合的な計画を立て、出口戦略を意識する
新NISAやiDeCoといった税制優遇制度を活用しながら、無理のない範囲で計画的に資産形成を進めることが重要です。今日から一歩を踏み出すことが、将来の安心につながります。
本記事は、CFP資格保有者であり、J-FLEC認定アドバイザーの金子賢司が執筆しています。当記事の執筆者「金子賢司」の情報は、CFP検索システムおよびJ-FLECアドバイザー検索システムにてご確認いただけます。北海道エリアを指定して検索いただくとスムーズです。
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