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iDeCoは退職金代わりになる?退職金がない場合の老後資金戦略

「退職金が少ない場合、iDeCoだけで老後資金って本当に足りるの?」
多くの会社員にとって、退職金は老後資金の大きな柱の一つです。しかし、近年は退職金制度がない会社も増えており、退職金が期待できない、あるいは少額であるために、老後資金に不安を感じている方もいるかもしれません。
ご安心ください。iDeCo(個人型確定拠出年金)は、このような方々にとって、まさに「退職金の代わり」として、あるいはそれを補完する強力な老後資金準備の手段となり得ます。税制優遇を受けながら、自分で計画的に退職金のようなまとまった資金を形成できるからです。
この記事では、退職金がない(少ない)人にとってのiDeCoの重要性を解説します。iDeCoを退職金として活用する際の目標額設定や、退職所得控除との関係まで、退職金がない場合にiDeCoで安心できる老後を築くための具体的な戦略を提案します。
退職金がない(少ない)人にとってのiDeCoの重要性

退職金制度がない、あるいは少額の退職金しか見込めない場合、老後資金の準備はすべて自分自身の肩にかかります。iDeCoは、その自助努力を強力に後押しする存在です。
公的年金だけでは不足する老後資金
公的年金(国民年金や厚生年金)だけでは、ゆとりある老後生活を送るには不足すると言われています。多くの会社員は、この不足分を退職金や個人の貯蓄・投資で補うことを想定しています。退職金が期待できない場合、その穴埋めを別の方法で行う必要があります。
iDeCoは「自分で作る退職金」
iDeCoは、毎月掛金を積み立て、自分で選んだ金融商品で運用し、原則60歳以降に年金または一時金として受け取れる制度です。特に一時金として受け取る場合は、会社からの退職金と同じ「退職所得」として扱われ、税制優遇(退職所得控除)が適用されるため、「自分で作る退職金」という位置づけで活用できます。
強力な税制メリットで効率的に準備
・掛金が全額所得控除: 毎月の掛金が所得税・住民税の計算から全額差し引かれ、現役時代の税金が軽減されます。退職金がない分、この節税メリットで手取りを増やし、掛金に回す資金を確保しやすくなります。
・運用益が非課税: 運用中に得た利益(運用益)が非課税になるため、効率的に資産を増やし、複利効果を最大限に享受できます。
・受け取り時も税制優遇: 受け取り時にも退職所得控除が適用されるため、税負担を大幅に抑えられます。
このように、iDeCoは税制面で非常に優遇されており、退職金がない人にとって、老後資金を効率的に形成するための欠かせないツールと言えるでしょう。
iDeCoを退職金として活用する際の目標額設定

iDeCoを退職金として活用する場合、まずは「いくら準備したいか」という具体的な目標額を設定することが重要です。
退職金がない場合の「老後必要資金」を試算する
・老後の生活費の把握: 夫婦や単身の生活費の目安を参考に、ご自身が望む老後の生活レベルで、毎月いくら必要になるかを試算しましょう。
・公的年金の受給見込み額を確認: ねんきん定期便などで、将来受け取れる公的年金の見込み額を確認します。
・不足額を算出: 必要な生活費から公的年金を差し引き、退職後の不足額を計算します。この不足額を、iDeCoやNISA、貯蓄などで準備することになります。
【例】老後に必要な資金が5,000万円で、公的年金や他の貯蓄で3,000万円はまかなえそうなら、iDeCoで2,000万円を目標にするといった考え方です。
iDeCoの掛金上限から逆算する
iDeCoで準備できる金額は、ご自身の掛金上限額と運用期間によって決まります。
・会社員(企業年金なし): 現在の掛金上限は月額2.3万円(年間27.6万円)ですが、2025年度の税制改正大綱では月額6.2万円(年間74.4万円)への大幅引き上げが予定されています。この上限を最大限活用できると、より大きな資産を築けます。
シミュレーション例:
・20代(25歳)から35年間運用: 月額2.3万円拠出(年率5%)で、約2,613万円の資産形成が見込めます。
・30代(35歳)から25年間運用: 月額2.3万円拠出(年率5%)で、約1,370万円の資産形成が見込めます。
・40代(45歳)から15年間運用: 月額6.2万円拠出(年率5%)できれば、約1,657万円の資産形成が見込めます。
金融庁 つみたてシミュレーターで算出
このように、iDeCoだけでも、計画的に積み立てれば、数千万円規模の資産を形成し、退職金の代わりとすることが十分に可能です。
退職所得控除との関係:受け取り時の税制優遇

iDeCoを「自分で作る退職金」として活用する上で、最も重要なのが「退職所得控除」です。
退職所得控除の仕組み
iDeCoの資産を一時金で受け取る場合、会社から受け取る退職金と同じ「退職所得」として扱われます。この退職所得には、勤続年数(iDeCoの加入期間)に応じた大きな控除額が設定されており、控除額の範囲内であれば税金がかかりません。
・勤続年数20年以下: 40万円 × 勤続年数(最低80万円)
・勤続年数20年超: 800万円 + 70万円 × (勤続年数 − 20年)
国税庁 No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)
例えば、iDeCo加入期間が30年あれば、退職所得控除額は800万円 + 70万円 × (30年 − 20年) = 1,500万円になります。もしiDeCoの一時金が1,500万円以下であれば、税金はかからないという計算です。
会社からの退職金がある場合の注意点
もし会社からの退職金が少額であっても、iDeCoの一時金と合算して退職所得控除額が計算されます。この際、退職金を受け取ってからiDeCoの一時金を受け取るまでに一定期間(現行5年、2026年1月からは10年)を空けることで、それぞれが独立した退職所得控除枠を利用できる可能性があります。
賢い受け取り戦略: 会社からの退職金とiDeCoの一時金の合計額が退職所得控除額を超えそうな場合、一時金の受け取り時期をずらすことで、税負担を軽減できる可能性があります。詳細は税理士などの専門家にご相談ください。
「運用益非課税」との二重のメリット
iDeCoで資産を運用している間は、運用益が非課税です。そして、受け取り時には退職所得控除が適用される。この二重の税制優遇により、税金に悩まされることなく、効率的に老後資金を準備し、受け取ることが可能です。
まとめ:iDeCoで「もう一つの退職金」を築こう
退職金がない、あるいは少ない場合でも、iDeCo(個人型確定拠出年金)を賢く活用すれば、老後資金の不安を解消し、安心してセカンドライフを迎えるための「もう一つの退職金」を自ら築くことができます。
・iDeCoの重要性: 公的年金だけでは不足する老後資金を補う、税制優遇付きの「自分年金」として活用しましょう。
・目標額の設定と掛金最大化: 必要な老後資金を試算し、ご自身のiDeCo掛金上限額(特に将来の引き上げも視野に)を最大限に活用して積み立てましょう。
・退職所得控除の活用: 一時金で受け取る際は、退職所得控除の仕組みを理解し、税負担を最小限に抑える受け取り方を検討しましょう。
40代からでも「ラストスパート」をかけられるのがiDeCoの魅力です。ぜひ今日からiDeCoを始めて、あなたの退職金となる資産形成を着実に進めていきましょう。
本記事は、CFP資格保有者であり、J-FLEC認定アドバイザーの金子賢司が執筆しています