iDeCo
iDeCoとNISA、どっちを優先すべき?併用で叶える賢い老後資金戦略

iDeCo(個人型確定拠出年金)とNISA(少額投資非課税制度)は、どちらも老後資金をはじめとする資産形成に役立つ、国が用意した税制優遇制度です。非課税の恩恵が受けられる点で共通していますが、その仕組みや目的、資金の柔軟性には大きな違いがあります。
この記事では、iDeCoとNISAのそれぞれの制度目的、税制優遇、資金拘束などの違いを徹底比較します。そして、あなたのライフステージや収入、投資目的に合わせて、どちらを優先すべきか、あるいは両方を併用すべきかの判断基準を詳しく解説。iDeCoとNISAを賢く組み合わせることで、効率的に老後資金を準備するための具体的な資産形成シミュレーションも提示し、あなたの未来の安心をサポートします。
iDeCoとNISA、ここが違う!制度の基本比較

iDeCoとNISAは「非課税で資産を増やせる」という共通点がありますが、根本的な目的や仕組みが異なります。
制度目的と資金の柔軟性
iDeCo(老後資金に特化):
・目的: 個人の努力で老後資金を準備すること。原則60歳まで引き出しができない資金拘束があります。
・柔軟性: 低い(老後資金以外には使えない)
NISA(幅広い資産形成):
・目的: 広く国民の資産形成を後押しすること。原則としていつでも引き出し可能で、教育資金、住宅資金、老後資金など多様な目的に使えます。
・柔軟性: 高い
税制優遇の仕組み
iDeCo: 「拠出時」「運用時」「受け取り時」の3段階で税制優遇が受けられます。
1.掛金が全額所得控除: 毎月の掛金が所得税・住民税の計算から差し引かれるため、現役時代の税金が軽減されます。これがiDeCo最大のメリットです。
2.運用益が非課税: 運用中に得た利益(利息、配当金、売却益など)に税金がかかりません。
3.受け取り時も控除: 老齢給付金を受け取る際にも、一時金なら退職所得控除、年金なら公的年金等控除が適用されます。
NISA: 「運用時」に非課税優遇が受けられます。
運用益が非課税: NISA口座内で運用中に得た利益に税金がかかりません。
年間投資上限額と非課税枠の概念
iDeCo:
・年間拠出上限額: 職業や企業年金の有無によって異なり、現在の制度では月額1.2万円〜6.8万円です。2025年度の税制改正大綱では、企業年金のない会社員の上限が月額2.3万円から6.2万円への大幅引き上げが予定されています。
・非課税枠の概念: 掛金が所得控除になるため、掛金そのものが非課税投資の「枠」となります。運用益は無期限で非課税です。
NISA:
・年間投資上限額: 合計360万円(つみたて投資枠120万円+成長投資枠240万円)です。
・生涯非課税保有限度額: 生涯で投資できる元本が1,800万円と定められています。運用益は無期限で非課税です。売却すれば枠が復活します。
どちらを優先すべき?併用すべき?判断基準

iDeCoとNISA、どちらから始めるべきか、あるいはどのように併用すべきかは、あなたのライフステージ、収入、投資目的によって最適な答えが異なります。
所得税・住民税を積極的に減らしたいなら「iDeCo優先」
・こんな人: 会社員、公務員、自営業者など、所得税や住民税を支払っている方。
・理由: iDeCoの掛金が全額所得控除になるメリットは、確実な節税効果を生みます。年収が高く、所得税率が高い人ほど、iDeCoの節税効果は大きくなります。
・補足: 2024年12月からは、公務員を含む会社員・公務員で確定給付型の他制度とiDeCoを併用する場合の拠出限度額が月額1.2万円から2万円に引き上げられています。これにより、より多くの所得控除メリットを享受できるようになりました。
資金の柔軟性を重視するなら「NISA優先」
・こんな人: 老後資金だけでなく、教育資金や住宅購入資金など、将来使うかもしれない資金も非課税で貯めたい方。あるいは、原則60歳まで引き出せない資金拘束に抵抗がある方。
・理由: NISAは、非課税で運用しながらも、必要な時にいつでも売却して資金を引き出せます。売却しても非課税枠が翌年復活するため、柔軟な資産活用が可能です。
どちらも該当するなら「両方併用」が最も効果的!
・こんな人: 所得税・住民税を支払っており、かつ将来の様々なライフイベントに備えつつ、老後資金も確実に準備したい方。
・理由: iDeCoの「現役時代の節税効果」と「老後資金の確実な確保」、NISAの「非課税での柔軟な資産形成」という、それぞれの強みを組み合わせることで、相乗効果で資産形成を加速できます。これが「最強の老後資金戦略」と言われるゆえんです。
iDeCoとNISAを組み合わせた具体的な資産形成シミュレーション

ここでは、iDeCoとNISAを併用した場合の資産形成効果を見ていきましょう。
【シミュレーションの前提】
・年齢:30歳
・老後目標年齢:60歳(運用期間30年)
・年収:500万円(所得税率10%、住民税率10%とする)
・運用利回り:年率5%(税引前、あくまで試算であり、将来を保証するものではありません)
・iDeCo掛金:月額2.3万円(年間27.6万円、会社員・企業年金なしのケース)
・NISA積立額:月額10万円(年間120万円、つみたて投資枠を想定)
iDeCo単独で運用した場合
・年間拠出額:27.6万円
・年間節税額(所得控除): 27.6万円 × (10% + 10%) = 5万5,200円
・30年後の資産額(税引前、運用益非課税): 約1,920万円
NISA単独で運用した場合
・年間積立額:120万円
・30年後の資産額(運用益非課税): 約8,300万円
iDeCoとNISAを併用して運用した場合
・年間投資総額:27.6万円(iDeCo)+120万円(NISA)=147.6万円
・年間節税額(iDeCoによる所得控除): 5万5,200円(これはiDeCo単独と同じ)
・30年後の資産額(運用益非課税、合計):
iDeCo資産: 約1,920万円+NISA資産: 約8,300万円= 約10,220万円
このシミュレーションからわかるように、iDeCoとNISAを併用することで、単独で利用するよりも圧倒的に大きな資産を築ける可能性が高まります。特にiDeCoの「掛金控除」は、NISAにはない直接的な節税メリットであり、現役時代の手取りを増やしながら老後資金を準備できる点が大きな魅力です。
重要な補足情報:今後のiDeCo制度変更点(2025年度税制改正大綱含む)

iDeCo制度は、より多くの人が老後資金を準備しやすいように、今後も変更が予定されています。これらの情報は現時点での「予定」であり、今後の政府の発表にご注意ください。
加入可能年齢の拡大(予定): 現行の65歳未満までとなっているiDeCoの加入可能年齢が、2025年度の税制改正大綱では70歳未満へ引き上げられる予定です。これにより、より長く掛金を拠
し、老後資金を形成できるようになります。
2.手続きの簡素化: これまで会社員・公務員のiDeCo加入時に必要だった勤務先の「事業主の証明書」が、2024年12月以降、原則不要となりました。これにより、iDeCoの申し込み手続きが簡素され、オンラインでの手続きもよりスムーズになっています。
3.受け取り時のルール変更(予定): iDeCoの一時金と退職金を受け取る際の、退職所得控除の適用にかかる「受け取り間隔ルール」が、2026年1月から「5年」から「10年」に変更される予定です。これにより、退職金とiDeCoの一時金をそれぞれ税制優遇された形で受け取りやすくなり、税負担をさらに軽減できる可能性が高まります。
まとめ:iDeCoとNISAは「目的」で使い分け、「併用」で加速させる
iDeCoとNISAは、それぞれ異なる強みを持つ税制優遇制度です。
・iDeCo: 老後資金を「確実に」「節税しながら」作りたい方に最適。
・NISA: 資金の「柔軟性」を保ちつつ、「幅広い目的」で非課税投資をしたい方に最適。
どちらを優先するかは、あなたの「現在の収入状況」と「老後資金以外の資金ニーズの有無」で判断しましょう。
・所得税・住民税を支払っている: まずはiDeCoを優先的に始めることを検討。
・資金の柔軟性も欲しい・他の資金ニーズもある: NISAから始めるか、iDeCoとNISAを同時に始めることを検討。
最終的には、両方を併用することが、現役時代の節税メリットと、将来の非課税での資産形成を最大化する「最強の老後資金戦略」となります。あなたのライフプランに合わせ、iDeCoとNISAを賢く使い分け、豊かな未来を築いていきましょう。
本記事は、CFP資格保有者であり、J-FLEC認定アドバイザーの金子賢司が執筆しています