iDeCo
NISAで増えた資産をiDeCoへ!賢く資金をシフトするタイミング

新NISAの非課税メリットを活かして資産形成を進めている方の中には、将来の老後資金を見据えて、NISAで増えた資産をiDeCo(個人型確定拠出年金)に回したいと考える方もいるかもしれません。iDeCoにはNISAにはない「掛金の所得控除」という強力な税制メリットがあるため、この資金シフトは非常に魅力的に映ります。
この記事では、NISAで得た資産をiDeCoへ賢くシフトするための概念を解説します。その際の税制上のメリットや注意点、老後資金に向けた効率的な資産移動の考え方まで、より具体的な事例とタイミングの指針を交えながら、あなたの資産形成をさらに最適化するためのヒントを提案します。
NISAで増えた資産をiDeCoへ:直接は不可、現金化して入金

まず、重要な点として、NISA口座で保有している資産をiDeCo口座へ直接移し替えることはできません。NISAとiDeCoは、それぞれ異なる法律に基づいて運営されている独立した制度だからです。
そのため、NISAで増えた資産をiDeCoに回したい場合は、以下の手順を踏む必要があります。
1.NISA口座で保有している商品を売却する。
2.売却で得た資金を、NISA口座を開設している証券会社や銀行の「証券総合口座(または一般の銀行口座)」に出金する。
3.その資金を、iDeCo口座の掛金引落口座として登録している金融機関の口座に入金する。
4.iDeCoの掛金を増額する、または一時金として入金する(iDeCoに一時金を直接入金する仕組みは通常ありません。掛金として積み立てるのが基本です)。
このように、一度NISAの非課税枠外で「現金化」してから、iDeCoの掛金として改めて拠出するという流れになります。
NISAからiDeCoへの資金シフトにおける税制メリットと注意点

NISAで得た利益をiDeCoに回す際には、税制上のメリットを最大化するための考慮点と、注意すべき点があります。
税制上のメリット:所得控除の獲得
掛金が全額所得控除になる: iDeCoの最大の税制メリットは、拠出した掛金がその年の所得から全額控除されることです。NISAで増えた資金をiDeCoの掛金に充てることで、この所得控除のメリットを享受できます。
・具体的な事例: 年収500万円(所得税率10%、住民税率10%)の会社員がNISAで100万円の利益を確定させ、その資金から年間24万円(月2万円)をiDeCoに拠出した場合を考えてみましょう。 年間24万円の拠出により、 所得税の軽減額:24万円 × 10% = 2.4万円 住民税の軽減額:24万円 × 10% = 2.4万円 年間合計で約4.8万円の節税効果が得られます。NISAで非課税になった利益が、iDeCoに回ることでさらに手取りを増やす効果を生むわけです。
税制上の注意点
1.NISAで利益を確定させる際の注意: NISA口座内の商品を売却して利益を確定させる場合、その利益自体は非課税です。しかし、もし売却時に含み損が出ていたとしても、NISA口座の損失は損益通算できません。損失を確定させてまでiDeCoに回すべきか、慎重に判断が必要です。
2.iDeCoの掛金上限に注意: iDeCoに拠出できる掛金には、職業や企業年金の有無によって年間上限額が定められています(例:会社員・企業年金なしの場合、現在の月2.3万円/年間27.6万円。2025年度税制改正で月6.2万円に引き上げ予定)。NISAで大きな利益が出たとしても、この上限額を超えてiDeCoに投入することはできません。
3.iDeCoの資金拘束と投資リスク: iDeCoに拠出した資金は、原則として60歳まで引き出すことができません。NISAで得た資金の柔軟性(いつでも引き出せる)を失うことになるため、本当に老後資金として固定しても問題ないか、十分に検討が必要です。また、iDeCoで投資信託を選択した場合、運用次第では元本割れのリスクもあります。
4.売却後のNISA非課税枠の復活: 新NISAでは、売却した投資元本分の非課税枠が翌年以降に復活します。この復活した枠をiDeCoへの拠出に回すか、それとも再びNISAで運用し直すか、戦略的に判断することが重要です。
5.iDeCo制度変更リスク: iDeCo制度は、税制や受け取りルールが将来的に変更される可能性があります。例えば、2026年1月からは、iDeCoの一時金と退職金の受け取り間隔ルールが「5年」から「10年」に変更される予定など、過去にも制度改正が行われてきました。このような制度変更のリスクも理解しておく必要があります。
老後資金に向けた効率的な資産移動の考え方

NISAで増えた資産をiDeCoへシフトすることは、老後資金準備において非常に有効な戦略となり得ます。
iDeCoの枠を優先的に埋める考え方
現役時代は、iDeCoの「掛金全額所得控除」というメリットを最大限に活かすため、自身の掛金上限額までiDeCoの枠を優先的に埋めるのが基本的な考え方です。NISAで得た利益を、このiDeCoの掛金に充てることで、その税制メリットを「二度おいしく」享受できます。
NISAは「柔軟な老後資金+α」の役割
iDeCoで確実に老後資金のコア部分を形成しつつ、NISAはそれ以外の「柔軟性を持たせた老後資金」や、教育資金・住宅資金など「他のライフイベント資金」として活用しましょう。NISAで増えた資産の一部をiDeCoに回すことで、NISAで得た利益からさらに所得控除という節税メリットを得られます。
資金シフトの「タイミング」を戦略的に見極める
NISAからiDeCoへ資金をシフトする最適なタイミングは、あなたの状況や市場によって異なります。
・年間拠出上限を意識した年末調整前: iDeCoの掛金は、その年の年末調整や確定申告で所得控除されます。そのため、年間のiDeCo掛金上限額を使い切れていない場合は、年末調整前(通常11月頃まで)に掛金を増額したり、まとめて拠出したりするタイミングで、NISAからの資金シフトを検討しましょう。
・NISA枠復活との兼ね合い: 新NISAの年間投資枠は360万円、生涯枠は1,800万円です。NISAで利益を確定させ、売却によって翌年復活する非課税枠を有効活用しながら、iDeCoへの拠出資金を捻出するサイクルを構築することも可能です。
・市況を考慮する: NISAで保有している資産が大きく含み益を抱えている時や、市場全体が過熱気味で一旦利益確定をしておきたい時など、市場の状況を見て売却・シフトのタイミングを検討することも有効です。ただし、市場の予測は難しいため、過度な売買は避けましょう。
・収入増加時やライフステージの変化時: 収入が増え、iDeCoの掛金を増額できるようになったタイミングや、子どもの独立などで家計に余裕ができた際に、NISAからの資金シフトを検討するのも良いでしょう。
ポートフォリオ全体で最適なバランスを考える
NISAとiDeCoはそれぞれ特性が異なります。
・iDeCo: 原則60歳まで引き出せないため、よりリスクを取りやすい(株式比率を高める)運用も可能です。
・NISA: 柔軟性があるため、比較的リスクを抑えた商品も組み合わせるなど、ライフプランに合わせた調整が可能です。
両者を合わせたポートフォリオ全体で、あなたのリスク許容度や老後までの期間に合わせた最適な資産配分を考えることが重要です。
まとめ:NISAとiDeCoの連携で老後資金を最適化
NISAで増えた資産をiDeCoへシフトすることは、直接移すことはできませんが、現金化して掛金として拠出することで、iDeCoの「掛金全額所得控除」という大きな税制メリットを享受できる非常に有効な戦略です。
NISAの非課税メリットと、iDeCoの節税メリットを組み合わせることで、あなたの老後資金準備をさらに加速させることができます。資産の柔軟性と税制メリットのバランスを考慮し、賢く資金をシフトするタイミングを見極めることで、効率的に豊かな老後を築いていきましょう。
本記事は、CFP資格保有者であり、J-FLEC認定アドバイザーの金子賢司が執筆しています